無能 見られる
雨がつらい
明日からの更新時は不定になるため、続きが気になる・面白いという方は何卒ブクマお願いします!
「ふぅ……。相手が弱くなっているとはいえそろそろきつくなってきたわね」
「そうだな。そろそろ日が沈み始めるし、暗くなる前に撤収しようか」
グレートボアを倒した後、俺とミラーナは森のさらに深い所まで潜っていた。俺たちが今いる辺りに出現する魔物は大体がCランク相当、グレートボアと同格程度くらいの強さを持つ魔物が出現するエリアだった。
「でも本当に驚いたわ。まさかワイルドベアやキラータイガーですらあんなに簡単に倒せるだなんて……。ヒューゴがいなかったら正直ちょっと危なかったかもしれないわ」
ワイルドベアは大きなクマの魔物で見た目通り、強靭な肉体と怪力を持つ凶悪な魔物である。キラータイガーは鋭い牙と爪を持つ魔物で俊敏な動きで相手を翻弄し、必殺の一撃を繰り出す恐るべき魔物として知られている。
二体ともグレートボアよりワンランク上の強さを持つBランクの魔物でまともに戦えば二体ともかなりの強敵だ。実際、フォールたちとパーティーを組んでいた際に遭遇した際に苦戦しながらも何とか倒せた相手なのだ。
しかし今回はフォールたちとではなく、一緒にいるメンバーはミラーナ一人のみ。二体の魔物とそれぞれ別の場所で遭遇した時は驚きこそしたものの、あっさりと倒す事ができたのだ。
(って考えるとやっぱりミラーナの言う通り、フォールたちの実力は俺が思っているより高くないのか?)
傍から見てもミラーナの剣技は美しく、洗練されたものであるという事は分かる。実際俺の補助なしでもワイルドベアやキラータイガーを倒せそうにすら見える。おそらく俺の見立てではフォールたち全員が束になってもミラーナには勝てないだろう。とはいえ逆にフォールたちが自分抜きでもワイルドベアやキラータイガーを倒せないという保証もない。ミラーナが強すぎるだけという可能性もある。
(ドヴォルよりも攻撃力が高そうなんだもんなぁ……)
あの細腕でドヴォルよりも高い火力を出す剣士。見た目によらず恐ろしい。その様はまるで筋肉ゴリ……
「ねぇ。何か失礼な事を考えてないかしら?」
まるで心を読んだかのようにジト目で俺を見つめてくるミラーナ。
「さて、素材の解体も終わったし帰ろうか」
俺はミラーナから借りたリュックに解体した素材をつめる。
「ちょっと! 後で何を思っていたのか必ず聞き出すからね!」
速足で歩く俺にミラーナは怒りながら俺の後に続き、森を出るために出発した。
思えばこの時、俺もミラーナも慢心していたのかもしれない。順調に魔物を狩り、素材を集める事ができた。さすがにさらに森の奥深く、Aランク相当の魔物が住んでいると言われている場所には安全を優先し進もうともしなかった。
魔物の事ばかり警戒していたが敵は魔物だけではない。時にはフォールたちのような人間が自分たちに牙を向ける事がある。それを俺たちは完全に忘れていたのだから……。
「へぇ……。二人だけでワイルドベアやキラータイガーを簡単に倒すなんてね」
少し離れた草陰からある人物が姿を現す。
「快進撃を続けている栄光の翼の昇級に騎士団からの人材派遣。何かあると思って探ってたけど……。中々面白いものを見させてもらったな」
その人物は女性であった。
「あの女性騎士。かなりの実力者だったけどやっぱり興味深いのは黒髪の彼かな」
その女性は彼らの戦いを遠目にじっと観察していた。気配を悟られないように。
「彼が魔法を放った途端、魔物たちの速さが一気に落ちた。それに騎士の彼女の攻撃が見た目以上に魔物たちに通ってた。一体どんな魔法を彼は使ったのかな?」
彼女は考案する。さきほど目の前で映った光景。それを実現できる魔法はパッと思いつく限りステータスダウンの魔法だ。だが彼女が知っているステータスダウンの魔法はあくまで簡易補助。あれほど大きく戦況を変える事はありえないと。
「となれば新しい魔法か……。それとも別の何かがあるのか」
黒髪の青年は魔法だけでなく立ち回りも優秀だった。適度に魔物の注目を自分に浴びせ、女性騎士の負担にならないよう、むしろ立ち回りやすいよう工夫した動きを見せていた。同じ前衛同士ならともかく、ステータスダウンの魔法を扱う彼は普通ならば後衛、前に出る事などありえない。
そんな彼がBランク相当の魔物を前にしてもあせらず冷静に動きを見極め対処していた。はっきり言って只者ではないとしかいいようがない。
しかし一方でそんな彼を栄光の翼のメンバーたちは彼を無能と判断し追放したという情報も仕入れている。彼ほどの実力者を無能と判断し追放した者たち。その実力は計り知れない。
「栄光の翼。黒髪の彼よりもすごい力を持っているのかな? 会うのが楽しみだよ」
「ぐぉぁぁぁぁ」
物思いにふけていると背後から何者かの声が聞こえる。
「……タイミングが悪いなぁ。もう少し早く来てくれれば彼らと君の戦いが見れたかもしれないのに」
女性が背後に目をやると一匹の魔物の姿が映りこむ。その大きさはワイルドベアと同等、もしくはそれ以上の巨体を持ち、手には巨大な斧を握っている。獣の姿でありながら二足歩行で歩き、得物を持つ魔物。そんな存在が彼女の前に姿を現す。
「ミノタウロス。確かギルドでいうAランク相当? の強さだったかな?」
牛の頭を持つ巨人の魔物、ミノタウロスが激しい雄たけびを上げる。咆哮を聞いたのか、別の種族の魔物たちが草陰から現れたかと思うとすぐさまその場から逃走をはかる。本能が危険を察知したのだろう。同じ魔物でも身震いするほどの雄たけび。その雄たけびを聞いても女性は身震いするどころかやれやれと肩をすくめている。
「まだそれほど深く潜ってないのに君レベルの魔物が現れるなんてね って事はあの噂はやっぱり……」
あごに手を添えうーんと考える素振りを見せる女性。それを見逃すはずもなくミノタウロスは持っていた斧を女性に向かって大きく振るう。
「ぐぉぉぉぉ!」
雄たけびと共に手で握っている斧を振り降ろし地面をえぐる。しかしそこには既に女性の姿が存在しなかった。
「魔物と言えどがっつくのは駄目だよ。女性はエスコートしないと」
いつのまにか女性はミノタウロスの背後に移動していた。それにミノタウロスは驚いたのか、それとも攻撃をかわされた事に驚いたのか。再び雄たけびを上げながら斧を振るうがその斧が女性に届く事はなかった。
いつの間にか斧が地面に落ちていたのだ。それを握っていた片腕ごと。
「ぐおぁぁぁぁぁ!」
「まぁ準備運動くらいにはなるかな。かかってきなよ」
女性はどこからか取り出した自分の得物を握りしめ、戦闘の態勢を取った。