ギルドと栄光の翼 part24
頭よりも先に体が動いたとはこのことだろう。自分でも無意識のうちに、フォールたちの凶行を止めるために牽制をしかけていた。
「ふぉっふぉっふぉ。大したものじゃ」
俺たちの行動にモストは全く動じず、それどころか賞賛の言葉をかけてくる。
「よく言うよ。"わざと"避けなかったくせに。私たちがこう出る事を分かっていたのか。それとも動く必要すらなかったのか。どちらにしても悪趣味だね」
その様子を見たレイシアがたまらず苦言を口にする。確かに彼女の言う通り、モストはフォールたちに襲われそうになっていたにも関わらず、平然としている。
(さすがはギルド長といった所か……)
ギルドのトップでありながら幻獣と呼ばれる魔物を退治した事のある人物。経歴だけでなくその実力も大したものなのだろう。おそらく俺たちが動かなくても、何らかの手段でフォールたちを抑え込んでいたに違いない。
「……ヴァルト隊長もこうなる事が分かっていたのでは?」
そしてミラーナもまた鋭い目つきでヴァルトの事を睨んでいた。ヴァルトもまた騎士団の隊長という肩書を持つ凄腕の人物だ。実際に領主の屋敷で戦う事となったが、かなり強かった。あの時は弱体魔法を使う事で何とか撃破できたが、次に再戦したら正直勝てるかどうか分からないくらいだ。
「はっはっは! こっちには優秀な部下がいるからな!」
「……今ふざけている場合ではありませんが?」
「お主、間接的にワシの事馬鹿にしておらんか?」
ミラーナとモストからキツイ言い方をされ、バツが悪そうに顔を背ける。どうやらこのヴァルトも相当個性豊かな人物のようだ。
「くっ! お前たち! 俺たちにこんな事をしてタダで済むと思っているのか!?」
自分たちの行動を妨害された事に腹を立てたのかフォールが怒りの声を上げる。完全に彼らから気を逸らしてしまっていた。とはいえさすがにモストやヴァルトと比べればフォールたちの実力は落ちる。
(というより、はっきり言って格が違うよな……)
追放宣告されたとはいえフォールたちとは長い付き合いだ。彼らの実力は俺もそれなりに分かっている。というより結果でいえば、俺が思っていた以上にフォールたちは弱い。何故なら彼らは、今まで俺が弱体魔法をかけた魔物を相手にしか戦った事がなかったのだから。
「うーん。タダで済まないのは君たちじゃない? もう謹慎処分どころじゃなくなると思うよ」
「はぁ!? 私たちはAランクパーティーの栄光の翼よ! その私たちが正しいって言っているなら正しいに決まっているじゃない!」
「雑魚どもはこれまで通り俺たちの言う事に従っていればいいんだよ!」
レイシアの言葉にステラとドヴォルが反論しているが、最早言っている事が滅茶苦茶だ。どうやらフォールたちは完全にAランクパーティーの栄光の翼という肩書きの大きさに驕りと慢心を覚えてしまっている。
ここまでプライドが肥大化してしまってはもう何を言っても無駄だろう。
(こんなパーティーに今までいたのか……俺は……)
我ながら情けなくなってくる。栄光の翼の中で、俺は無能と呼ばれ蔑まれていた。だがもしも実力が彼らに認められ、真のパーティーの一員として活動していたなら、俺も彼らと同じように肩書を盾に好き勝手する人間になっていたかもしれない。
「そう! 俺たちはAランクパーティー! 栄光の翼なんだ! それがこんな無能の! ゴミ相手に! 劣るわけが無いんだよ!」
叫び声を上げながら、フォールが手に持っていた剣を振るい襲い掛かってきた。
(けど俺はミラーナやレイシアのおかげで変われた……いや、変わる事ができた)
追放され絶望していた俺を救ってくれたミラーナ。ピンチに陥っていた時に助けてくれたレイシア。二人のおかげで今こうして自分の力を証明する事ができた。
(悪いなフォール。俺はお前たちよりも先に進む。いまさら何を言っても "もう遅い!")
フォールの一閃を難なくかわし、俺はフォールの腹を目掛けて一撃を叩き込んだ。
ぶちこみ!