ギルドと栄光の翼 part9
ドヴォルが放った渾身の一撃。それも強化魔法がかけられ、威力はそれ相応のはずであった。
「な!?」
しかしその攻撃は誰にも通らなかった。
「お前ら……いい加減にしろよ!」
すかさず俺の体を割り込ませ、ドヴォルの拳を片手で受け止めたのだから。
「さっきも言われていたが、ギルド内での暴力沙汰は禁止のはずだ。それを平然とやるなんて何のつもりだ!」
「うるせぇ! ゴミの無能の分際で! 誰に口聞いてやがる!」
「そうよ! 無能のあんたに注意される筋合いはないわ!」
ドヴォルとステラが俺に対して激しい口調で反論してくる。
「これは俺たちの問題。無能の君には関係ない話だ」
パーティーリーダーのフォールも当然のように二人に同調する。リーダーの彼までこのような態度に出ている以上、この行為こそが栄光の翼としての答えという事なのだろう。
「だから君は引っ込んでなよ! 無能らしくな!」
フォールが持っていた剣で斬りつけてくる。今の俺は彼のように武器を持っていない。そんな相手に平気で武器を持って襲い掛かってくるとは、とてもまともとは思えない。
(……遅いな)
だがそんな攻撃も今の俺には通用しない。何せ昨日はあの化け物オーク相手に死闘を繰り広げていたのだ。それと比べると例えAランクパーティーのリーダーの攻撃であってもかわいいものだ。
「ってぇ!」
俺はドヴォルの拳を受け止めていた手を捻って離す。その痛みに悲鳴を上げているが、それを無視してフォールが振るってきた剣先を指でつまむ。
「何だと!?」
まさか自分の攻撃が、指数本で止められると思ってもいなかったのだろう。フォールは驚きを隠せない表情をしている。そして俺はそのまま力を込め、剣先をへし折った。
「な……に!?」
(思った通りフォールの攻撃はどうとでもなる。やっぱりこっちの方が問題か……)
フォールの攻撃はこれで止むだろう。だがもう片方が問題であった。俺はもう片方の手でレイシアの腕を握っていた。
「……邪魔なんだけど」
レイシアがジロリと俺を睨みつけてくる。彼女の手は刀を握り、まさしく抜刀しようとしている瞬間であった。もしも俺が彼女を止めなければ、ドヴォルはともかく、フォールやステラも刀の一振りをお見舞いされていただろう。
オークジェネラルですら倒す一閃。そんなものが彼らに振るわれてしまえば、一瞬にして切り倒されてしまっていただろう。それも命を奪う形で。
「レイシア……。それは駄目だ……」
フォールたちに恨みがないといえば嘘になる。だが俺はこんな形で復讐を果たしたいとは思っていなかった。それに彼女の手を汚すような真似を俺はさせたくなかった。
「先に挑発してきたのは彼らだ。私はそれに乗っただけなんだけど」
「それでもだ。君の技をこんな事に使ってほしくない」
彼女の実力は本物だ。間近で見たからこそ断言できる。実際に魔の森ではその力で助けられた。おそらく相当な鍛錬をして身に着けたものだろう。
それほどの技をこんなくだらない状況で、くだらない相手に使わないで欲しい。自分の我がままだがそれが俺の思いだった。
「君こそ彼らに恨みこそあれど助ける義理はないはずだ。今も平然と無能とか言い放ってたしね。私は自分の実力を棚に上げて、人を蔑むような輩は大嫌い……なんだよ!」
ぐっとレイシアが力を込めるのが分かる。見た目だけどドヴォルと違い、かなり力強い。それこそ油断すれば抑えられないほどだ。だがそれでも俺の魔法なら止められる。
俺はレイシアにステータスダウンの魔法をかけて、何とか抑え込んでいた。
「どうしてだい!? どうして君は……」
ここに来て初めてレイシアの本当の声を聞いた気がする。普段の彼女はどこかひょうひょうとしている。俺と初めて会った時もゆるい感じだった。
そんな彼女が今こうして感情をあらわにしている。どうやら今のこの状況に彼女自身も思う所があるようだ。
「レイシアは大切な"仲間"だからな。そんな君の将来をこんな奴ら相手に潰させたくないからさ」
だが引くわけにはいかない。ここで彼女がフォールたちを倒してしまえばますます騒ぎが大きくなる。それこそ本当にギルド総出で彼女を始末しようと動き出すかもしれない。
そんな真似は絶対にさせない。例え嫌われようとも彼女に武器を振るわせない。俺は力強く彼女を抑える。
「頼むレイシア。抑えてくれ。君が言ったんだろ? 俺に英雄になれって。それで見返してやれって。だから」
武力行使で相手を黙らせるようなやり方は間違っている。それこそ栄光の翼の彼らが過去に俺に対してやってきた行いと何ら変わりない。彼女のおかげで俺は再起のきっかけを得る事ができた。だからこそ俺は彼女に栄光の翼のやり方と同じようなやり方をして欲しくなかった。
「レイシア!」
俺は何とか抑えてくれと祈りながら説得の言葉を投げかけた。
スパっといくか悩んだのですが……
どうなるかは次回に