堕ちていく翼 part15
人気の少ない路地裏。そんな場所に一人の男が寝転がっていた。
「はっ!」
突然、男は目を開け意識を覚醒させる。近くに人がいれば突然、人が起き上がってきた事に対し、驚きを覚えるだろう。
「俺は……」
これまで何があったのか。男は頭を回転させ、改めてこれまでの経緯を振り返る。
「そうだ! 俺は!」
ここに来て男は全てを思い出す。先ほどまでゴロツキの男たちに囲まれ、数の利を活かしての卑怯な立ち回りをされ、自身が無様に敗北した事を。
「俺が……栄光の翼のリーダーであるこの俺が!」
男は拳を握りしめ地面を叩く。自分はAランクパーティーの栄光の翼のリーダーのフォール。ルックスも実力も兼ね備えた、誰もが憧れる存在なのだ。
「くそっ! くそがっ!」
そんな自分があんな雑魚相手に醜態を晒し、挙句命乞いのような真似までさせられる。自分のプライドを傷つけるには十分であった。
「許さない! 絶対に許さないぞカスどもが!」
自分にあのような仕打ちをした事を後悔させてやる。フォールの頭の中に復讐という言葉が浮かんでくる。そしてそれと同時に激しい憎悪が自分の中に湧き上がってくるのを感じていた。
「ぐっ! まずは態勢を立て直さなければ」
相手の攻撃を受けた事による痛みで、不覚ながらも今まで気絶してしまっていたようだ。先ほどより多少痛みはマシになっているがそれでも体中のあちこちがズキズキと痛む。
まずは体調を整え、完全回復した後にあのゴロツキ共をまとめて始末してやろう。そのためには休息が必要であるとフォールは考え、一度この町を離れ自分の拠点の宿に戻る事にした。
「見つけたぞ」
まずは町に戻るために、来た時と同じように馬車に乗る必要があった。そして何とか隣町行きの馬車を扱っている御者を見つける事ができた。
「隣町まで行きたい。乗せていってくれ」
「あのお客さん……代金は? それにその傷。どっかで見てもらった方が」
「俺はAランクパーティーの栄光の翼だぞ! その俺が乗ってやると言っているんだ! 早く出発しないか!」
「そう言われても……」
「Aランクパーティーの俺に逆らったらどうなるか分かるだろう? それとも痛い目を見ないと分からないのか!?」
そう言いつつフォールが御者の男の胸倉を掴みかかる。たかが御者ごときが自分に口答えするなどと実に腹正しい。自分に歯向かう者は誰であっても容赦しない。フォールの心は怒りや憎しみといった負の感情に支配されつつあった。
「分かりやした。分かりやしたから」
「ふん! 最初から素直に言う事を聞いていればいいんだ!」
御者を脅してフォールは無理やり馬車を走らせ、隣町へと移動を始めた。
「町に戻ったらどうするか……」
フォールは戻ってから後の事を考えていた。まずは自分をあんな目に合わせたクソどもに、自分が味わった屈辱を返してやらなければ気が済まない。相手がいくら雑魚とはいえ、今回のように数を活かした攻めをされてしまってはどうしようもない。そのためこちらもある程度戦力を整える必要がある。
「ドヴォルとウィズには声をかけるとして……。他にも使える奴は何人かいるか……」
自分はあの栄光の翼のリーダーだ。そんな自分から声がかかれば多くの者が賛同するだろう。あの程度のゴロツキどもを始末する事など自分にとっては造作もないのだ。
「いっその事あの無能を使うのもありかもしれないな。あいつらの攻撃を引き受ける囮くらいには使えるだろう」
フォールはニヤリと笑みを浮かべ、一人の男の事を頭に浮かべる。自分たちのパーティーにいながら何の役にも立たなかった無能。荷物持ちや新技の実験台など色んな役目を与えてやったが、それでもまともに役目を果たせずただただ足を引っ張るだけの存在だった。
「待っていろ……。この俺にこんな真似をした報い。必ず受けさせてやる」
馬車に揺られながら、フォールはこれから先の事を考え、一人物思いにふけるのであった。
ようやく書きたいとこまでかけた感じです
ここまで展開もっていくのに少し冗長になってしまった気が……