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第115話

 私の名前は八代夏子!!

 県内にある私立女学校に通う高校三年生よ!!

 そして、二つ下の幼馴染――本田走一郎のことが好きで好きでたまらない、オネショタのオネ担当を自負する女!! そう、オネショタのオネを自負する女!!


 けど、絶世の美少年にして性格満点!!

 さらに家柄も申し分ない御曹司――走一郎を狙うオネはこの世に多い!!


 これまで、彼にそれとなく近づいてきた不貞の輩は数知れず!!

 影ながら私の会社の人――むくつけき町工場男子――で追い払ってきたわ!!


 けれど、今回は完全に後手に回った!!


「まさか試走に行った南勢地方の田舎町で、かどわかされてくるだなんて――」


 どうしてくれよう!!

 まさか、仕事終わり疲労困憊の社員たちに向かって、南勢地区に向かいなさい、これは社長令嬢命令よなんて言えるわけがない!!


 社員は会社の宝!!

 それは、走一郎のおじいちゃんと、うちの死んだおじいちゃんが固く結んだ誓いの言葉!! それを孫の私が破る訳にはいかない!!


 どうしてくれよう!!

 そんなことを考えるうちに月日は流れてはや一か月!!


 ついにその時が来た――。


「夏っちゃん。あのね、よかったらなんだけれどね。玉椿町のみんなで、こんど川で遊ぼうってことになったんだけれど。夏っちゃんもよかったらどうかな」


 これだわ!!

 その場を介すれば、社員たちに無理な命令を出さずとも、直接的に走一郎に群がるオネたちを断罪することができる!!

 こんなこともあろうかと幼き頃から習ってきた中国拳法が役立つ時が来た!!


「……あの、夏っちゃん? やっぱり、嫌かな?」


「否ッ!!」


 私は全身全霊、裂ぱくの気合を込めて走一郎の問いかけに応えた!!


◇ ◇ ◇ ◇


「超美人じゃん!! 美少年のお姉ちゃんは美少女みたいな法則でもあるの!? ほんでもってなんなの高校生の身体つきじゃない!! モデルさん!?」


「いや、どういうこともこういうことも、見たまんまのことだろ」


 美少女が来た。

 黒いリムジンカーに乗って美少女が来た。


 白いなんかお嬢様がよく着ていそうな、童貞が殺せそうなワンピースっぽい服をまとって美少女が玉椿町にやってきた。

 おもわず、玉椿の住人たちがざわつくような、あか抜けたお嬢さんがやってきた。


 なんてこった。

 まさかこんな事態になるだなんて。


 軽い調子で走一郎くんに――。


「今度みんなで河原で水遊びするんだけれど走一郎くんもおいでよ。そうだ、喧嘩している幼馴染連れてきなよ。それとなく例の件の誤解を解いてあげるからさ」


 なんて言ったらこんな美少女がやってくるなんて。


 週刊少年誌のグラビア飾れるくらいの、美少女がやってくるなんて。

 ちょっと想像できなかったぜ。


「どうする。俺たちのチャン美香先輩慰めバーベキュー。川遊び、もちろん水着もあるよんが、一気になんか美少女グラビア撮影会みたいになっちまったんだが?」


「びしょうじょぐらびあさつえいかいのほうがけんぜんだとおもうよ」


「んな訳ねえだろ!! お前なぁ、ちゃんと週刊少年誌のグラビア見たことあるのか廸子!! 世の、エッチなご本を買うことができない少年たちが、あれにどれだけお世話になっているのか!! お前、ちゃんと分かってるのか!!」


「……わかんないけどおせわになったの?」


「冗談じゃないか。そんなマジな目でこっち見んなよ、よせよ恥ずかしい」


 なりましたよ。

 えぇ、なりましたともさ。


 そりゃ僕だってね、健全な男の子でしたから。

 お世話になりましたともさ。


 週刊少年誌のグラビアにはお世話になりっぱなし。


 少年の頃も、青年の頃も、ともすると中年に入っても。

 だってグラビアの発色があまりにも鮮やかだから。


 けどね廸ちゃん。

 廸ちゃんとの思い出の方が、俺の中ではよっぽどグラビアより鮮やか。


 グラビアよりお世話になってるよ。

 いつもありがとう。


 今日もセクシーマイラブリー幼馴染エンジェル廸子。


 はい、引いた顔しない。冗談だから。


「しかしまぁ、いい具合に晴れたな。絶好のバーベキュー日和&水遊び日和」


「晴れ晴れとしたいい日だな。川の水も綺麗だし」


「うーっ!! さっそくおよぐのー!!」


「ちぃちゃん、ダメですよ。川遊びは危険なんですから。まずは準備運動、それと浮き輪とゴーグルでちゃんと装備をして」


「心配しなくても大丈夫だよ。アタシ、100メートルくらい泳げるし。ちぃも特訓すれば、すぐにそれくらいできるようになるさ」


 さて。

 グラビア美少女登場はいったん置いといて。

 本日お集まりになったのは他でもない。玉椿町のかしまし娘たち。


 廸子、ちぃちゃん、九十九ちゃん、光ちゃんである。


 まぁ、廸子は発起人。

 ちぃちゃんはターゲットを誘い出すための餌。

 そして、彼女が出るなら、友達の九十九ちゃんも光ちゃんも出てくる。

 ということで、こういう形になった。


 野郎一人に女の子が数名というまごうことなきハーレム展開。


 けど、残念ながら主人公がおっさん32歳なのよね。

 ウキウキもワクワクもない、はらはらとそわそわ保護者目線になっちゃう。


 そこに加えて――。


「……あははは、たいようまぶしー。やだー、空から降ってくる紫外線と言う名の死ね死ね光線でめっちゃ病む」


「今日、美香さん、鬱の日だったんだね」


「躁の日は躁の日で、手が付けられないって聞いてるけど。これはこれで、こっちのメンタルがもたないっていうか」


「子供には見せられないというか」


 本日の主役。

 美香さんだ。


 魅惑のギリギリアラサーキャリアウーマン。

 ハワイで披露した魅惑の水着をこの玉椿町でも解禁するのかと思いきや、なんと、半袖、半ズボン――ステテコというラフスタイル。もはや、イベントを捨てた喪女感半端ない感じで、彼女は少し離れた岩場に膝を抱えて天を仰いでいる。


 うぅん。

 ほんと、もう、なんていうか、見てらんねえ。


「……慰めようと思って始めたこのバーベキューだけれど、はたして本当にこんなので美香さんは立ち直ってくれるのだろうか」


「最初からあきらめてたら何も始まんないぜ。大丈夫、ちぃちゃんや光ちゃんたちもいるんだ。ちっちゃい女の子たちの癒しの力を信じろ」


「けど、彼女たち、早速美香さん置いて、遊びに行っちゃってるぜ?」


「あ!! ちょっと、こら!! 川遊びは大人が一緒じゃないと危ないって言ったでしょう!! ちょっと待て、ちぃちゃん!! 光ちゃん!!」


 きゃっきゃとはしゃいで川へと走っていくちぃちゃんたち。

 服の下に着ていた水着――ビビッドカラーの子供っぽいのに着替えると、彼女たちは川べりを前に立ち並ぶ。

 そんな彼女たちに遅れて、スポーツタイプの水着を着たつづらちゃん。

 そして――無難に体のラインが隠せる、パレオの水着を着た廸子が続く。


 うぅむ。


「綺麗系も案外似合うな。いや、元から廸子はそういう素質があったけれども。いやいやしかし、これはこれで田舎の川辺にはもったいないというか」


「にやけてないでお前も早くこっち来て手伝え!!」


「へいへい、分かりやしたよ」


 廸子に怒鳴られては仕方ない。

 俺は遅れて、トランクスタイプの水着を揺らして、ちぃちゃんたちが待つ川の方へと移動した。


 移動しざま。


「ほら、走一郎くん!! はやく君もおいでよ!!」


「うん、お兄ちゃん!!」


 バイクでやって来た走一郎くんに、さわやかに声をかけて。


 そう、さりげなく。


 本当にさりげなく。


 ふっ、よもやこれほどさわやかに挨拶をすれば、俺が彼にセクハラをさせた男だとは思うまい。イメージ戦略とは何よりもモノを言う。


 感じるぜ、美少女からの熱い視線。

 アレが玉椿町のナイスガイにして、走一郎くんが頼りにする男。


 ってな。


◇ ◇ ◇ ◇


「アレが僕が実の兄と思って慕っている人――豊田陽介さんだよ、夏っちゃん」


「……実の、兄!?」


「お兄ちゃんはかっこいいんだ。なんでも知っててね、そして、なんでもできるんだ。いったいどういうお仕事してたら、あんな人間になれるんだろうね。昼間遊びに行っても、よくコンビニにいたりするから、ほんと謎だよ」


「……いやそれは、ニートなのでは?」


「とにかく、まぁ、そういうことだから、さ」


「え、ちょっと待って!! もしかして、この旅行で紹介したい人ってもしかして、アレな訳!?」


 走一郎が照れ臭そうに頬を掻く!!

 そんな仕草もかわいらしいけれど!!


 今はそんな場合ではない!!


「オネショタじゃなくて、オニショタってこと!? それは、さすがにちょっと見過ごすことはできないわよ、走一郎!!」


「オネ? オニ? なに言ってるの夏っちゃん?」


「ナニって、それは、そのジャンルと言うか、なんというか――とにかく!!」


 私は認めない!!

 断じて認めない!!


 オニショタなんてそんな、ニッチなジャンル!!

 腐女子にはそこそこ食いつくけれども、この八代夏子は靡かない!!


「美少年はお姉さんと結ばれるべきでしょー!! でしょー!! でしょー!!」


「夏っちゃん!?」


 私の魂の叫びは、川向こうの森までこだました。

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