飛べない翼 part9
オミ〇ロン怖いですね……
気を付けたいところ
(何故! 何故その事を知っている!)
討伐に参加した時の話を持ち出され、ウィズに動揺が走る。
「ん? また聞こえていないのか? 魔の森での件についての説明を詳しく聞きたいんだが」
再びヴァルトが質問を投げかけるが、ウィズは答える事ができずにいた。魔の森の件に関しての情報。ヴァルトからもたらされたそれは紛れもない事実であったからだ。
「この件に関してはお前さんが無能と呼んでいる男の事は"一切"関係ないよな? 当然、納得のいく説明ができるんだよな?」
「くっ!」
不正の件は領主のせいに、嘘の報告の件については無能のせいにする事で何とか誤魔化してきた。しかし今回の件に関しては自分の行動に対して説明をするよう要求されている。ここにきて重い言葉がウィズにのしかかってきたのだ。
(くそっ! 面倒な事を!)
こうなってしまってはさすがのウィズも中々言い訳を口にする事ができない。
(細かい事をネチネチと! 本当に面倒くさい相手ですね!)
「それで実際の所はどうなんだ?」
ここまで深く追及されるとは思ってもいなかった。ヴァルトに対し煩わしさを覚えるが、このまま何も答えずにいると、自分が黙認してしまったと捉えられてしまう。そう判断されてしまえば、栄光への道が閉ざされてしまう事となる。ウィズにとってそれは耐えがたい事であった。
「ゆ……」
「ん?」
「優秀な私が戦況を見て冷静な判断をしただけです! 指示に従わなかったのはリーダーの男があまりにも愚かだったから! あの場から撤退したのは大きな怪我を負ったから! ただそれだけの事です! 何故そこまで私が責められないといけないのですか!」
このまま問答を繰り返していると、ボロが出る可能性がある。その前に相手を説き伏せてしまわなければ。ウィズはそう考え、自分の考えを強く言う事にした。
「私は優秀なAランクパーティー、栄光の翼の一員! あの討伐隊のリーダーの男は唯のBランク! どちらが冷静で正確な判断ができるのか誰から見ても明らかでしょう!」
早口でまくしたてるようにしてウィズが言葉を続ける。
「撤退したのは戦略的に考えての行動です! あのままあの場に残っていたら、間違いなくあの黒いオークに討伐隊は全滅させられていたでしょう! 私が撤退する事で……そう! 他の者たちが撤退しやすいように場を整えたのですよ!」
自分が取った行動は理にかなっている素晴らしいものである。決して我が身を守るために取った行動ではない。はぁはぁと息を切らしながらウィズはそう説明する。
「だから私が何かを言われる筋合いは無いんですよ! むしろどうしようもない屑共を導いたのだから感謝して欲しいくらいですよ!」
「ほう……」
「これで分かったでしょう! この私が優秀であり素晴らしい人材であるという事が! それが分かったなら」
「ああ、よく分かった。お前さんが自意識過剰の馬鹿で、適当な御託を並べて真っ先に逃げ出そうとする腰抜けだってな」
信じられない言葉が耳に入る。それによって再びウィズは硬直する。
(この男、今何と言った?)
先ほど放たれた言葉が脳裏に蘇る。
(馬鹿? 腰抜け? 何を言っている? この私が、優秀で最高で完璧な私の事を……馬鹿? 腰抜け?)
理解しようとしても理解できない。
「まさかここまで酷いとは……慢心もここまで来ると最早病気だな。ったくモストの爺さんはどんな教育をしてやがるんだ?」
ヴァルトが思わずボヤキの言葉を紡ぐ。そしてその一部分がウィズの耳に入っていく。
(慢心? 病気? この私が? 天才であるこの私にこいつは何を言っている?)
冒涜。まさしくこれは冒涜だ。たかが"騎士団の隊長"ごときが、自分に対して不適切な発言をしている。こんな事が許されていいのか。いや断じて許されるべきではない。
「っと話が逸れちまった。とはいえお前さんは結局」
「キサマァァ! 誰に向かってものを言っている!」
ついにウィズが我を忘れ激昂した。
「おいおい……」
「このウィズ様に向かって、馬鹿? 腰抜け? 国に雇われてるだけの犬風情がこの私に!」
最早言葉など不要。自分に向かってあのような不遜な態度。決して許される事ではない。
「その愚行! 身を以って思い知りなさい! エアカッター!」
怒りの声を上げながら、ウィズがヴァルトに向かって魔法を放ったのだ。