6話 超級魔術師
父さんに紹介され部屋に入ってきたエリスという女性は転生してから、いや前世を含めても見た事がない程の美貌の持ち主だった。
胸元まで伸ばしたその白銀の髪とその肌はまるで雪のように美しく、瞳は紅い色をしていてずっと見ていると吸い込まれそうな程透き通っている。
白と淡い青色のセクシーなドレスに黒いマントの格好をしており彼女の見ただけで分かる抜群のプロポーションが強調され目のやり場に困る。
まさに美というものを体現したような存在だ。彼女自身が1つの芸術だと言っても過言ではないだろう。
だが僕は彼女の美しい見た目にも驚いたが父さんが彼女を紹介する時に言った言葉の方が驚いた。僕の聞き間違いでなければ彼女は超級魔術師だという。
魔法にはランクがある。したから下級、中級、上級とあり下級魔法を使いこなせる―魔術コードを使用して発動―ようになって初めて魔術師を名乗れる。
厳密には下級のしたに初級魔法があるが初級魔法は指先にライター程の火を出す程度のレベルだ。だが下級魔法は人1人を丸焼きにするくらい簡単にできる。
初級魔法は魔力さえあれば発動はできるが下級魔法を扱うには才能か血の滲むような努力が必要だ。
もし下級魔法を扱えれば、それだけで冒険者として食べていけるし、貴族からも声がかけられる。
それが中級魔法まで扱えれば魔術師として成功したと言ってもいい。中級魔術師になれれば冒険者で言うならCランクは約束されるレベルだ。
そして上級魔術師ともなれば、世間一般では魔法を極めたとされるレベルである。冒険者なら少なくともBランクは約束されているし、国からは宮廷魔術師として召し抱えられるレベルだ。
だが魔法には更に上がある。上級の上に更に超級、絶級、神級とあり、超級は1人で千の軍隊を相手にできると言われ、絶級は1人でドラゴンを討伐できると言われている。さらに神級となればその魔法の威力はまさに天変地異に匹敵するとも言われている程だ。
超級より上の魔法を扱えるものは人の道から外れた者ともされ、人々から尊敬されるとともに、その人知を超えた力から恐怖される存在でもあるのだ。
そんな人知を超えたとされる存在、超級魔術師が今僕の目の前にいる。
「はじめまして。超級魔術師エリスよ」
「お初にお目にかかります。ゼウノス・ライデンです。超級魔術師様にお会い出来て光栄です」
僕はソファーから立ち上がり自己紹介をする。
「ふふ、貴方が噂の天才少年ね」
「噂がどのようなものか知りませんが、自分は天才と呼ばれるような者ではないです。それに超級魔術師であるエリスさんに比べれば自分など大した人間ではないですよ」
「あなた本当に5歳?ここまでしっかり受け応え出来るとは思わなかったわ」
エリスさんは僕の受け応えに驚いているようだった。もう少し子供っぽく喋ればよかったかな?でも超級魔術師相手に失礼はできないしな。
「エリス殿こちらにどうぞ座って下さい」
エリスさんは父さんに言われ僕の座っていたソファーに座り、僕もエリスさんの隣に座った。
「それでゼウノスさっきの話の続きなんだが、エリス殿の弟子になる気はないか?」
「え、僕なんかが超級魔術師であるエリスさんの弟子に!?」
「ああ、そうだ」
「嬉しい話しだけど、僕はまだ5歳だしエリスさん程の魔術師の弟子になるには相応しくないんじゃ…」
「その理由は私が話をしましょう」
「それではエリス殿、説明をお願いします」
エリさんがそう言うと僕を弟子にしたい理由を話し始めた。
「えーと、まず私の事から説明させてもらうわね。私はエルフと魔族の間に生まれたハーフエルフなの」
確かにエリスさんの耳は純血のエルフほどではないが人間と比べると長く、瞳は魔族の血が流れているからか紅い。
「私はリヴァイア大陸で50年程冒険者をしていたんだけど仲間が引退すると同時に私も冒険者を辞めてね。しばらくは魔法の研究に専念していたわ」
リヴァイア大陸は僕の住んでいるイグニス大陸の西側にある大陸である。それにしても50年冒険者をしていたのか。見た目は18歳〜20歳くらいにしか見えないのに。長命種のエルフと魔族の血を引いているだけはあるんだな。
「それで、そろそろ自分の研究の成果を誰かに引き継がせようと思ってね。才能のある子を探していたのよ」
「それが僕なんですか?」
「ええそうよ。その年で4大属性を扱えてその魔力量、控えめに言っても10年に1人の逸材よ」
超級魔術師にそんな褒められるとはさすがに照れる。
「でも貴方に私の弟子になってもらいたいのだけど条件が2つあってね」
「条件ですか?」
「1つ目は、私の弟子になるなら私と一緒にリヴァイア大陸に来てほしいの。当然、両親とは離れ離れになってしまうわ」
僕は父さんと母さんの方に視線をむけると2人は口を開いた。
「ゼウノスこれはお前の人生にかかわる事だ。自分で決めなさい」
「ゼウノスどちらを選んでも母さんも父さんも怒らないわ。貴方と離れ離れになるのは悲しいけど貴方が本気で魔術師になりたいと思っているのならエリスさんの話は悪い話ではないわ」
2人ともとても緊張したような面持ちでそう答えた。実の息子と離れ離れになってしまうかもしれないのだ。それでも僕の気持ちを優先してくれるのは、息子の夢を応援してあげたいと言う親心なのだろう。
なら、両親の思いには答えなければならないだろう。
「父さん、母さん、僕はエリスさんの弟子になって魔法を学びたい」