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第166話

「ということで、海に遊びに行くことになったんだ。一泊二日。コテージ借りてさ、バーベキューとかするリア充の宴的な奴」


「リア充の宴って」


「まぁ、そこはおいといて。どうかな、よかったら走一郎くんも行く?」


「……お兄ちゃんが運転するの?」


 うん。

 そうだけれど、なんでそんな複雑な顔するの。

 お兄ちゃんちょっと分からない。俺、なんか君を不安にすることしたっけ。


「光ちゃんや九十九ちゃん、美香さん達も行くって言うからさ。結構な大所帯で、ハイエースくらいレンタカーで借りようかなとは思ってるんだよ」


「……レンタカー」


「いつもと違う車だから無茶な運転できないし、たぶん俺と美香さんと実嗣さんで交代しての運転になるかな」


「……なんだ。なら安心」


 ほっと息を吐く走一郎くん。

 いったい何に安心したのか、どうして安心したのか、よく分かんない。

 ただ、なんか警戒されていることだけは分かった。


 なんにしても。

 ちぃちゃん連れての小旅行はいつの間にやら話が大きくなっていた。

 ことの発端は、この話を光ちゃんにちぃちゃんが漏らしたことから始まる。いいなぁという彼女に、だったら一緒に行くかいと俺が言ってしまったのだ。

 本当に光ちゃんがあかりさんに許可を取ってきて、行ってもいいかなと尋ねてきた時には、流石に俺も廸子もダメとは言えなくなった。


 子供が二人に増えた瞬間、もうこれはしっぽり旅行は無理だなと悟った。

 そして、子供二人の世話を俺たちでこなせるのかという疑問が頭を過った。


 なんといっても彼女らは遊び盛り。

 その無尽蔵の体力に、三十を越えたおっさんたちが太刀打ちできるのか――。


 限られた空間である川遊びならばともかく、観光客でごった返している海岸だ。

 ちょっと緊張感の度合いが違ってくる。


 傭兵だ。

 ここは傭兵がいる。


「海水浴ですか。いいですね。私も海へは久しく行っておりませんし」


「まぁ、有馬だと海に出るのはちょっと難しいよね」


「九十九ちゃんも夏の思い出作った方がいいだろうし、どうかな」


「……うーん、まぁ、そうですね。ちぃちゃんたちも行かれるのであれば、私が居た方が何かと都合も良さそうですし」


「いろいろとお察しいただきありがとうございます」


「当日はなんなりと食べたいものを申しつけください」


「いえいえ、困ったときはお互いさまですから」


 ということで、九十九ちゃんを誘った訳だ。

 まぁ、小学生に中学生をつけて、俺たち二人が着いていればもう問題はあるまい。これでなんとか、海水浴をつつがなく執り行うことができるだろう。


 などと思っていたら――。


「話は聞かせて貰った。真夏のアバンチュールね。行き先は志摩でいいかしら」


「私たちも同行しよう」


「「バカップル!!」」

 

 いったいどこで話を聞きつけたのか、マミミーマートに盗聴器でも仕込んでいるのか、そこに美香さんと実嗣さんが乗っかってきた。


 いや、あんたらこそ俺たちなんか構わずに二人で旅行しろよって話だ。

 同棲も楽しいのかもしれないけれど、いい加減進展しないと、そのままずるずるいくよ。どっちが腹をくくるかは知らないけれどさ。


 そんな訳で、コンビニでまったく不意打ちに話に混ざられた俺たちは、なし崩しで美香さんたちの参加を認めることになった。


「まぁ、ようちゃん一人でロングドライブは心配だしね。皆で交代して行った方が疲れは溜まらないでしょう?」


「そういうことだ。それに、ちぃちゃんがらみのことでもある、親戚なのだからもうちょっと頼ってくれてもいいんだぞ、陽介くん」


 美香さんも、実嗣さんも、姉貴からちぃちゃんを盗られるんじゃないかと警戒されて、最近家を出禁にされているからなぁ。

 きっと、ちぃちゃんと遊びたいんだろうな。

 ちっちゃい子と遊ぶのって楽しいからなぁ。


 けど、そんなことするより、自分たちの子供を作った方がいいと思う。

 はよ籍入れた方が良いと思う。結婚するべきだと思う。

 六月過ぎちゃったし、あと一年くらい待つつもりなのかな。

 美香さん、乙女だからな。

 そういう験担ぎというか慣習とか大事にするもんな。


 はい、キャメルクラッチ。


「いいから連れてけ陽介!! 先輩の親切には甘えとけ!!」


「わわわわ、分かりましたから離して!! いたたたたたたたただだだだだ!!」


「……美香さん素直じゃないな。海水浴デートに、二人きりの時間がないのは可哀想だし助けてあげようと言っていたのに。だが、そんな素直じゃない君も素敵さ」


「やだぁー、実嗣さんばらさないでよ恥ずかしい!! もぉーっ!!」


「俺の身体がバラされる!! うぎゃぁーっ!! 親切なんだか、暴虐なんだか、どっちなんだよほんともー!!」


 かくして、ここに美香さん実嗣さんが無理矢理加わり、もうなんかこれ、レンタカー借りた方がいいな。借りるなら、せっかくだし大人数で行った方が楽しいな。

 そうだ前の川遊びのメンバーでいこうかという、そういう流れになったのだ。


 閑話休題。


「急な話なんだけれどどうかな。あ、夏子ちゃんは廸子が誘ってるけど、行くみたいなこと言ってたよ。親に確認取ってからにするみたいだけど」


「夏っちゃんが? うーん、そうなんですか?」


 おっと、幼馴染みの名前を出した途端に露骨に食いついてきたな。

 走一郎くんも男の子よな。


 けどまぁ、これだけの人数になっちゃうと、流石に男女に分かれてご宿泊。

 ドキドキ感はないよね。


 好き合う男女が一つ屋根の下。

 そんな漫画チックなシチュエーションにはならないのよね。


 実際、コテージも二つ取っちゃったし。


 けどそれを抜きにしても、真夏の浜辺は放っておけない男女のイベント。

 川遊びの時とはまた違う、海だからこその魅力がそこにはある。


 男なら、いかない手はない。


 ちょっと考える走一郎くん。

 彼にも彼のスケジュールがある。

 いろいろ考えなくてはならないことは多いだろう。


「一つだけ、条件があります」


「なになに? もしかして、ちょっとお仕事の都合で急には休めない感じ?」


「いえ、僕はまぁ、テストレーサーですので、ほとんど会社では暇しているというか、みんな気を遣ってくれて割と休暇は自由に取れるというか」


 いいな走一郎くんの会社。

 若い社員に優しい会社ってなかなか今のご時世少ないよね。

 親がやってる会社にしても、そういう臨機応変な感じ、ほんとすばらしいと思うわ。そして、素直にうらやましいと思うわ。


 うちも、親父が会社でもやっていれば、こんな苦労をしなくてすんだのに。


「会社の方は別に問題ないんだね。じゃぁ、いったいなんのお願いが」


「レンタカーですけれど、僕の方で手配させていただいて問題ないですか?」


「……まぁ、別にまだレンタカーは予約してないから構わないけれど?」


「というか、うちの会社の社用車を出してかまいませんか?」


 社用車って。

 いやそれは、流石に走一郎くんの会社に悪いよ。

 そんな、私用の旅行だっていうのに、わざわざ社用車を借りるなんて。

 いくら仲良くさせていただいているからって申し訳ない。


 というか、走一郎くんの家には迷惑しかかけていないし――。


「ちょうどいい車があるんです。なので、まぁ、遠慮なさらず」


「いやいやいや、流石に普通に借りるよ!! レンタリースとかで!!」


「保険もこっちでちゃんと手配しておきますので!! 何があっても大丈夫ですので!! 対物対人最大三億円まで保障できる奴をつけますので!!」


「まるで何かあるみたいな言い方だね!! ちょっと傷つくよ!!」


 俺のドライビングテクニックを信じていないのかね走一郎くん。

 地味に傷つくこと言われちゃったなぁ。


 前に駅まで送ってあげ――あっ。


「び、ビニール袋も、その、大量に積んでいきますので」


「……ごめん走一郎くん。嫌なこと思い出させて」


「いえ、その、気にしてませんので」


 そうだったわ。

 走一郎くんバイクは大丈夫だけれど、車だと酔いやすいタイプだったわ。

 それで一度、大変なことになっていたわ。


 家の車だと多少マシなんですけれどって涙目で言ってたわ。


 すっかり忘れていたわ。

 そして、地味にこれもハラスメントだわ。

 ○ロハラだわ。


 人として最低のハラスメントだわ。


 分かった。

 そういう事情なら仕方ない。

 俺は走一郎くんの提案を受け入れた。


 まぁ、レンタカー代は浮くし、走一郎くんも安心して乗れるし大丈夫だよね。


「あと、ガッチガッチにセーフティドライブのナビも入れておきますので」


「……いや、それはなんで?」

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