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堕ちていく翼 part3

さ……寒い

明日はマシになるそうですが

まさかウィズが消極的な行動に出るとは。フォールたちは考えてもいなかった。


「てめぇ! ふざけてんじゃねぇぞ!」


ドヴォルがウィズの部屋のドアをガンガンと蹴りつける。


「ウィズ! 落ち着くんだ! 話し合おう! だからドアを開けてくれ!」


フォールも扉を開けるよう声に出して言うが、ウィズは一向に動こうとする様子を一切見せない。


「本当にどうしようもねぇ奴だな! てめぇもどうやらあの無能と同レベルのカスだったみたいだな!」

「何とでも言ってください。何を言われようと私は冒険者として活動するつもりはありませんので」


ドヴォルに無能と言われ煽られてもウイズはそれをさらっと流している。


「ウィズ! 一体お前に何があったんだ? つい先日まで普通に活動してたじゃないか! 一体どうして!?」

「あなたたちはあの化け物……、あの黒いオークと戦っていないからそんな事を言えるんですよ! 私はあんな化け物と戦うような真似、もうしたくないありません」


黒いオーク、その存在にフォールたちは覚えがあった。ついさっき自分たちが無能と呼んでいる男が、アイテムボックスから取り出していた魔物だ。あの男は黒いオークの事を変異種と呼んでいた。確か名前はオークエンペラーと言われていた。話から察するにどうやらウィズに大怪我を負わせたのは、あの黒いオークで間違いないようだ。


「ウィズ。お前が言っているあの黒いオーク、あいつはもう倒されたんだ! だから何も心配する事はない!」

「はぁ!? あの化け物が倒された!? そんなのありえませんよ! 私ですら敵わないあの化け物を一体誰が倒せるというんですか!」

「倒したのは……」


とここでフォールの口が止まる。あの黒いオークを倒したのが、自分たちがこれまで無能と呼んでいた男であると言えなかったのだ。

「ほら、言えないじゃないですか! 嘘をつくならもっとましな嘘をつくんですね!」

「違う! 嘘じゃないんだ! とにかく話を!」

「とにかく! 何を言われようと私はもう冒険者活動をするつもりはありませんので」


黒いオークが倒されたのは間違いなく事実だ。だがそれを行ったのがあの無能であるとフォールは口にできない。自分自身も信じていないし、それをウィズに伝えてもそれこそ信用してもらえないだろう。あの無能が変異種を倒すなど到底ありえない事なのだ。


「フォール。ウィズは一旦放っておきましょう……」

「……そうだな」


今のままだとウィズとまともに話し合う事などできないだろう。部屋に閉じこもるウィズを一旦放置し、別で作戦を練る事にした。


「ちっ! ウィズの野郎だらしねぇ! あいつももう終いだな! 所詮無駄に頭が回るだけのカスだったわけだ」


ドヴォルがウィズに対し陰口を叩く。一連の行動に対して呆れと怒りを覚えているようだ。


「ドヴォル。同じ仲間に対してそんな言い方は」

「あ!? 元はといえばリーダーのお前がしっかりしねぇからこんな事になったんだろうが! ワイバーンごときにやられやがって! 情けねぇ!」


今度はその怒りの矛先がフォールに向けられる。その言い分も完全に間違いではないという自覚があるのか、フォールは言い返せずにいた。


「ドヴォル! あなたフォールに対して何てこと言うのよ!」

「うるせぇぞ尻軽が!」

「し……尻軽とは何よ!」


フォールを庇うようにしてステラが反論の言葉を口にした事で、二人の言い争いが始まってしまう。


「はっ! こういう時はリーダーが責任を取るのが筋だろ! ならお前が片づけろや!」

「ちょっと! どこにいくつもりよ!」

「こちとら色々溜まってるんでな! 好きに発散させてもらうぜ!」


そう言い残し、ドヴォルは二人を置いて外に出ていってしまった。


「もう何なのよ! 何考えてるのよ!」


ステラが我慢できずに癇癪を起こす。そしてフォールは今の状況に対し、どうしたら良いか分からない状態になってしまっていた。


(どうしたらいいんだ? どうすれば?)


本当ならこんな状況だからこそ仲間同士で助け合わなければならないのだが、パーティー間に亀裂が生じ始めている。長い間行動を共にしていると、仲間内で衝突するという事も珍しい事ではない。

だが栄光の翼のパーティーメンバーたちは、失敗や挫折を味わうことなく成功ばかりを収めてAランクパーティーという地位まで上りつめてしまった。

それに加え、彼らには無能という全員のストレス発散となる共通の相手がいたため、良くも悪くも彼を相手にする時は全員が一丸となっていた。

それらの要因があったからこそ彼らはこれまで上手くやってこれた。


だが今は違う。これまで成功するきっかけとなっていた男、全員のストレス発散となっていた男をパーティーから追放してしまった

それが過ちであったと彼らは気づく事ができない。そしてもう取り返しのつかない所まで来てしまっているという事にも。


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