飛べない翼 part3
今年ももう終わりですね
万全な状態で新年を迎えたいものです
本当に寒いので体調には
騎士の男に連れられ、ウィズは騎士団が借り上げている宿に案内される事となった。
(少々お待ちください。今確認してまいりますので)
そう言い残し、男が宿の中に入っていった。
(これで騎士団に対して情報を提供したという恩を売りつつ、領主に全ての罪をなすりつけられる。何とも素晴らしく、完璧で美しい作戦! この私だからこそ発案できたようなもの! 我ながら自分の頭脳の良さに惚れ惚れしてしまいますよ)
騎士団に不正の調査をされる前に、先行して情報を渡す。当然渡す情報の内容は自分にとって都合の良いように改ざんしたものである。栄光の翼の一員である自分からもたらされた情報となれば、騎士団も無視できないだろう。
(魔の森では酷い目に遭いましたが、貴族令嬢である彼女と繋がりを持つ事ができました。それに加え今回の情報提供。これだけあれば騎士団にとって私は有用な協力者となりえるはず。となればさらに上を目指せるでしょう!)
騎士団という組織は王国のお抱えの組織である。騎士団と深い繋がりを持つ事ができれば、王国とも繋がりを持てる可能性は十分にあり得る。それに加え、自分はあのAランクパーティー、栄光の翼の一員である。自分の肩書を使う事で、王国とすら繋がりを持てるかもしれない。
(そうなれば一生安泰! 私の名も多くの者に知れ渡る事となるでしょう!)
そこまで来れば、自分の名は栄誉あるものとなる。それこそ全てを自分の思いのままに動かせるようになるかもしれないのだ。圧倒的な地位、権力、名声。その全てを手に入れられる所までたどり着けそうな状況に置かれていると思うと笑わずにはいられなかった。
(愚民どもが私にひれ伏すのも、もう間もなくでしょう。せいぜい有効活用してあげますよ)
「お待たせしました」
頭の中で色々考えていたウィズに、先ほどの騎士の男がかけよってくる。
「申し訳ありません。隊長は外出しているようでして」
「外出ですか……。いつぐらいに戻られるのですか?」
「それが……今日は朝から外出していて……。いつ戻ってくるのか分からないのですよ」
本当に使えない奴だ。目の前の騎士の男に対し、ウィズは心の中で罵倒を吐く。栄光の道が目の前に広がっているにも関わらず、このような下らない事で進めなくなってしまう。その事に対して、内心苛立ったのだ。
「明日にはいるのですか」
「ええっと……。少しお待ちください」
確認するためか、騎士の男が再び宿の中に入り姿を消す。その光景を見たウィズが思わずチッと舌打ちをする。
(本当に使えない男ですね。まるであの無能みたいだ)
ウィズはふとそこで前まで自分のパーティーにいたある男の事を思い出す。その男は自分よりも先に栄光の翼の一員として活動していたのだが、これが酷いものであった。
使える魔法は相手を弱体化させられる魔法だけというとんでもないもので、足手まといでしかないゴミであった。
(まぁそんな無能でも私なら上手く扱えますが)
そんな無能であっても、優秀な自分が扱う事で有効活用する事ができた。荷物持ちとして使うのはもちろんの事、魔物たちの囮役として使ったり、新技の実験台として使ったり、無能なりに活躍できる場を自分であれば与える事ができたのだ。
(先ほどの騎士の男もどうせまともな活躍をできないゴミなのでしょう。私がさらなる高みに上り詰めたらあなたも有効活用してあげますよ。ゴミなりにね)
本人がおらず、心の中でとはいえ、ウィズは先ほどの騎士の男に対して罵倒する。完全に自分は相手より上の存在であるという気分になってしまっていた。
「お……お待たせしました!」
息をはぁはぁと吐きながら男が駆け寄ってくる。走り回って頑張ってますよとアピールしたいのかもしれないが、自分からすれば無能のそれでしかない。
「明日なら……予定はないみたいなので……いると思います」
「そうですか」
今日報告できないのは残念ではあるが、一日待つくらいならどうという事はないだろう。遅かれ早かれ、自分の名が不動のものとなるのは決定事項なのだから。
「ならば明日伺うとしましょう」
「申し訳ございません。お忙しいところ」
「いえいえ。良いんですよ。忙しい所ご苦労様でした。次は頼みますよ」
言葉をかけつつ、ウィズはポンと騎士の男の肩を叩き労いの言葉をかける。当然労ってるのは表面上だけで、心の中では使えない奴だと暴言を吐き続けていた。
「では失礼します」
心の中の声を表に出さないようにしつつ、ウィズは騎士の男に別れを告げてその場を後にした。
(さて、これからどうするか。確かフォールの話では我々は謹慎を言い渡されたのでしたね)
フォールがヘマをしたせいで栄光の翼は謹慎処分となってしまったと聞いている。となれば少なからず自分の身にもそれが降りかかってくる可能性も十分ある。
(となれば目立たぬよう。今日はおとなしくしておきますか)
万が一ギルドの者に見つかり、謹慎の件について聞かれたら厄介だ。ウィズは明日に備え、適当な宿に身を隠す事にした。