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過ちと後悔


 乙女ゲーム『マジホワ』に転移した私は、悪役令嬢ことヴェネッサへのLOVEが溢れだして大きく口を滑らせてしまった。



「…………………………………………」

「ヴェネッサ様」

「……ハッ!」


 ヴェネッサが固まってしまったので、お付きのクール令嬢ノエルが声をかけた。


 いつもヴェネッサは公爵家という権力の傘の元、高飛車(たかびしゃ)な態度でアルフレッド王子につく悪い虫を排除してきた。彼女は、強く出れば虫を追っ払えると思っているのだろうけど、斜め上どころか真逆の答えに思考が追いついていないようだ。


「聞き違いかしら? あなた、何と言いましたの?」

「私のことを叱ってくださいと言いました♡ 私はヴェネッサ様がだーい好きなただの平民で、この学園に来てからヴェネッサ様のことをいつも考えています。あっ、でもごめんなさい。ヴェネッサ様だけじゃなくてノエルちゃんのことも大好きで……ああ、嫉妬しないでください。私は二人のことを平等に愛していますので!!!」


 発言の許可を得た私は水を得た魚のように告白した。ノエルの方を見るとなんか顔が引きつっている。


「…………………………………………」

「ヴェ、ヴェネッサ様!」

「…………ハッ!」


 再びヴェネッサは固まってしまったようだ。聞き違いじゃないことを理解してくれただろうか。ノエルも少し動揺しているようだ。なんでだろう?


「わたくしたちは初対面のはずです。なぜそんな貴方(あなた)が好意を寄せているのかわかりませんわ」


(あっ、やばい。まだ彼女たちとは初対面だった……何かしらの理由を答えないと)


「えーと……そ、そうです! 初めて見たときに一目惚れしました!! 私はヴェネッサ様とノエルちゃんの美しさに魅了されました! それに、いつも気になっていてこっそり見てたんですよ♡」


 一目惚れしたというよりかはゲームをプレイして好きになったけれど、そんなことは言えないので別の理由を告げるしかない。


 ちなみにこっそり見ていたのは本当だ。


「ヴェネッサ様。この方が見ていたのは事実です。視線を感じたときは大抵この方でした」

「……」


 ヴェネッサはどういう態度を取ればいいのかわからない様子だ。ノエルは……私のことに気付いてたのね。嬉しい。


「……それこそ、なぜアルフレッド様とお話していたのかしら? わたくしの(かん)(さわ)ると思いませんでしたの?」

「そ、それは……」


 ヴェネッサの言う通りで私が好意を寄せているとしたら、アルフレッド王子と話す理由なんてないしむしろ嫌われる行為だ。


 私はゲームのシナリオ通りに進めている。その方が目的を達成できそうだし、一番の理由は安心できるからだ。こういう風に動けばこうなると未来を知っているのならその通りに動いた方が確実だ。


「やはり、嘘をついてらして? だっておかしいもの。女の子が女の子を好きになるなんて……わたくしを(だま)してまでアルフレッド王子と親密になりたいのかしら?」

「ち、ちが……」


 ヴェネッサたちとこうして会えた私は、もうオレンジヘタレ王子と仲良くなる必要はない。ヴェネッサとノエルが末永くくっついてもらうには王子が邪魔だし婚約破棄して欲しいほど憎たらしい。


 ……ならば、王子を落として、ヴェネッサを擁護(ようご)するしかない。



「私は……アルフレッド王子がヴェネッサ様に合っていないと思います。だから婚約破棄して欲しいんです! あんなヘタレで、優柔不断で、女の子が苦手で、自分のことを何にも決められない王子と結婚してはダメです!! ヴェネッサ様にはもっと素敵な方がいるはずです。例えばそう、意外と近くにいる方とか……私はアルフレッド王子の方がヴェネッサ様の悪い虫だと思っています!!!」


 私は思い切り心中を吐露(とろ)した。


 ヴェネッサとアルフレッドは実際に上手くいっていない。


 それが彼女の悩みの種となっていることを私は知っている。


 そんな彼女に別の道を提示してあげたかった。


 彼女をそんな()()()()から解放してあげたかった。



 しかし。



 しかし。



 パシッ



 私の頭が揺れる。


 じんわりと(ほお)が赤くなり、ヒリヒリとした痛みを感じ出す。


 ……ヴェネッサは私に平手打ちしていた。


 彼女の顔は、怒りというよりも苦々しく辛そうなそんな表情で、目頭には涙が溜まっているように見えた。


 呆気(あっけ)に取られた私に、ヴェネッサは小さな声で吐き捨てる。


「(あの方のことはよくわかっています)」


 ヴェネッサは私を背にして振り返る。


「いいこと、もうアルフレッド様に近づくことは許しません」


 そう言うとそのまま去っていった。ノエルは私を軽蔑(けいべつ)するような目で一睨(ひとにら)みし、ヴェネッサに付いていった。











 昼休みが終わって授業を受けたが、全く身に入らず私は白くなって泡を吹いていた。ツンツンルームメイトやリック師匠が気にかけてくれたけれど、そっとしておいてほしいと告げると、話しかけることはなくなった。


 そして放課後、私は自習室にいた。部屋には丸いテーブルが六台ほど置かれている。


 私は机に突っ伏して、何が起きたのか再び思い出す。


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん。ヴェネッサに嫌われちゃったあああああああああああああああ、きっとノエルにも引かれちゃったああああああああああああああああああああああああああああ」


 涙と鼻水を垂らしながら、自分の過ちを後悔していた。


 高慢なヴェネッサと掛け合ってイチャイチャしたかったという不純な動機が完全に裏目となり、彼女の逆鱗に触れてしまった。自業自得といえばそれまでだが、言ったことは私の本心だ。


(なんであそこまで怒ったんだろう……)


 何が彼女を怒らせたのかを考えてみる。


 彼女は公爵家という重責(じゅうせき)に耐え、友達を作ったり、悩みを打ち明けたりすることもなく孤高(ここう)に生きてきた。親の期待、周りの期待に応え続け、誰にも弱みを見せず公爵家の令嬢として振舞い続けてきた。


 そんな彼女が唯一上手くいっていなかったのが、アルフレッド王子との関係だ。


 もちろん許嫁は親が決めていて、彼女はそれを全うしようと努力したが、あのヘタレ王子はこともあろうに逃げてしまっている。そして、ヴェネッサは恋愛については未熟でどう関係を良くできるのかわかっていない。周りの女子がそんな二人を見れば、ヴェネッサ令嬢と上手くいっていないなら落とせるんじゃね?、と王子の権力に魅かれて擦り寄ってくる。


 さらに、王子は天然ジゴロな体質だ。


 グイグイしていない女の子でも話す機会があれば、もしかして私のことを好きなのかしら? と彼のことが気になり、権力と美貌に惑わされる。そんな女子が後を絶たないのではなかろうか。外から見れば、私もそんな女子と同じだと思われているだろうが……


 つまり、ヴェネッサは不安で焦っている。


 このまま上手くいかなければ、他の女に取られてしまうのではないのか?


 このまま上手くいかなければ、王子が拒絶するのではないか?


 そして。


 このまま上手くいかなければ、婚約破棄になって()()()()を裏切るのではないか?



 ……わかった。



 …………わかってしまった。



 そんな焦っている彼女の本心を突けば、怒るのは当然だ。


 彼氏と上手くいっていなくて悩んでいるところ、他の女子に「あんた、彼氏と上手くいってないっしょ、別れれば?」と言われるようなものだ。実際にそうだとしても別れたくないのなら、ムキになってイラつき怒ってしまうのは不思議ではない。

 

(はあ、結局口が滑ったのが原因か……恋愛レベルがマイナス1になってそう……)


 どうやって仲直り(仲良くはなかったけれど)すれば良いのか考えてみてもイマイチいい案が思いつかないし、ショックでもう動けない。


(立ち直るまで時間がかかりそう……)


 そんなことを考えていると、


「おーい、おーい」


 誰かが私に声をかけていた。突っ伏した状態で思考を巡らせていたので気が付かなかった。


(ん?)


 頭を上げて声の主を確認する。



「やっと気付いてくれたな。辛そうにしてるけどなんかあったのか?」



 私の前にいたのは、『緑色』の髪を持つ同学年の男子だった。







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