飛べない翼 part5
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ここまで来たら1000狙いたいなぁと欲が出てたりします
皆様よろしくお願いします
ここに来てウィズにとって想定外の事が起きる。
(何故! 何故この男が!)
自分の未来のための礎となるべき存在。まさかその人物がこの場にいるとは思ってもいなかったのだ。
「初めましてになるかな? 私はヴァルト。一応騎士団の隊長をやらせてもらっている。部下のミラーナやローナルからあなたの事は聞いている。今日はよろしく頼むよ」
そう言いながらヴァルトがスッと手を差し出してくる。それが握手を求める動作だと分かったが、予想外の出来事に直面した事でウィズは反応できず固まってしまっていた。
(おっ落ち着け! そう、この男がいたからといってやる事に変わりはない。まずはこの騎士団の男に私という存在をアピールしなくては!)
「え……栄光の翼のウィズと言います。今日はよろしくお願いします」
何とか動揺を隠しながら、ウィズは自分の手を差し出してヴァルトの手を握り返し握手をする。
「そこにいる彼はこの町の領主だ。っと私よりあなたの方が詳しいだろう」
そして領主の男もウィズがまさかこの場に現れるとは思ってもいなかったのか、驚きの表情を浮かべていた。
(っ!? 無能め! あからさまな表情を! 何かあると思われたらどうするんです!)
その態度を見たウィズが内心で苛立ちを覚える。ここで領主が変な態度を取れば、自分と領主の間で何か繋がりがあるのではと勘繰られるだろう。そうなれば自分が領主に罪をなすりつけるために用意した策が、全て無駄になってしまう可能性がある。
(それだけは何としても阻止せねば!)
「おや領主様お久しぶりですね。以前はどうも」
作り笑いを浮かべて領主に手を差し出すウィズ。しかしその目は完全に笑ってはおらず、怒りのそれであった。領主もそれに気づいたのか肩をぴくっと動かしつつも手を動かして、握手を行った。
「これでメンバーが全員揃ったので話し合いを始めたいと思う。ウィズ殿もそちらにおかけ下さい」
「……分かりました。失礼します」
いよいよ話し合いが始まる。領主がいる事に驚きはしたが、罪をなすりつけるための証拠は一通り揃えてある。本人がいようが自分のやる事に変わりはない。後はそれをいつ出すかのタイミングだけだ。
「さて、忙しい所来ていただいて申し訳ない。今日集まってもらったのは確認したい事があってね」
「確認したい事ですか?」
「手短に言いましょう。お二人がこの町で不正を働いていたという情報を手に入れました。その真偽を確かめさせて頂きたい」
やはり来たか。どうやら騎士団の者たちは無能なりに自分たちがこれまでやっていた事に対しての調査を行っていたようだ。
(とはいえ、これはチャンスですね。ここであの証拠をぶつければ!)
今ここで領主が悪事に手を染めていたという証拠を出せば、予定通り領主に罪をなすりつけられる。自分への疑惑は罪をなすりつけた後であればどうとでもできるだろう。
「その件については私が……」
「実は君が来る前に領主様と少し話をしてね。話を聞くと、不正の発端は君にあるみたいなのだが」
「そうです。不正については……ってはぁ!?」
突然の衝撃発言を耳にし、ウィズは自分でも驚くくらいの大声を出す。
「何でも君から不正についての話を持ち掛けたとか。そうでしたよね?」
「は……はい! 今回の件につきましてはウィズ様から話を持ち掛けられたのです! そして、何をどうすればいいかの指示も全てウィズ様から受けていました!」
領主の口から次々と言葉が出てくる。自分はただ言われた通りの事をやっただけ。考えや指示などは全てウィズによってもたらされたものであると説明し始めたのだ。
「だから私は何も悪くないのです! これが不正であると分かっていたら手を出してはいなかったのですから!」
その言葉を聞いたウィズが思わず歯ぎしりをする。まさかこの領主が我が身を守るために、全てを白状するとは思ってもいなかったのだから。
そしてそれは自分がやろうとしていた事と全く同じ事であったのだから。