飛べない翼 part8
領主とウィズ
類は友を呼ぶとはこのこと?
この男は一体何を言っているのだろう。優秀である自分の頭脳を以ってしても思考が追い付かない。今のこの状況をウィズは全く飲み込めずにいた。
「ん? 聞こえなかったか? もう一度言った方がいいか? まぁ要約するとだ。お前さんが適当な嘘を吹聴して俺たちを振り回してくれたんじゃねぇかっての確認したいんだよ」
何故このタイミングで。領主に罪をなすりつけた事で障害が無くなり、栄光への道が切り拓かれるであろうこの大事な時に、とんでもない形で問い詰められる事になってしまったのだ。
(マズイ! マズイ! マズイ!)
今回自分が用意してきた資料は領主に不正を押し付けるためのものだけ。それ以外のものについては全く用意をしていないし、そもそも用意をするつもりすらなかった。
「ん? まだ聞こえてないか? そんなに小さな声で話したつもりはないんだがな……。それとも"否定"できない何かを知っていると考えていいのか?」
完全に相手はこちらの事を疑っている。このまま黙っていると先ほどの話の内容は、全て真実であると認めてしまうようなものだ。
「なるほど。となるとさっきの内容は」
「違うんです!」
何でもいいから何か言わなくてはそんな思いがウィズの中で駆け巡る。何とか頭を動かし、無理にでも口から言葉を発して会話を続ける。
「違う……とは?」
「違うんです! いやそうじゃない! そういう事ではなくて!」
自分でも何を言っているか分からないくらい動揺してしまっている。だが口を閉じれば、自分に疑いがかかってしまう。今ここで弁明をしておかなければ後に響くと考え、何とかウィズはヴァルトを説得しようとする。
「そう! そうです! あの無能が全て悪いんです! あの無能が何の役にも立たない屑だからこの私が有効活用してあげたのですよ!」
そうだ。今こんな状況になっているのも、全てあの無能が無能である事が原因なのだ。あの無能が少しでも役に立つ存在なのであれば、それなりに活躍させてやる事もできたはずだ。
しかしあの無能はろくに戦闘をこなせず足を引っ張ってばかり。精々荷物持ちなどの雑用や、魔物に対する囮、何かしらの実験台くらいにしかならなかったのだ。
「無能……ねぇ。仮にも自分たちと同じパーティーにいた仲間を無能扱いとは」
「事実だったのだから仕方ないでしょう! あの無能はどうしようもない屑でした。私はただその事実を口にしただけ! なのに何故私がこのように疑われないといけないのですか!」
あの無能がどうしようもない存在である事は紛れもない事実。だからこそ追放されたのだ。その上追放された事に対し逆恨みし、自分たちがウッドモンキーやワイバーンの変異種の討伐に失敗するよう裏で細工をしたのだ。そうでなければいくら変異種が相手とはいえ、自分たちが立て続けに任務に失敗するなどありえないのだから。
「疑うのなら私ではなくあの無能を疑ってほしいですね! 私はAランクパーティー、栄光の翼の一員。一方であの無能はパーティーを追放された役立たずの屑。どちらに理があるか誰から見ても明らかでしょう!」
自分は誰から見ても優秀な存在である。その自分が正しい事を言っているのに、何故追及されないといけないのか。ウィズが抱いていた焦りが徐々に怒りへと変わりつつあった。
(やれやれ。全く話が通じねぇな。Aランクパーティーってのはこんな奴ばかりなのか……)
一方でヴァルトは困惑していた。理由を聞いても無能がどうだの、何をしただの、抽象的な発言ばかりで全く情報を手に入れる事ができないでいるからだ。
そもそも目の前の男が無能と呼んでいる男、彼は無能でも何でもない。協力者がいたとはいえ、オークエンペラーを討伐したり、自分と対峙した時は武器を使わず素手で鎧を破壊するといった芸当を見せつけられた。
(あれを見て無能と言える奴がどれだけいるんだか)
そもそも目の前の男は相手の事を無能と呼べるほど優れた冒険者なのだろうかと疑問を覚えるが、今はその話題をしても仕方ないだろう。
(このままじゃ埒が明かねぇし、別の話題を振るしかねぇな)
今もなお目の前で騒ぎ立てるウィズに、内心ため息を吐きながらもヴァルトは別の話題を振る事にした。
「いいですか! だから私は!」
「ああ、分かった。それじゃあ手っ取り早く次の話聞かせてくれや」
「手っ取り早くだと!? 貴様! この私を馬鹿にして」
「お前さん、魔の森で討伐隊に加わってたらしいが、指示を無視して勝手に動くわ、仲間を置いて先に逃げ出すわ、これまた好き勝手してくれたみたいだな。その件についても詳しく聞かせてもらおうか」
ヴァルトの言葉を聞き、再びウィズは硬直する事となった。