ギルドと栄光の翼 part10
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レイシアが放っていた殺気を止めた事で、緊張が解ける。思わず、俺もため息してしまうくらいであった。
「いや……マジで焦ったぜ……」
そういい、一人の男がほっと溜息をつく。魔の森で俺とレイシアが救出した男性だ。彼もまたレイシアの実力をその目で見ていた人物。その強さはよく分かっているのだろう。
「本当どうなる事かと思った。でもあれを抑え込んじまうとは兄ちゃんもさすがだな」
おそらくこれまでのやり取りで、俺が栄光の翼を追放された無能であると知ったはずだ。にもかかわらず男は俺の行動に対し賞賛の声を上げていた。
「ああ、正直ゾッとした。あんたのおかげで助かった」
「あんたたちは全く悪くないのにな。こんなことになって申し訳ない」
同じパーティーの他の者たちから感謝と謝罪の言葉を告げられる。彼らは栄光の翼よりランクが下とはいえBランクパーティー。それなりに実績を積んできているし、経験もある。
フォールたちと違い、良識ある対応をしてきた。
「驚かされはしたけど……所詮見かけ倒しね!」
「ハッ! ちげぇねぇ! 無能の仲間も所詮無能って事だ!」
「ギルドに目を付けられるのはマズイと土壇場で気ついたんだろう。懸命な判断だが少し遅かったがな」
一方栄光の翼の彼らは、未だに状況を飲み込めていないようだ。レイシアが本気で刀を振るえば、おそらく彼らは一瞬でこの世を去っていた。それにすら気づかずこちらを罵倒してくる姿、はっきり言って滑稽でしかない。
「レイシア……」
「はいはい、分かったよ」
やれやれと肩をすくめ、レイシアが手に持っていた刀をしまう。それを見たフォールたちは彼女が怖気づいたと思ったのか、馬鹿にするように笑っていた。
「全く、どこで見つけて来たのか。いままでよくこんな奴らと一緒にいられたね」
レイシアは呆れ顔をするが、俺も思わず苦笑する。追放を言い渡された当日こそ目の前が真っ暗になったが、今は特に何も思わない状態になっていた。
むしろ清々したくらいだ。
「さて、話を戻そうか。俺たちには相応の補填が支払われる。それで間違いないかな?」
「はい、栄光の翼の方々にはギルドから十分な支払いを。無論……ドヴォルさんの装備品もです」
「おっといけねぇ。俺にこんな格好をさせた分の慰謝料も貰わないといけねぇな」
受付嬢がサッと視線を外したのを見てドヴォルがニヤリと笑みを浮かべる。いい歳をした男がシャツ一枚とパンツ一丁でいるというのにドヴォルは気にする素振りすらしていない。
むしろ、これからの事を考えて楽しみが増えたとすら考えているようだ。
(パーティーにいた時から酒癖と女癖は悪かったが……最早異常だな)
栄光の翼の名を盾に、かなり好き勝手やっているという噂も聞いている。中にはセクハラ紛いの事をされたと被害を訴えた女性もいたようだが、裏で揉み消されてしまったという話もあったという。
「ククク。それにもうすぐあの騎士の姉ちゃんが俺の物になる。ありゃ上玉だぜ」
おそらく口にしている騎士の女性というのはミラーナの事だろう。栄光の翼とレイシアの間で、万が一俺が冤罪を証明できなければ彼女の全てを捧げると公言してしまっている。それが実現した時の事を考えているのだろう。
「あの顔と体を汚せると考えただけでゾクゾクして」
「悪いがそうはさせない」
ドヴォルはおろか他の者たちも俺の言葉に驚き目を丸くする。
「そもそも俺は、いや俺も討伐隊に参加した彼らもギルドの決定を認めた覚えはない。勝手に話を勧めないで貰えるか?」
あくまでレイシアを止めたのは、俺個人の事情であって、栄光の翼やギルドのためではない。むしろ糞くらえだ。
「やれやれ、せっかく話がまとまりそうだったのに。無能君は本当に場をかき乱すのが好きなようだ」
すかさずフォールが俺の行動に対し非難の声を浴びせてくるが知った事ではない。
「そもそもギルドの決定がどうとか言っているが受付嬢にはそんな権限はない。決めれるのは最低でもギルドの偉いさん。即決できるとしたらギルド長くらいだ。長い間ギルドにいるのにそんな事も分からないのか?」
色々好き勝手言っているが、そもそも彼らには何の決定権もない。仮初の権力を振るっているだけだ。
「これだから無能は。いいか? 俺たちは栄光の翼。誰もが憧れる最高のパーティーだ。俺たちほど活躍してるパーティーはそうもいないし、それだけギルドに貢献している。それなりの見返りがあって当然だろう?」
自信ありげに大きく出るフォール。栄光という名の翼を手に入れたことで完全に舞い上がってしまっている。
「無能のお前と違って、俺たちは選ばれし者だ。それこそ騎士団すら凌駕する力を持っている。あんな口だけの奴らより俺たちの方が」
「ほう。その話、詳しく聞かせてもらいたいものだな」
突如声が聞こえたかと思うと、それと同時にギルドに何者かが入ってくる。まず入ってきたのは騎士の格好をした男。その後ろに二人の女性騎士がついてくる。
そして最後に入ってきたのは初老の男性であった。
「ふふ。どうやら時間切れのようだね」
その姿を見たレイシアが笑みを浮かべていた。