ギルドと栄光の翼 part25
ほいっとな
「ごふぅ!」
まさか反撃を喰らうとは思ってもいなかったのだろう。俺に一撃を叩き込まれ、フォールが呻き声を口から漏らす。
「ば……かな!」
腹を抑えながらふらふらと後ろによろけるフォール。いくら栄光の翼のリーダーといえど、俺の弱体魔法を受けての一撃はかなり重かったようだ。
(といってもオークエンペラーに使った時ほどじゃないけどな)
オークエンペラーと対峙した時は、自分の全てを振り絞らなければならないほどの強敵だった。しかしフォールにはオークエンペラーはおろか、かなり弱めにして魔法を放った。それだけで十分だと俺は判断したからだ。
「フォール!」
「っ!? てめぇ! 一体何しやがった!」
俺の行動を見たステラとドヴォルが驚きの声を出す。まさかこれまで散々無能だと馬鹿にしてきた相手が、自分たちのリーダーに対して反撃をしてくるなどと思ってもいなかったのだろう。
「む……無能の……。無能の……分際で!」
殴られた当の本人であるフォールは憎悪と苦痛が入り混じった表情を浮かべている。
「本当は手を出すつもりはなかったよ。ただお前たちはやりすぎだ。Aランクパーティーだからといってやっていい事と悪い事が」
「うるせぇんだよ無能が!」
すかさずドヴォルが罵声を飛ばしてくる。俺に説教されている事が相当頭に来たようだ。
「無能のカスが何様のつもりだ! ゴミはゴミらしく、地べたに這いつくばっていればいいんだよ!」
「お前、何言って」
「下位ランクの雑魚どもは俺たちの糧になってればいいんだよ!」
かつては自分も低ランクからスタートしたというのにこの有様。口にこそ出さないがステラもそしてフォールも同様の事を思っているようだ。そしてこの場にはいないがおそらくウィズも彼らと同じ考えなのだろう。
「あいつら……」
「ひでぇ……」
遠目で様子を見ていた他のギルドメンバーも、ドヴォルの発言を聞き顔を引きつらせていた。
「へぇ、なら君たちは自分たちより"強い者"が相手ならその糧になってくれるのかな?」
レイシアが自身の刀の切っ先をドヴォルの喉元へとさらに近づける。もうあと少し、ほんの少し近づけられただけで喉が切られる。そんな僅かな隙間しか残されていない状態に追い込まれ、さすがのドヴォルも口を閉じる。
「……まぁ君たちには糧としての価値すらないだろうけどね。相手をするだけ無駄みたいだ」
落胆の声を出しつつ、レイシアが刀をスッと引いて構えを解く。栄光の翼というパーティーメンバーは、相手をするだけの価値すらない、彼女にそう判断されてしまったのだ。
「……同感ね。視界に姿が入るだけでも不愉快だわ。早くこの場から立ち去ってくれないかしら?」
ミラーナも彼らに対し辛辣の言葉を投げかけつつ剣を引く。相手をするだけ無駄。というより相手すらしたくない。そんな思いが彼女の中に芽生えているのだろう。
「お前達はあの栄光の翼なんだ。相応の責任は取らないとな。"元"パーティーメンバーとして応援してるよ」
「き……きさまぁぁぁ!」
俺の言葉に激昂するフォールだが、俺に殴られた痛みで上手く動く事ができていない。そのせいで俺に斬りかかりたくても、そうできないようだ。
「フォール! 一度引きましょう。宿に戻ればウィズもいるわ!」
「俺も装備があればこんなカスども瞬殺できる! 出直そうぜ!」
「仕方ないか。お前たち絶対に許さねぇからな! 栄光の翼の恐ろしさ。必ずその身に刻んでやる!」
撤退の言葉。栄光の翼の自分たちがそのような行動に出なければならないという事に我慢ならないが、この状況だとさすがに分が悪いと判断したのだろう。
舌打ちしつつ、フォールたちはその場から逃げるように立ち去って行った。