4話 バート・ライデン
僕は妹のララとリリに言われて父さんと母さんのいる書斎の前にやってきた。
「父さんゼウノスです」
「ゼウノスか、入りなさい」
「はい、失礼します」
部屋に入ると中央に大きなテーブルがあり左右にソファーがある。
そのソファーの片方に父さんと母さんが座っており、僕が対面側のソファーに座ると、控えていたメイドが紅茶を淹れてくれる。
「ゼウノス様、紅茶をどうぞ」
「ありがとう、いただくね」
僕は淹れてもらった紅茶をひと口だけ飲むと正面にいる両親に視線をむける。
母さんは相変わらず茶色い髪を腰まで伸ばしており見た目はお淑やかで物静かな女性ってイメージだ。
母さんははもと貴族令嬢なだけあって作法やマナーはさすがと言ったところだが、竹を割ったようなサッパリした性格で細かいことはあまり気にしない。
対して父さんは190ちかい身長にこの国では珍しい黒い髪と瞳の持ち主で、前世で言うなら頭脳明晰な会社経営者ってイメージだ。実際、ライデン商会を立ち上げて上手くやっているし、同業者から切れ者として認識されているみたいだ。
そして父さんの見た目は別大陸にいる戦闘民族の血を濃く引き継いでいるかららしく、魔道具師でもありながら身体能力はとても高い。街にいるチンピラ程度ならまず返り討ちにできる。
そんな僕も父さんの血を引き継いでおり黒い髪と瞳の見た目をしている。
「それでゼウノス来週の話なんだが、」
「来週の話って神殿で洗礼を受けること?」
「ああ、そうだ」
この世界では神とは実際に実在し人々を導いている存在だ。それ故に人々は5歳になるとこの歳まで無事に成長出来たことを神に感謝し祈りを捧げる。
その際、神殿から神の信徒として洗礼を受けることになっている。この洗礼を受けることによって神からの祝福を受けることができるのだが、この祝福をどの神に授かるかによってその後の人生が大きく変わると言ってもいい。
たとえば、水の女神の祝福を受けたならば水属性の魔力が発現し、剣の神の祝福を受ければ剣の才能があると言うことになる。
まあ、水の女神の祝福がなくとも水属性の魔法は扱うことはできるし、剣の神の祝福がなくともその人の努力次第では達人の領域に踏み入ることはできる。
しかし、祝福を受けた者はその分野では圧倒的なアドバンテージを持つことになるので、普通は授かった祝福が活かせる職業に就くことになる。
だが、ほとんどの平民は農業神や漁業神などの一般職業の神の祝福を受けるので、親の家業を継ぐのがほとんどだ。
しかも祝福は人1人に対して神1人の祝福しかもらえないので、この5歳で受ける洗礼によって人生が決まると言っても過言ではない。
「この洗礼の結果次第でこの後の人生が大きく変わるのは知っているな?」
「うん、ほとんどの人が授かった祝福にあった人生をおくるからでしょ?」
「ああ、そうだ。祝福とは神から授かった力であり、生きる為の道しるべになるからだ」
そうだよね。そんなことは今更言われなくても分かっているつもりなんだけど。
「だがゼウノスお前は違う。親の私が言うと親バカだと思われるかもしれないがお前は天才だ」
え、急に何?
「下級魔法とはいえ、5歳で4大属性の魔法を使いこなし、文字の読み書きや計算もできる。すでに貴族や有名商会からお見合いの話もきている」
5歳児にお見合いって早すぎるでしょ。てか父さんの僕に対する評価ってこんな高かったの!?
母さんの方を見ると父さんの言葉に頷いているのが見える。
「それでゼウノスお前に聞きたい。将来は何になりたい?」
急にそんなことを言われてもな。やりたい事はいっぱいある。でもしいて言うなら
「急に言われても困るけど、やっぱり魔術の道には進みたいかな」