飛べない翼 part6
150話まで後1話
「ふざけないで下さい! そんなのデタラメに決まっているでしょう!」
領主の言葉を聞いたウィズが大声を上げ反論する。このままでは完全に自分が悪者、全ての責任を負わなくてはならなくなる。自分はあの栄光の翼の一員。そして自分の目の前には栄光への道があるのだ。それをこんな下らない事でつぶされるというのは耐えがたい事であった。
「ヴァルト様、この男はあろう事か自分の悪事を我々になすりつけようとしているのです。私たちは彼から相談を受けたのでそれを聞いただけ。私たちもギルドに所属している身ですからそういう仕事もあるのですよ」
「なっ!? ウィズ様! まさか私を見捨てるのですか!」
「見捨てるも何も別に私とあなたはそういう関係ではありませんが? 不正をしたというのであれば領主であるあなたが責任を取るのは当然でしょう」
そう言いつつウィズは眼鏡をクイっと上げる。例えこの男が何を言おうが、自分は知らないふりをしていればいい。自分はただ話をしただけと言い続ければどうとでもなる。
「ち……違うのです騎士様! 私はただ命令されただけで」
「いい加減罪を認めてはどうですか?」
ここだ。証拠を出すのはここしかない。そう考えたウィズが自分の懐から資料を取り出した。
「それは?」
「これにはこの男がこれまで働いた悪事をまとめてあります。そしてこの帳簿。これには出処不明の金の流れについて記載されています。これを見て頂ければ、この男が不正を働き、私腹を肥やしていた事はすぐに分かりますよ」
「ふむ」
ウィズから手渡された資料を受け取ったヴァルトが、自身の目でそれを確認し始める。それを見ていた領主の顔は真っ青になっていた。
(ふん。この私を陥れようとは愚かな事を! 相手を潰したいならこれくらいの事をして当然でしょう。最も馬鹿な領主様にはこのような事、思いつきもしないでしょうがね)
心の中でウィズは笑う。当然渡した資料には自分にとって不利となる情報をのせていない。都合の悪い所はキッチリと消し、領主にとって不都合な所だけを残した完璧な一品だ。あれを見れば、例え誰であっても領主が悪いと認めざるを得ないだろう。
「……なるほど。よく分かった」
「お分かり頂けたでしょう? この男がいかにとんでもない事をしていたのか」
「これだけの金額。よくもまぁ誤魔化してくれたもんだ」
ヴァルトが読んだ資料を近くにある机に置きながらため息を吐いている。それもそのはず。領主と手を結んで稼いだ額はかなりのものだ。当然相手にも取り分はいくらか渡しているが、それを差し引いても自分たちの懐が潤うくらいには稼いでいた。その金のおかげで自分たちはこれまで良い思いをしてきたのだ。
(最もあの無能には渡しませんでしたが)
自分たちはあの栄光の翼の一員。誰もが羨む優秀なAランクパーティーなのだ。これくらいの見返りがあって当然だろう。だがその中にただ一人、栄光の翼に所属しながらも何の役にも立たない屑がいたが、当然その男に金を渡す事はなかった。
(いっその事あの無能に罪をなすりつけても良かったかもしれませんね)
結果的に領主をハメる事になったが、相手があの無能の方が楽だったかもしれない。ふとウィズはそんな事を思う。結局は使えない無能や屑は誰であろうと、自分のような優秀な者のための贄にしかならない。むしろそうなれる事に感謝すらして欲しいという思いをウィズは抱えていた。
「さて、これだけ見ればあんたが不正したって事は間違いないんだが」
「違う! そんなもの私は知らない! 私はただ言われた通りにやっただけ! それも栄光の翼の」
「いい加減にしたらどうですか!」
ここまで来ればもう一息だ。もう一息で領主に全ての罪をなすりつけられる。それを達成するためにウィズは言葉を続ける。
「私たち栄光の翼はこれまで多くの実績を残し、その上でAランクパーティーという肩書を手に入れました。当然、私たちはその肩書に見合う働きをしなければならない。あなたも領主という肩書を持っている以上責任を取るのは当然でしょう!」
「なっ!?」
「今あなたにできる事は全てを公表し、自らの行いを悔い改める事ではないのですか!?」
心の中で領主の事を馬鹿にしながら、ウィズが怒りの声を上げる。ここで自分が正論をぶつけておけば、印象は良くなる。そうなれば騎士団の目にも留まれるだろう。打算ありきでの説教であった。
「違う! 私は!」
「まぁここまで証拠が出ちゃ言い逃れできねぇわな。おい!」
ヴァルトが扉に向かって声をかけると、騎士の男たち数名が現れる。
「本部へ連行しろ。連中には詳しい話は後ですると伝えておけ」
「「了解しました!」」
「はっ! 離せ! 私はこの町の領主だぞ! 悪いのは私じゃない! 悪いのはそいつ! 全部そいつの仕業なんだ!」
領主は拘束から逃れようと暴れるが、抵抗虚しく騎士の男たちに連れていかれる事となった。