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もがれる翼 part5

寒さと風がヤバい


「くぅぁぁぁー!」


辺り一帯に声が響き渡る。それは一人の男が目覚めた時に発した欠伸によって発せられた声であった。


「んあ? 知らねぇ間に寝ちまったようだな」


栄光の翼所属のドヴォルが気だるそうに起き上がる。前日に酒を何杯か飲んでからの記憶があいまいだ。窓の外を見ると日が昇っている。どうやら昼時まで眠ってしまっていたようだ。


「見知らぬ部屋だが……。はっ! あいつらちゃんと言った通りにしたって事か」


昨日寝泊まりした部屋とは違う光景。おそらく、昨日一緒に酒を飲んでいた男たちが自分をここまで運んだのだろう。以前は自分を放置して真っ先に帰る者がいたが、そういった者には身を以って罰を与えていた。その甲斐もあってか、自分に付き従う者たちは自身が望む通りの行動を取るよう意識づけられる事となった。


「まああいつらも実力は大した事ねぇが、あの無能に比べたら最低限の仕事をするだけましだな。俺はあの栄光の翼の中で最強の存在。他の奴らは俺の言う事だけ聞いてりゃいいんだ」


Aランクパーティの栄光の翼。リーダーこそフォールにやらせているが、実力は自分が一番上であると自負している。他の奴らは全て下郎。自分の言う事だけ聞いていればいい存在でしかないのだ。


「そんな俺様に歯向かったんだ。あの無能も、あの女騎士や刀使いの女も全員ただじゃ済まさねぇ」


次の標的は決まっている。まずあの無能は徹底的に叩きのめし、無様な姿で命乞いをさせる。女どもは自身の力でねじ伏せ、心も体も完全に屈服させ、自分がいないと生きていけない体にしてやる。そんな思いをドヴォルは胸に抱いていた。


「となりゃまずは武器を新調しねぇとな。あの野郎、不良品を寄越しやがって。ただじゃおかねぇ!」


ワイバーンの変異種との戦いによって斧を破損し、新品に買い替えたが、それもあの刀使いの女に壊されてしまった。たかが"あの程度"の攻撃で壊れるなど、誰がどう見ても不良品。出来損ないを渡した武器屋の店主にもそれなりの礼をしなければならない。


「それと鎧もだな。この俺様にあんな恥をかかせた事、絶対後悔させてやらぁ!」


ギルドで揉めた際に斧だけでなく鎧まで壊され、シャツ一枚、パンツ一枚だけの姿を晒す事になった。予備の服を持っていたため、ギルドから帰ってくる際はそのみっともない姿を晒す事にはならなかったが、ギルド内では醜態を晒してしまったのだ。


「さぁーて。それじゃあ行くとするか」


ドヴォルは装備を整えるために、宿を出発し武器屋に向かう事にした。当然宿代はツケ。栄光の翼の名前を使って無理やり支払いを先延ばしにさせた。



「いらっしゃ……」

「よお、元気そうだな?」


まず訪れたのは武器屋だ。ドヴォルの姿を見た店主の男が驚きの表情を浮かべている。


「その顔、どうやら心当たりはあるようだな……」

「……今日は何の用で?」

「っ!? てめぇ! ふざけてんじゃねぇぞ!」


ガンッとドヴォルが目の前にある机に向かって腕を大きく振るって殴りつける。しかしその様子を見ても店主の男は顔色変えずにいた。


「てめぇのとこで買った斧。とんでもねぇ粗悪品だったんだよ。そのせいで"勝てる勝負"に負けちまってよ。どう落とし前つけてくれるんだ?」

「落とし前……とは?」

「あれよりもいい奴があるんだろ? それを寄越せって言ってんだよ!」


再びガンッと机を殴るドヴォル。要は自分が購入した斧が不良品だったから、それよりも品の良いものを提供しろと言っているのだ。それも無料で。


「悪いがこっちも商売なんでね。いくら何でも無料で渡す訳にはいかないな」

「あ!? 誰に向かって物言ってやがる!? いつもの愛想笑いはどうしたよ?」


いつもならこの店主の男は、こちらの気を損ねないように、愛想良く振舞っていた。しかし今日はいつになく強気であった。


「はっ! もうあんたに気を遣う必要はないってこった」

「何だと!?」

「噂で聞いたぜ! あんたら栄光の翼は謹慎処分を受けたんだってな! しかも裏で領主様と悪い事やってたんだって? こう言っちゃ悪いが、いくらAランクパーティだろうともう終わりだろうよ」


その言葉を聞いたドヴォルの顔に青筋が立つ。どこから聞いたのか、この男は既に"ギルドで起こった出来事"を把握していたのだ。


「分かったなら帰んな。最も"客として"振舞うならこちらも対応するが、"決闘に負けて"壊された斧を不良品扱いするような苦情はお断りだ」

「てめぇ!」


我慢ならずついに腕を伸ばし、店主の男の胸倉を掴む。いつ殴られてもおかしくない状況だが、それでも店主の男は余裕の表情を浮かべている。


「この俺様をコケにしてタダで済むと思ってるのか?」

「そいつはこっちの台詞だ。栄光の翼の一員が民間人相手に暴行。そんな事があったら騎士団が黙っちゃいないと思うぜ?」


その言葉を聞き、胸倉を掴む手にさらに力を込めるドヴォル。しかしもう片方の腕で店主の男に殴りかかる事ができない。確かにこの男の言う通り、町のそこら中に騎士の格好をした者たちがうろついている。実際にこの武器屋に来る時にも何人も見かけたのだ。


(ちっ! 今目立つのは得策じゃねぇか)


さすがのドヴォルも今ここで騒ぎを起こすのはマズイと判断し、手を放して店主の男を解放した。


「はっ! 今日は見逃してやるよ。次来るまでに斧を用意しておけよ」


そう言い残し、ドヴォルはその場を後にした。


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