堕ちていく翼 part9
寒い……
今週も週末がかなり寒くなるみたいです……
ギルド内にいた男たちとステラ。お互いがそれぞれ睨み合う。
「ステラやめるんだ!」
「皆さん! やめて下さい!」
見かねたフォールとギルドの受付嬢がそれぞれ言い争いを辞めるよう注意する。ギルド内で揉める事は違反行為。それはここのギルドでも同じようだ。そしてフォールもまた、あまり目立ちたくないという事もあって、揉め事は避けたかった。
「こいつら私の事を馬鹿にしたのよ! 黙っているわけにはいかないわ!」
「ここに来た目的を忘れたのか!」
フォールが鋭い目つきでステラを睨みつける、ここで騒ぎを起こして自分たちが別の町に移動していた事がバレたらマズイ。そう目で訴えかける。
「……分かったわよ」
フォールに強く言われてはステラもさすがに黙らざるをえなかったようで、何か言いたそうにしながらもその口を閉じる。
「ちっ! 悪かったよ!」
「すまなかったな」
男たちもさすがに揉め事を起こしてはマズイと判断したのか素直に謝罪する。ともあれこれで争いが起こらず、穏便に済む事となった。
「申し訳ございません。ご迷惑をおかけしてしまって」
「心配は無用だ。あれくらいの事、俺たちが気にするまでもないんでね」
自分たちはAランクパーティーの栄光の翼。誰もが羨み、憧れる最強のパーティーなのだ。所詮あの男たちも自分たちより格下。はるかに能力の低い人間たちだ。そんな男たちのいう事などいちいち気にしていてはキリがない。
実際に自分たちが昇級した時も他のパーティーから嫉妬の目を向けられた事もある。あの時に改めて自分たちの格の高さというものを知る事となった。それはフォールたちにとっては気分の悪いものではなく、むしろ当然であるという認識だった。
「さて、どうやらここには変異種の素材がないようだからね。これで失礼するよ」
「っ!? フォール!?」
ギルドから立ち去ろうとするフォールの行動に対し、ステラが驚愕の表情を浮かべる。
「いいんだステラ。物がない以上仕方がないだろう? それにここで暴れては受付嬢のお嬢さんに迷惑がかかる。そうだろう?」
そう言いつつフォールは受付嬢に向かってふっと笑みを浮かべる。フォールはこんな性格だがルックスも悪くない。そのため自分たちのギルドでも多くの受付嬢をその虜にしていた。そして笑みを向けられた受付嬢も、フォールの笑顔を見てほんのり顔を赤くしながら目を背けていた。
(ふん。受付嬢というのは本当に単純な奴ばかりだ。いくら偉そうな事を言っていても愛想笑いするだけで、その気になるんだからな)
フォールは自分のルックスを利用し、自分たちのギルドでも受付嬢たちと繋がりを持っていた。当然受付嬢たちもAランクパーティーの栄光の翼の一員。それもイケメンが相手となれば、どうしても魅了されてしまう。そうする事でギルドでもうまく立ち回り、良い依頼を回してもらったり、報酬を弾んでもらったりして利益を得ていた。
「お嬢さん。今回はこれで失礼するけど何かあったらよろしく頼むよ」
「は……はい!」
これでこの受付嬢も自分の虜だろう。面白くないのか、その様子を見ていた男たちがギリッと歯を食いしばっている。それを見たフォールが男たちを馬鹿にしたような薄笑いを浮かべながら、ステラと共にギルドを後にした。
「ふっ、あの男どもの顔と見たら本当に笑えるな」
先ほどの光景をフォールは笑いながら思い出していた。いくらあの男たちが何を喚こうが、実力も見た目も自分たちの方が上なのだ。弱い奴ほどよく吠えるというのはああいう事を言うのだろう。
「けどフォールこれからどうするの?」
フォールがキッチリ返しを決めたのを見て、ステラの機嫌もいくぶんか直っていた。とはいえ元々自分たちの目的であった変異種の素材を手に入れる事ができなかった。
頼みの綱であるギルドでの在庫の確認も失敗に終わり、完全に打つ手が無くなってしまったのだ。
「こうなったら近くにいる冒険者たちから直接素材を買い取るしかないな。変異種の素材となればそれなりの相手と……」
「おっ! いたいた! 変異種の素材を探しているのは兄ちゃんたちかい?」
突如どこからか声をかけられる。声のする方向に目を向けると一人の男がこちらに向かって歩いてきた。
「あんたら変異種の素材を探してるんだろ? それならリーダーが持ってる。それなりの値が張るが提供できるぜ」
その言葉を聞きフォールが心の中で笑う。こうも簡単にチャンスが転がり込んでくるとは。やはり自分たちは選ばれし存在であると嫌でも自覚させられてしまう。
「その話。詳しく聞かせてもらおう」
フォールは男から話を聞く事にした。