ギルドと栄光の翼 part12
マジで寒いです
ここに来て予想外の展開が訪れる。ヴァルトが言うにはフォールたち栄光の翼はワイバーン討伐の際に、雇っていた男たちを囮にした。その結果、荷物持ちの男はあやうく死にかけたのだと。
「し……知らないわよ! そんな事!」
「あ……ああ、そんな男、俺も聞いた事も見た事もないな」
フォールもステラも知らんふりをしているが、その顔は驚いているように見える。あの様子だとおそらく何か後ろめたい事があるのだろう。
「ん? 変だな? 今そちらの、確かドヴォル君だったかな? 彼は役に立たなかったと言っていたように聞こえたが……。だが一方で君たちは知らないという。君たちはワイバーン討伐に四人で向かったのだろう? なのに何故発言に食い違いがあるのかね?」
どうやらヴァルトもフォールたちの発言に疑問を覚えたようだ。雇った荷物持ちの男の話題が出た時、ドヴォルはその男が使えないと言っていた。つまりその男は少なくともドヴォルと行動を共にしていた事になる。
そしてワイバーン討伐はフォールたち栄光の翼の四人で向かっている。となるとドヴォルと行動していた荷物持ちの男と、フォールたちと面識がない訳がないのだ。
「う……」
「く!」
嘘がバレた事に二人は動揺する。どうやら騎士団内でもそれなりに情報の収集をしていたようだ。
「おいおっさん! さっきからごちゃごちゃとうるせぇんだよ! 何だ? 俺たちが嘘を言っているとでも言いてぇのか?」
しかしこんな中でもドヴォルは声を荒げ、ヴァルト相手に食ってかかる。こんな状況でもあのような態度を取れるのは大したものだが、その態度が自分たちにとって不利な状況を作り出してしまっているという事に気づいていない。
「ちょっとドヴォル! あんた!」
「俺たちは栄光の翼だぞ! そこらの無能のカスどもとは違う! たかだが騎士のおっさんごときに舐められてたまるか!」
自分たちが舐められていると思ったのか、ドヴォルは怒りを爆発させる。
「ふむ。馬鹿にしたつもりは全くなかったのだが……。気に障ったなら謝罪しよう。申し訳」
「はっ! 分かったならさっさと消えな! っとおいおい、後ろにいるのはあの時の姉ちゃんじゃねぇか!」
ドヴォルがヴァルトの後ろに控えていたミラーナを視線に捉えニヤリと笑う。
「ククク。契約の件があるしな。この後たっぷり遊んでやるよ! っと横にいる姉ちゃんも中々美人じゃねぇか! あんたも仲間にしてやるよ!」
ドヴォルが二人の女性騎士を見ながら舌なめずりをする。今の格好がシャツ一枚とパンツ一枚しか身に着けていない事もあって、最早ただの変態にしか見えない。
さすがにこの発言にドン引きしたのかミラーナとローナルの二人はゾッとした表情を浮かべている。
(女癖が悪いのは知っていたが……。ここまで酷いとはな……)
よくもまぁこの状況でそのような事を言えるものだと感心すら覚えてしまう。これまでドヴォルは稼いだ金でよく娼館などに足を運び、それなりにお楽しみを味わっていた。時にはツケにしていた事もあって、パーティー共通の財産を使って代金を支払った事もあるほどだ。
「これは困った。話を聞いてもらえないどころか、私の部下相手に性的な嫌がらせをしてくるとは。"こんな奴"がAランクパーティーの一員を名乗っているとはな」
「ああ!?」
やれやれと呆れた顔をしながらため息を吐くヴァルト。その様子をドヴォルは見逃していなかった。
「てめぇ……。この俺様をこんな奴だと!」
「それよりもいい加減その服装を何とかしたらどうかね? それともギルドではそのように教育しているのかな?」
その発言を聞いた受付嬢がサッと目を逸らす。この発言に対してさすがに擁護の声を出す事ができないようだ。フォールとステラも同じ事を思っているのか、何かいいたそうな顔こそすれど、その口を開こうとはしなかった。
「舐めやがって! 調子に乗ってんじゃねぇぞ! おっさんが!」
そんな中、ドヴォルだけが行動に出た。拳を握りしめ、ヴァルト相手に殴りかかったのだ。
(おいおい、マジか!)
その様子を見ていた俺がとっさの判断でステータスダウンの魔法を放とうとする。しかしそれよりも先にとある者が動いていた。
ドヴォルの放った一撃を初老の男性が受け止めていたのだ。