第93話
ここ最近、ちぃちゃんの面倒を九十九ちゃんが見てくれる。
もう俺要らないんじゃないってくらい、ほぼ毎日遊びに来て相手をしてくれる。
割と人見知りなちぃちゃんが懐くあたりから相性も抜群だ。
二人してトランプしている姿なんかは、ちょっと年の離れた姉妹のような感じがして、見ているこっちがほほえましくなるものがあった。
「ろいやーすとれーとふぁっしゅ!! あいてはしぬ!!」
「そういう技ではないですよ、千絵さん」
「けど、ぽーかーでさいきょーのてがろいやーすとれーとふぁっしゅでしょ? 違うの、つづねーちゃ?」
「ふむ。まぁ、そうなりますが。ジョーカーを含めれば、ファイブカードという手もあります。この辺りは地方によってルールが異なりますから、具体的にどれが最強ということは」
「もーっ!! つづねーちゃはときどきよくわかんないこという!! よくわかなんないことめっ!! きんしです!!」
「……すみません」
いや、謝る必要ないと思うけど、九十九ちゃん。
しかし怒られてしょんぼりするかと思ったら普通に笑顔だな九十九ちゃん。
なんだいそれ。
子供大好きか。
なんにしても九十九ちゃんがいいならそれでよし。
「おー、今日もトランプ?」
「あぁ、陽介さん。はい。今日はちょっと難易度の高いポーカーをちぃちゃんに教えていました」
「みてみてよーちゃん!! ろいやーすとれーとふぁっしゅだよ!! ちぃ、さいきょうのかーどをあつめちゃった!! えへん!!」
ふむ。なるほど。
ダイヤとハートがごちゃ混ぜの上に、順番も揃っていない。
こいつはブタだ。
けれども、それをちぃちゃんに向かって言う度胸なんてない。
それはどうやら九十九ちゃんも同じらしい。
接待プレイ。
この町のアイドルちぃちゃんが、これはろいやーすとれーとふぁっしゅと言ったら、そうなのだ。
俺と九十九ちゃんは視線を交わしてそっとうなづき合った。
「やっぱちぃちゃんにはまだポーカーは早かったかな」
「ですね。ちぃさん、つぎは七並べをしましょうか」
「すうー!! ちぃ、しちならべすきー!! なぜなら、おわったらかーどのじゅんばんがそろうからです!!」
「独特なセンスですね」
本当にね。
あの姉貴にしてこの娘ありだよ。
今でこそ、傍若無人の気はないが、将来的にはあのババアみたいに、きっつい女の子になっちゃうんだろうかね。そう思うと、ちょっと不安だ。
いや、ちぃちゃんはあんな全世界の男のトラウマみたいな女にならない。
きっと素敵に成長して、そして、そのままきらきらとした女の子になってくれるに違いないんだ。
肉親の俺が信じてやらなくてどうする。
姉貴とちぃちゃんは違うのだ――。
「……なに難しい顔してんの陽介?」
「おぁっ!! 廸子!!」
「あ、廸子さん」
振り返ると、そこに廸子が立っていた。
エプロン姿。
マミミーマートでの姿がすっかりと板についた彼女が、珍しく家庭的な格好をしているのに、ちょっとどきりとする。
彼女は俺の背中越しに、居間で遊んでいるちぃちゃんと九十九ちゃんを見ると、ほうほう、楽しそうねと穏やかに笑う。
「九十九ちゃん、夕飯できたから呼びに来たよ。いつもちぃちゃんのお世話ありがとうね。どっかの馬鹿が職務放棄したおかげで大変でしょう?」
「放棄していない、俺はちぃちゃんとはいつだって遊びたいし、お世話することに抵抗感はない。しかし、九十九ちゃんのようなかわいい女の子が、ちぃちゃんと遊びたいというのを止めるほど無粋な男ではないだけのこ」
「大変じゃないですよ。私、末っ子だったので、妹がずっとほしかったんです」
「むししないで」
はいはいよしよしと廸子が俺の頭を撫でてくれる。
そういうところ好き。
いや、話振って来たのはお前だけどさ。
けど、このフォローでもう俺は廸子のことゆるしちゃうもんね。
こんなバブみのある幼馴染、今時珍しいってもんですぜ、旦那。
それはともかく。
ちぃちゃんと一緒にトランプを片づけながら、もじもじと恥ずかしそうに肩を揺らす九十九ちゃん。よっぽど、先ほどの言葉が照れくさいのだろう。
そっか、妹が欲しかったのか。
というか家族が欲しかったんだろうな。
有馬のホテルで、親御さんを次々に亡くして、兄弟たちはどこか冷めていて。
そんな状況が長く続いて、寂しくないわけがない。
年頃の娘ならばなおさらだ。
なんだか聞いて悪かったなと言う間が、俺と廸子の中に流れる。
そして、それを察して、あぁ、いえ、と、慌てて九十九ちゃんが言葉を補う。
「今はとっても幸せですよ。ちぃさんもですが、廸子さんに誠一郎兄さま、陽介さんをはじめとする豊田家の皆さんと、こちらに来て身近な人が増えました」
「九十九ちゃん」
「そっか、そういう風に思っててくれたんだ。それはそれで嬉しいな」
普段はこんなこと、こっぱずかしくて言えないのだろう。
というか、まぁ、普通はそんなの家で言わないわな。
気恥ずかしそうに顔を掻く廸子と九十九ちゃん。
どちらもその素振りがそっくりで、まさに親戚という感じだ。
と、そんなところに。
「えー!! つづねえちゃかえっちゃーのぉ!! しちなーべは?」
「……ごめんね、ちぃちゃん、またそれは明日にしよう」
「うぅっ、たのしみにしてたのにぃ」
九十九ちゃんに縋り付いて、いかないでのポーズをとるちぃちゃん。
うむ、こんな感じにすがられてはどうやったって言葉に困る。
九十九ちゃんが困った感じに苦笑いするのを、俺たちもまた苦笑いで眺める。
ほんと、実の姉妹のように懐いたもんだなちぃちゃんも。
「ちぃちゃんは、ほんと九十九ちゃんのことをがすきだなぁ」
「うん!! つづねぇちゃ!! いっぱいあそんでくえるからちぃ好き!!」
「現金だなぁ」
「あとね、あとね……つづねぇちゃはびじんさんで、かぁいいから、ちぃのあこがれなの!! おおきくなったらね、ちぃも、つづねぇちゃみたいになるのぉ!!」
なるほど。
確かに九十九ちゃん、廸子と違ってしっかりとした黒髪だし、清楚系美少女だし、なにより花も恥じらう年頃乙女だものな。
いまさらだけれど言われてみると、ポイント高いよ彼女。
うん、間違いなく、玉椿ガールズコレクションのメインを張れるレベルの逸材。もっとも、ガールズコレクション、ほぼ、定員割れ起こしていて、隣のヤンキー娘も普通に入っているけれど。
まぁ、くだらない言葉遊びはともかく。
ちぃちゃんに綺麗と言われて、ちょっと照れる九十九ちゃん。
ホテル時代の感じがまだ抜けきっていないのか、それとも地なのか。なんにしても、この姉の薫陶を受けたならば、どこぞの姉の血は消えることだろう。
これからもよくしてやってくれなと、俺は悶える九十九ちゃんの背中に、期待のまなざしを向けるのだった。
「そ、そうだ、ご飯の時間でしたね。すぐ行きます、廸子さん」
「あ、いや、なんだったらもうちょっと後でも」
「いけません。ご飯は毎日決まった時間に食べなくては、生活リズムがおかしくなってしまいます。では、私は一足先にこれで」
「ばいばいつづねーちゃ」
「……ばいばい、ちぃちゃん」
柔らかく笑って部屋から出ていく九十九ちゃん。
ちょっと心配したけれど、どうやらこの調子なら、玉椿町に馴染むのそう遠くないことだろう。なによりあの性格なら、誰からも嫌われることはないだろう。
なんだか妙な安堵のため息を俺と廸子は同時にこぼしていた。
なんだかんだで、九十九ちゃんのことを心配していたのだ。
うん。
ありがとうちぃちゃん。
君のおかげでなんとか彼女のことが分かったよ。
って、言っても、きっと意味わからないんだろうけど。
「さて、それじゃ、私も家に戻りますか」
「あ、廸子?」
「うん? なんだよ陽介?」
「ちぃちゃんのあこがれのおねえちゃんのざをうばわれたからってやけになるなよ。おまえにはおまえにしかないいいところがいっぱいあるんだから」
「あうんだからぁ!!」
「……なんの慰めだよ」
美香さんや九十九ちゃんが現れるまで、ちぃちゃんの憧れの視線を一身に受けてきた幼馴染へのフォローだよ。
そういうの忘れない辺りさすがは幼馴染ってもんだろう。
なに――。
「マニアックなよさは、としをへてわかるものさ。いまはとしのちかいつづらちゃんにあこがれるかもだけど、いいとしになればゆずこのよさもわかるさ」
「わかるさ」
「じゃぁ、いったいなんだよ、アタシのいい所って」
え、あ、それ、聞きます。
いい話だなぁで、すぱっと終わらせようと思っていたのに。
ちょっと、それは不意打ちでございますよ廸子さん。
まいったな。
慰めるのが目的で、まったく考えてなかった。
廸子のよい所。廸子のよい所。うぅん、となると。
「意外とかわいいものが好きなところ、とかかな」
「関係なくない!?」
「あと、ちろるとかぶらっくさんだぁとか、おかしのちょいすがかわいい」
「ちぃちゃんまで!?」
「あと、金髪に染めてるけど、私服は言うほどパンク系とかビッチ系とかじゃなく、普通に今時の若い子の格好ってのも好感度高し」
「あとかしこいの。いんてりさんなの。さすがかんごふさん」
ぷるぷると、腕を顔の前に伸ばして、口元を隠す廸子。
その状態で彼女は、絞り出すような声で言った。
「ちょっとやめて。ほめられすぎて、なんかちょっと変な感じになる」
「でしょうねぇ」
こっちもノリノリでほめちぎりましたからね。




