堕ちていく翼 part14
メリクリ!
度重なる暴行を受け、フォールはついに決心をした。
「フォール! 駄目よ! こんな奴らの言う事なんか聞く必要はないわ!」
今騒いでいるステラと自分。相手の提案のどちらを選ぶにしても、おそらくどちらが犠牲となるだろう。
(どちらを選択するなど! 決まっている!)
自分はあの栄光の翼の一員。今はこんなカス共相手につまづいている場合ではないのだ。早く自分にかかっている疑いを晴らし、自分はAランクパーティーにふさわしい力を持っていると証明しなければならないのだから。
「ほう。なら聞かせてもらおうか。お前の答えをよ」
「俺は……」
痛みに何とか耐えながら、ぐっと力を込めて叫ぶ。
「お前たちの提案をのむ! だから俺を……解放しろ!」
フォールは大声で自分を解放するよう命令する。つまり相手の提案を受け入れると宣言したのだ。
「う……そ……。嘘よね? ねぇフォール!」
提案を受け入れる事で自身は解放される。しかしそれは逆にステラを相手に引き渡すという事も意味している。つまりフォールは我が身を優先し、同じパーティーの仲間であり、付き合っているステラを見捨てたのだ。
「嘘だと言ってよ! ねぇ!」
「はーい、静かにしような」
ステラが叫び声を上げるが、男の一人によって無理やり口を塞がれてしまう。フォールに裏切られ、今彼女を助けようとする者は誰一人いなくなってしまったのだ。
「ははは! そりゃそうだ! なんせ人間、生きてこその世界だからな」
「イケメンだから女の代わりはいくらでもいるってか! 薄情な奴だぜ!」
フォールの取った選択に対し、男たちは笑わずにはいられなかった。自分を守るためとはいえ味方を見捨てたのだ。その選択はただただ滑稽でしかなかった。
「取引成立だな。ならちゃんと報告しとけよ。魔物に襲われて武器も仲間も失ったってな」
「へへへ、これでこの姉ちゃんは俺らの物だ!」
「後でたっぷり可愛がってやるからよ!」
この取引によって男たちは騎士団やギルドに目を付けられず、良い装備と金、そして女を手に入れる事ができた。男たちからすれば自称Aランクの男一人を片づけるだけで多くの戦利品が手に入ったのだ。その事実に彼らは笑いが止まらなかった。
「いや! フォール! フォール!」
「心配すんなよ姉ちゃん。前の男の事なんかすぐ忘れさせてやるから」
「俺のテク。思い知らせてやるよ!」
「ひひひ、金もたんまり手に入ったし今日は良い宴会ができそうだぜ!」
男たちは暴れるステラを拘束し、そのまま無理やり連れて行った。
「さてと、じゃあ兄ちゃん、報告はさっき言った通りにやっといってくれや。戻る時はせいぜい気をつけるんだな。ぼーっとしてると悪い奴らに襲われちまうかもしれないからなぁ」
リーダーの男が笑いながら注意を促してくる。しかしその問いに対してフォールから返事が返ってこなかった。
「返事くらいしろよ!」
返事が返ってこない事に苛立った男が、再びフォールの手の指を握り、無理やり変な方向へと捻じ曲げる。
「ぐっあぁぁぁ!」
「何だ。声だせるじゃねぇか」
痛みによって意識を無理やり覚醒させられてしまうフォール。最早彼の体は痛みに耐えるので精一杯であった。その様子を見たリーダーの男はどこか満足げな表情を浮かべていた。
「じゃあな。気を付けて帰れよ」
「気を……気をつけて……帰ります」
ギロリと睨みつけられたため、フォールは何とか声をひねり出して言葉を発する。そうしないと再びあの痛みが襲い掛かってくる。何とか相手の機嫌を取ろうとフォール自身も必死であった。
「よしよし、偉いぞ。くくく、機会があればまた会おうじゃねぇか!」
フォールからの返事を受け、リーダーの男は満足げな表情を浮かべる。そしてゴロツキの男たちは、フォールが持っていた金と装備品、そしてステラを連れその場を去っていった。
ボロボロになったフォールを残して。