もがれる翼 part12
時間取れました……
という事で急遽投稿です!
自分たちがAランクパーティになれたのは、他人の力のおかげである。その宣告はドヴォルにとって耐えがたいものであった。
「てっ……めぇ! 舐めた事抜かしてんじゃねぇぞ!」
当然のように反論するドヴォル。自分はあの栄光の翼の一員にして最強の男。それは紛れもない事実で自分の力があったからこそ、栄光の翼はAランクまで上り詰める事ができた。
「あの無能のおかげ!? そんな事あり得ねぇんだよ!」
それが本当はまやかしで、自分たちがこれまで散々蔑んできた、あのどうしようもない無能のゴミの屑が本当は実力者であったなどと信じる事ができずにいた。
「と言われましても……。今のこの現状が全てを物語っていると思いますが……。おい、そこの」
イグナードがローブを纏っている者の一人に声をかける。
「そこの彼は、Aランクパーティでやっていけるほどの実力があると思いますか?」
イグナードが質問を投げかける。しかし当の本人は無口なのか、あえて口を開かないのかは不明だが、質問に対し答えを返そうとしない。
「これは命令です。正直に答えなさい。この男はAランクパーティに見合う実力者ですか?」
「……かと」
ボソッと何かを呟く素振りを取るが、当然何を言っているか聞こえない。
「もっと大きな声で。コミュニケーションは大切ですよ」
「……失礼ながら。この男がAランクパーティの一員などありえないかと」
声を発した人物は男性だった。イグナードに命令され、周りにいる者が聞こえるくらいの音量で声を発した。そしてその内容はイグナードが予想していた通り、ドヴォルが予想していなかった返答であった。
「ではギルドのランクに見立てれば、どれくらいの強さに見えますか? あなたから見ての判断で構いません」
「……せいぜいDランク。盛ってCランクかと」
ドヴォルの実力はDランク相当、もしくはかろうじてCランク相当ではないか。ローブを纏った男はこれまでのやり取りでそう判断したのだ。
「ふ……ふ……」
ドヴォルがプルプルと体を震わせる。
「ふざけんじゃねぇぞ! カス共が!」
怒りの形相を浮かべ、大声で叫ぶ。
「この俺が!? このドヴォル様がDランクだと!? 舐めやがって! 絶対に許さねぇ!」
栄光の翼の一員にして最強である自分が過小評価された事で、ドヴォルの怒りは完全に限界を超える。その目は獰猛な獣と同じような目つきとなってしまっている。拘束されているため、今こそその場でもがくだけとなっているが、解き放とうものなら、すぐにでも暴れ狂う勢いである。
「この俺様にこんな真似をしてくれたんだ! 一人残らず……ぐほぉぁ!」
だが逆に言えば拘束されてしまっている以上、どうしようもないというのがドヴォルの現状だ。口うるさく暴れまわる事に苛立ったのか、ローブを纏っている者の一人によって腹を蹴られ、口から呻き声を出す。
「あまり乱暴してはいけませんよ。彼は我々の貴重な資金源なんですから」
イグナードが手をスッとかざし、制止するよう。
「まぁこうなってしまってはあなた様が何ランクであろうともうどうでもいいでしょう」
「クソが! 絶対に潰してやる!」
「そうおっしゃらず。運が良ければ解放されるかもしれませんし」
イグナードがニコリと笑みを浮かべる。顔こそ笑っているが、目は笑っていない。その表情はとんでもない事を考えている人間のそれであった。
「まずは栄光の翼のリーダー、フォール様と交渉します。そこで我々が指定する金額を払っていただければ、あなた様を解放しましょう」
ここにきてイグナードが解放の条件をドヴォルに伝える。金さえ払えば解放する。そう言っているのだ。
「はっ! 金ならいくらでもある! フォールなら」
「ただし万が一、栄光の翼の方々が支払いを拒否された場合、あなた様にはその立派な"体"を使って返済して頂きますので」
笑顔のままイグナードが言葉を続ける。
「栄光の翼の肩書はもちろん利用するとして……実力はともかく体つきは立派なものです。肉体労働をそこそこできそうですし、"その筋"の方にも気に入ってもらえそうですね」
イグナードがクククと笑う。
「病気もなく健康そうですし……。万が一引き取り手が無くても、そちらの方面でも有効活用できそうですね」
表情こそ笑顔そのままだが、その表情は冷たく、見る者を震えさえる何かがあった。ローブを纏った者たちですらその表情を見て息を飲む。
「さて、それでは改めてよろしくお願いします。栄光の翼のドヴォル様」
栄光の翼の肩書を使い好き勝手やってきたドヴォルであったが、拘束され自由を奪われる事となった。まるで翼をもがれた鳥のように。
今回でドヴォル編終了です
まだ色々と残っている部分はありますが栄光の翼視点は一旦終わり
明日からは主人公のヒューゴ視点に戻ります
日常回予定