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第25話

「ちぃちゃん。今日は一緒に虫取りにでも行こうか」


「やっ!!」


「テントウムシさん、ダンゴムシさん、チョウチョさんとか、いっぱいいるよ?」


「やっ!! ぽえもんのほうがいい!! いーぶぅいのほうがとりたい!!」


 これが、噂に聞いたイヤイヤ期か。


 ポケモンGOの味を覚えた子供の顔をしていやがる。

 タブレットを持って、じっとこっちを見るちぃちゃんに、俺はかぶりを振った。


 いーぶぅいか。

 ぴぃかぁちゅうが欲しいとか言い出すよりは可愛いが、難しいことを言う。


 ディグダとかドードーとかイシツブテやキャタピーではいかんのか。

 いかんのだろうな。


 子供は可愛いのが好きだからな。


「とにかく、ちぃはぽけもんぎょーがやりたいです!!」


「誰だよちぃちゃんにタブレットでソシャゲ教えた奴!!」


「仕方ないだろう!! ポケモン仲間が欲しかったんだから!! ワシだってね、アルバイトで時間持て余しているから、どう時間をつぶしたもんか困っとるんじゃよ!! 玉椿町のオーキド博士とは、誰が呼んだかワシのことじゃよ!!」


「その割にはイシツブテばっかりじゃねーか!!」


「ワシのホームセンターはイシツブテの産地なんじゃ!!」


 親父のせいであった。


 もー、ゲーム規制はよくないけれど、子供に与えるゲームはもうちょっと考えて。

 いや、いいけどさ、ポケモンGOもさぁ。


◇ ◇ ◇ ◇


「ということがあってだなぁ。もう今日は、一日中町を歩き回りの、ポケモンを探しまくりの大忙しでございましたよ」


「へぇー、けど、イーブイはなかなか出ないんじゃないの」


「玉椿町ね。タマタマとマルマインと、イシツブテとコイキングしかいないのよ。ほんと、田舎かって感じよね。トキワの森かって感じよね」


「トキワの森ならピカチュウ出るだろ」


 田舎はモンスターの出もしぶくて困るよ困るよ。

 もうちょっと、バランス調整してほしいなと思ってしまう。

 まぁ、レアなモンスターが出た傍から、すぐ取りに行っちゃう奴がまたぞろいるってのもあれなんだけれども。


 ポケモン博士こと、うちの親父の布教によって、我が町では高齢者層に大人気ですポケモンGO。


 スマホの使い方もろくに分からないおじいちゃんおばあちゃんたちが、モンスターボール投げるジェスチャーだけは流れるような指さばき。

 ほんと、ゲートボールよりも人気があるからびっくりよね。


 元気なもんだご老人。


 そして、今日コンビニにやって来たのは、他でもない。


「しかしまぁ、ポケストップに登録してるおかげで、マミミーマートはそこそこ繁盛してそうね。おじいちゃんたちよく来るんじゃない?」


「あー、まぁー、そこそこだなー。ポケストップ、公民館や図書館も登録してるから、そっち行く人も多いや」


「そうなん」


「田舎だからやっぱりなぁ、そういう公共施設も乗っかってくる訳よ。あと、マミミーマートは最近できたろ。だから、なじみがあんまりないんだ」


「前からのプレイヤーは他の方にはけちゃう訳か、なるほどねぇ」


 てっきりポケストップのついでにお買い物でがっつりがっつり。

 うっはうっはのウィンウィン関係かと思ったら、そんなでもないのか。

 ババアにしてはちょっと脇の甘い対応だな。


 という訳で。

 俺はちぃちゃんと親父に頼まれて、ポケモンのHPとアイテム回復のために、ポケストップことマミミーマートにやって来ていたのだった。


 中に居るのがジョーイさんじゃなくて、金髪髪のヤンキーさんなのが残念。

 もともとはカンゴーフさんなんだけれどねぇ。

 どうしてなのかねぇ。


「けど、ピンクに髪を染めちゃったら、もう擁護できないことになっちゃうしな」


「おい、なんでアタシを見ながらそんなことを言う? というか、お前に擁護されたことなんてないんですけれど?」


「……知っているか廸子、この世で最もえちえちな目に合っているヒロインは、金髪なんだぞ? 姫騎士だったり、生徒会長だったり、幼馴染ツインテールだったり。つまり、ピンク髪よりよっぽどえちえちなんだよ?」


 意味が分からんという顔をする廸子。


 あ、このセクハラは失敗ですわ。


 淫乱ピンクネタで行こうと思ったけれど、廸子ちゃんあまりにピュアすぎてそういう概念からは遠い存在だったわ。

 ヤンキーだったわ。

 オタク文化に理解のない、そういう娘だったわ。


 はー、迂闊迂闊。


「なに言ってんのか分かんないけど、ツインテールとか三十路になってしないからな。絶対にしないからな」


「おぞましいことを。ドン引きですよ、そんな髪型にしたら流石に俺だって」


「……ドン引きすることはなくねぇ?」


「あ、これ、ちょっとやってみてくれるノリの奴でした?」


「やれやれまったく、コスプレ談議は結構だが、そういうのは二人っきりの場でしていただきたいな。それもまた不特定多数に対するセクハラというものだぞ」


「ババア!!」


「店長!!」


 なんだ、今日は家で姿を見ないなと思ったら、ここに居たのかババア。

 ちぃちゃんなだめすかすのに苦労してたのにどこ行ってたんだか――。


 って。


「ちょっと、なにピッチリした赤いライダースーツ着てるんだよ!! おい、ババア、なんだその、妙なサイキック感がある姿は!!」


「千寿さん、バイクはもう卒業したんじゃ?」


「ふっ、陽介よ、お前は一つ勘違いをしているぞ」


 何をだ。

 俺が何を勘違いしているというのだ。


 ババアよりはよっぽど世の中を見ているし、少なくとも、よっぽどちぃちゃんとのコミュニケーションも取っているぞ。

 なのに、俺がいったい何を勘違いしているというのだ。


 その時、一つの真理が頭の中を過る。


「そ、そうか、なるほど。シンプル過ぎて忘れていた」


「何を忘れていたっていうんだ、陽介」


「あぁ、うっかりしていたよ。金髪キャラのインパクトばかりに目が行って、一番の定義を見失っていた」


「ふっ、ようやく理解したようだな」


 この世で最もえちえちなキャラクター。

 それは、金髪キャラクターではない。


 黒髪ロングお姉さんキャラだ。


 退魔忍だって。

 マガジンの漫画の正ヒロインだって。

 そしてそして、コンビニで売られているえちえち漫画だって。


 みんな、黒髪ロングなんだ――。


「けど、その前にババアだから!! お前ババアだから!! 歳考えろ!!」


「憤怒!!」


 げしり。

 俺はババアに蹴られてマミミーマートの宙に舞った。


「……ところでどうしたんです、その恰好」


「ふむ。ポケストップから一つ抜けて、ジムに昇格させようと思ってな。ジムリーダーやるならまずは格好から。それっぽい姿になってみたんだが」


「あぁ、ヤマブキシティの」


「あとはエスパー系ポケモンさえ揃えられればいい感じなのだがな。田舎はユンゲラーもケーシーも出ないから、困った困った」


「だから発想が赤緑ババアなんだよ……げぇっ!!」


 初代のジムリーダーのファッションセンスではジムリーダーはなれんでしょう。

 もっと、最新版のファッションに寄せていってどうぞ。

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