無能 評価される
今週平日何とか大体同じ時間に投稿できた!
土日は更新時間変わるかもです
「らっしゃい。何だお前か」
「お久しぶりです。ドルトンさん」
武器屋の中に入ると中年男性がカウンターに座っていた。一般的な成人男性よりガタイの良い体をしており、冒険者といっても通用しそうな風貌をしている。噂によると昔はいち冒険者として活動していた事もあるだとか。
「お前が来たって事はあの馬鹿どもの武器を買いに来たって事か? 連中の中で唯一武器を使わねぇお前が一番店に来るってのも面白い話だが」
「実は今日は素材の買取ができないかどうかお願いしたくて。それから俺はもうあいつらとは関係ありません。追放されてしまったので」
「おいおい、そりゃマジか! はっ! あいつら武器を見る目もなけりゃ人を見る目もねぇようだな! とんだ大馬鹿野郎どもがいたもんだ」
俺の話を聞いたドルトンさんが大声で笑う。
「栄光の羽だっけか? 今大活躍してるみてぇだが。武器を手にも取らず値段だけで性能を決め、使い方は雑。挙句自分たちの実力を棚に上げて武器の性能のせいにする。あんな奴らが注目されるなんてギルドもついにイカれちまったようだな」
「翼ですよ。確かに全員でお邪魔した時は大分失礼をしてしまいましたけど……。でも彼らの実力は本物ですよ」
「はっ! まぁそのうちボロがでるだろうよ。あいつらに合う武器をうまく見繕ってたのも、使いやすいように加工を依頼してきたのも全部お前じゃねぇか。まぁその分いちいち細かい注文をしてくるから俺からしたらたまったもんじゃねぇがな」
「はは……誉め言葉として受け取っておきますよ」
どうやらいつの間にかドルトンさんからは高評価を受けていたようだ。パーティーからは馬鹿にされ、ギルド職員からも馬鹿にされる。そんな日常を過ごしていた中、自分の事を認めてくれている人がいたという事実に思わず涙が出そうになる。
「……ヒューゴの事、ちゃんと見てくれる人いるじゃない」
ミラーナもふっと笑みを浮かべている。彼女なりに自分の事を心配してくれていたのだろう。
「二人とも……ありがとう」
「お礼何てよせよ気持ちわりぃ。さっさと本題に入るとしようぜ。まさかそこの新顔の嬢ちゃんを俺に紹介しに来たって訳でもねぇんだろ?」
ドルトンさんがジロリと俺の事を睨んでくる。話が逸れてしまったため、俺はこれまでの経緯と本題の素材の買取について相談する事にした。
「買取ねぇ。確かにできなくはねぇがギルドみてぇに何でもかんでもできる訳じゃねぇぞ」
「できる物があればお願いします。……それと俺が言うのもあれですが俺から素材を買い取ったとしればギルドが貴方に嫌がらせをしてくるかもしれません。それを考慮した上で」
買取の交渉をする際に懸念していたのがギルドの介入だ。追放されたとはいえ、元はあの栄光の翼の一員。もしも栄光の翼のメンバーが俺に対してのこれまでの行いが明るみに出れば、ギルドの名誉にも少なからず傷がつく。それを避けるために先行して徹底的に俺を潰そうとしてくる可能性もなくはない。現にギルドでは素材の買取の拒否という横暴に出てきたのだ。
「はっ! 嫌がらせにビビってたら仕事なんかできやしねぇ。むしろ評判気にして客が減るなら楽出来て大助かりだぜ。奥に作業場があるからそこで出してくれ」
だが俺の忠告を気にも留めず、ついて来いと目くばせをする。俺とミラーナはドルトンさんの後ろについていき、作業場に向かう。作業場の中には作りかけの武器や武器を作るために必要な素材などがあちこちに転がっていた。
「早く素材を出してくれ。買取の判断するからよ」
俺は背負っていたリュックを降ろし、中から素材を取り出す。
「おいおい、これまた綺麗に解体してやがる。まさか」
「ええ、俺が解体しました。綺麗に解体すればその分、多くの素材を入れられるので」
魔法のリュックは多くの物を入れられるが、無限に入れられる訳ではない。たくさんの物を入れようとするとその分リュックの大きさも大きいものが必要となる。そのため、多人数のパーティーなどでは荷物持ちを複数人用意するといったような事が行われていた。
「これだけ綺麗に解体するとすりゃ、魔物の体質を知ってなければ無理だ。今からでも冒険者やめて解体屋に転職したらどうだ?」
「前までならその提案を受け入れていたかもしれません。でも今は俺の為に一緒に戦ってくれる人がいますから。その人の為に俺は頑張りたいので」
「へっ! お熱い事で」
フォールたちに追い出された時は頭が真っ白になり、思いもつかなかったが確かに解体屋としてやっていく事ができたかもしれない。散々こき使われ多くの魔物の解体し、それに加え武器を何も持っていない状態で囮役として前線に駆り出されていたため、それ相応に多くの魔物をこの目で観察してきた。ある程度の魔物の特徴も頭の中に入っている。
これらの知識を活用すれば少なからずどこかでひっそりと暮らしていく事はできたかもしれない。
だが今の俺にはミラーナがいる。俺が彼女の正体に気づかなかった時でも、彼女はいきなりギルドという組織を相手に俺を庇ってくれた。それも自分の身を売るような真似をしてまで。
そんな彼女の恩に報いるために俺はやるべき事がある。それを捨てた生活を送るという事は考えられない。
「……もう」
ボソリと声が聞こえたのでその方向に目を向けるとミラーナがほんのりと顔を赤くしていた。
「うちで買い取れる素材はこれだけだ。んで金額はこんなもんでどうよ?」
買取が終わり、金額が提示される。その額を見た俺とミラーナは思わずギョッとしてしまう。
「嘘……そんなに……?」
「いいんですか!? これ相場よりも大分高いですよ!?」
「解体が完璧だったからな。俺が解体する手間もはぶけるし、魔物もそれ相応に強い個体の奴がいたからな。これでもギルドから買う事を考えたら安いもんだ」
ワイルドベアやキラータイガーといったBランク相当の魔物の素材もあった事が大きかったのだろう。これだけの収入が入ればよほどの事が無い限りお金に困る事はないだろう。
俺とミラーナは即買取を了承した。