もがれる翼 part3
女と来れば次は酒ですな
娼館で一汗かいたドヴォルは、休息を取るために町の酒場に訪れていた。
「いらっしゃ……」
「よお、いつもの頼むぜ」
酒場のマスターが訪ねてきたドヴォルの表情を見て青ざめる。
「おい見ろよ」
「栄光の翼のドヴォルか……」
「どうしてこんな時間に」
他の客たちもドヴォルが訪れた事に対し驚きを覚えつつもひそひそと会話をする。栄光の翼の一員という肩書を持つドヴォルは酒場においてもそれだけ注目を浴びる存在であった。
「きょ……今日はお早いお着きで。いつものでよろしいので?」
「おう、さっさと持ってきてくれ。こちとら一汗かいたんでな。早く一杯やりてぇんだよ」
「た……ただちに」
複数人で座る席であるにも関わらず、一人でドガっと座るドヴォルの注文を受け、マスターの男がすぐさま用意に取り掛かる。彼にとってもドヴォルは特別な存在。あの栄光の翼の一員である以上、無茶な要求であったとしても無下にする事ができないのだ。
「あっ! ドヴォルさんじゃないですか!」
「お疲れ様です!」
一人席に座るドヴォルの元に冒険者らしき男たちが駆け寄ってくる。普段ならフォールたちと一緒にいるが今は一人だけ。そういった事もあって声をかけやすい状況となっていたのだ。
「おうてめぇらか」
「今日は早いじゃないですか!」
「Aランクに昇級したと聞きましたよ! さすがです!」
「はっ! 栄光の翼にはこの俺様いるんだぜ? 当然だろ?」
ドヴォルに話しかけている男たちは、あやかろうとしている者たちであった。有名人とお近づきになればそれだけ恩恵を受けられる。自分たちの利益のためにドヴォルを持ち上げ良い気分にするのが彼らの仕事であった。。
「まぁ機会があればお前らにも戦いってのを教えてやるよ。魔物相手と……女の相手もな!」
「「おぉーー!」」
ドヴォルがとりあえず何か言えば、彼らがそれを褒める。酒場において日常の光景の一つになりつつあった。
「お待たせしました」
「おっ来た来た。せっかくだ。てめぇらも何か頼んでいけや」
「「ありがとうございます!」」
今来たばかりのドヴォルであったが、取り巻きたちを含め、その場で盛り上がりを見せていた。
「相変わらず……」
「ひでぇな……」
その様子を見ていた他の客たちがボソッと呟く。自分たちも人の事を言えないとはいえ、まだ日が落ちていないにも関わらずあの騒ぎよう。見ていて頭が痛くなる光景であった。
「だが……」
「ああ、何せあの栄光の翼の一員だもんな」
例えどれだけ騒いでいたとしても誰もドヴォルには文句を言えない。ただの冒険者ではなく、Aランクパーティーまで上り詰めたあの栄光の翼の一員なのだから。
「はぁ、俺も冒険者として活躍できればなぁ」
「俺たちじゃ無理無理。っと噂をすれば別パーティのお出ましだ」
今度は三人組のパーティが入ってくる。しかし彼らはドヴォルの姿を見た途端、気まずそうな表情を浮かべそのまま外に出て立ち去って行った。
「ん?」
「何だ?」
その後も何度かギルドに属する冒険者たちが何人か訪れたが、全員ドヴォルがこの場にいると知った途端、その場を立ち去って行った。
「おいおい」
「こりゃ何かありそうだな」
何人もの冒険者が気まずそうに去っていくのを見た客たちが、これは何かあるのではないかと勘繰り始める。確かにドヴォルは有名人だ。だが相手はあの栄光の翼の一員、関係を築くには悪くない相手だ。実際に彼に気にいられようと今も一緒に酒を酌み交わしている者もいる。
「となれば」
「ギルドで何かあったのかもしれないな」
「うし。ちょっと様子見に行ってみるか」
店に訪れていた客たちが会計を済ませその場を後にする。そうして彼らは町を回り、ドヴォルの身に何が起こったのか知る事となる。
「ドヴォルさぁーーん」
「おれもうだめれす」
「馬鹿が! へばるのはまだはえーぞ! ほら飲め飲め!」
一方ドヴォルは立ち去って行った客たちを気にも留めず、取り巻きたちとただ酒を飲み続けるのであった。