もがれる翼 part9
ドヴォル編もいよいよ佳境
皆様もう少しお付き合いください
突如現れた帽子をかぶった謎の男。その男の攻撃によってドヴォルは救われる事となった。
「何だてめぇ!」
救われたとはいえ、いきなり見知らぬ男が自分の前に現れたのだ。ドヴォルは警戒しつつ睨みつける。
「おぉぉー。そんなに睨まないで下さいよ。騎士団の方々に襲われている所をお助けしたのですから。むしろ感謝すらして欲しいくらいですよ」
睨みつけてくるドヴォルを気にも留めず、男は飄々とした声で話す。
「はっ! 俺様はあの栄光の翼のドヴォル様だぜ。てめぇの助けなんざ必要なかったんだよ!」
「どうやら逆に邪魔をしてしまったようですね。これは失礼」
「けっ! 分かればいいんだよ! 分かれば!」
お辞儀をする男に対し悪態をつくドヴォル。しかし男はドヴォルの言葉を聞いて、怒るどころか笑みすら浮かべていた。
「しかしこのままだと相手の増援が来る可能性があります。一度人気のない所に避難すべきでは?」
「それぐらい分かってら! さっさと避難するぞ!」
「了解しました。それでは私が先導しましょう。その手ですと動きづらいでしょうから」
こうしてドヴォルは突然現れた男と共に、一度人気の少ない所に身を隠す事にした。
「ご苦労様です。ここまで来れば彼らも簡単には見つけられないでしょう」
「ぜぇぜぇ……無駄に……走らせやがって」
ドヴォルたちがたどり着いた場所は町の裏路地。普通の住人ならまず立ち寄らないところであった。
「この場所は町の衛兵たちも滅多に立ち寄らないと聞きました。ここなら騎士団の彼らにもそう簡単には見つからないでしょう」
「胡散くせぇ見た目の割りに、気が利くじゃねぇか」
確かにここなら身を隠すにはうってつけだ。少々気が荒い者たちもいるが、自分であれば簡単にねじ伏せられるような雑魚ばかり。まさしく今の自分にとってふさわしい場所だ。
「んでてめぇは何者だ? 何故俺を助けた?」
「これは失礼。まだ自己紹介をしてませんでしたね」
男は帽子をスッと外す。
「私の名はイグナード。どうぞお見知りおきを」
イグナードと名乗った男は帽子を手にお辞儀の動作を取り、挨拶を行った。
「あなた様を助けたのはあるお願いがあったからですよ。栄光の翼のドヴォル様」
「さすがに俺の名前は知っているようだな」
名乗るまでもなく、イグナードは自身の名前を知っていた。やはり栄光の翼という名前はそうとう知れ渡っているようだ。ましてや自分はその栄光の翼において最強の男なのだ。むしろ知らないという人物の方が少ないだろう。
「もちろんですよ。これから私にとって大切なお客様になりますから」
「はっ! 大方俺様に取り入りたいって所だろ? 子分くらいにならしてやってもいいぜ!」
栄光の翼最強の男。この肩書につられ、今でも多くの者が自分にあやかろうとしてくる。女は当然、同じギルドメンバーの者ですら自分を敬い、崇めてくる。この男もその類の人間に違いないとドヴォルは考えていた。
「この私が子分に何てとても。ドヴォル様にはもっと大切な相談があるのですよ」
「大切な相談?」
「えぇ……」
イグナードは懐からある者を取り出す。それは一枚の紙切れであった。
「今あなた様が抱えている借金。私の方にて一本化させて頂こうかと思いまして」
「そうか俺の子分に……」
「おめでとうございます。これにてあなたも"お客様"の一員。ぜひ御贔屓にして頂ければ」
男の言葉を聞き、ドヴォルの思考が停止する。借金? 一本化? 飛び交う単語を理解する事ができない。
「娼館に酒場。武器や防具を取り扱う店。他にも色々。よくもまぁこれだけの店から借金できましたねぇ。我ながら尊敬しますよ。金遣いの粗さもさすがは栄光の翼といった所でしょうか」
それでも何とか頭を動かして考える。必死でドヴォルは考えていた。
「あっそうそう。今回私が仲介させて頂いていますのでその分の代金も頂きますので。何卒ご了承ください」
ここに来て目の前男が何者か理解する。
「では返済して頂けますかな?」
相手は借金取りであった。