もがれる翼 part10
コ〇ナやばすぎ
突然現れた謎の男。それに加えいきなりの借金返済の催促。様々な情報がドヴォルの頭に入り込んでくる。
「ふっ……」
ドヴォルは頭の中でその情報を整理できずにいた。だがそれでも、自分の中で、相手に向かって言わないといけない言葉があった。
「ふざけてんじゃねぇぞ!」
どこの誰も分からない存在に返済の催促をするよう言われる覚えなどない。考えるよりも先に怒りの感情がドヴォルの中で湧き上がった。
「おや? 言葉が通じませんでしたかな? それとも冗談……と思われているとか?」
「借金だぁ? んなもん俺には一切ねぇんだよ!」
グイっとイグナードと名乗る男の前に顔を近づけ、怒りの表情を浮かべながら睨みつける。
「そう言われましても……。ツケと言い張って料金を一切支払わない。あなた様はそういう人物であると言っている方が何人もいらっしゃるのですよ」
「おいおい、そんな話俺は聞いた事ねぇぜ。俺は相手からの"善意"による"奉仕"を受け取ってるだけだ」
自分は借金などしていない。それがドヴォルの言い分であった。自分はあの栄光の翼の一員にして最強の男。支払いの際のツケというのはあくまで建前で、あれくらいの"サービス"は受け取って当たり前であると考えていた。
「奉仕……でございますか」
「おうよ。この俺はあの栄光の翼の最強の男だぜ? それくらいの接待を受けて当然だろうよ。まぁそこらの雑魚には理解できないだろうがな」
実際に多くの者が自分にこびへつらう姿を見せてくる。酒場にいた取り巻きたちや町の住民たちも自分の事を崇め敬っているのだ。普通ならありえない事なのだが、自分であればそれは許されるのだ。
「まぁてめぇもこの"高み"に来れば分かるだろうよ。最強の男に与えられる"特権"ってのがな」
そう言いつつドヴォルがイグナードの肩にポンっと手を置く。
「さてと……。じゃあ俺は帰るぜ。まぁ次会った時は酒の一杯くらい奢ってやるよ」
別れの挨拶をし、ドヴォルがその場を立ち去ろうとする。
「くくく……くはははははは!」
大声が辺り一帯に響き渡る。それはイグナードの笑い声であった。突然相手が笑い出した事に驚いたドヴォルが足を止める。
「これは失礼。あまりにも可笑しくてね」
くくくと笑いながらイグナードが言葉を続ける。
「まさかこれほど頭の緩い方がいらっしゃるとは……。それもあの栄光の翼の一員に……くくく」
「……今何て言った?」
笑いを堪えようとするが抑えられず笑うイグナードに対し、ドヴォルはピキッとこめかみに青筋を浮かべる。
「また聞こえませんでしたかな? まさかあの栄光の翼の一員にこのような"アホ"な方がいるとは思いもしなかったと言っているのですよ」
ドヴォルの表情がみるみると変わっていくが、それを気にも留めずイグナードは笑い続ける。
「なるほど……どうやら痛い目に合いてぇようだな。馬鹿な奴だ。せっかく酒を奢ってやろうと思ったのによ」
「それは結構。何せ酒代以上の金額を頂ける予定ですから」
ドヴォルがポキポキと指を鳴らす。一方でイグナードはその様子を目にしても余裕の表情を崩さずにいた。
「しかしこれほど頭の悪い方がいらっしゃるとは。それもあの栄光の翼の一員に。やはり人というのは噂だけで判断するのではなく実際に会ってみないと分からないものですねぇ。また一つ勉強になりましたよ」
「言いてぇ事はそれだけか? 勉強してぇなら俺が直々に教育してやるよ!」
ドヴォルはイグナードの顔を目掛けて拳を振るう。手加減抜きの本気の一撃。しかしその攻撃はひょいっとあっさり避けられてしまう。
「それも結構。不出来なあなた様から学ぶ事は何一つありませんので」
ドヴォルの攻撃を避けたイグナードは手に力を込める。すると一つの火球がポッと現れる。
「では私からも一つ」
そして火球を出現させたまま、手の平をドヴォルに向ける。
「借りた物はキチンと返すように。大人として当然ですよ?」
その言葉と同時にドヴォルがいる方に向かって火球が放たれた。