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王子との出会い


(三種類あるはずなのに……)


 私の目の前にあるのは青い魔石だけだ。


(ゲームとこの世界で違っていてもおかしくないのかな。三個置いてあったら全部もらえちゃうし……風の精霊じゃないのは残念だけど)


 少ししょんぼりしつつ青い魔石に触れると、ふわーと空中に浮かんで、クルクルと回りながら人の形を作り出す。


 現れたのは、青いローブととんがり帽子を被った少し丸っこい男の子だった。髪の毛は黄色くて、身長はペットボトルくらいある。


「僕は水の精霊。あなたがご主人ペポ?」

「ペポ!?」

「……なんか馬鹿にされたペポ」


 変な語尾に反射してしまった。乙女ゲーム『マジホワ』では精霊のボイスはないし、そもそも気にしたことがなかった。


「私はアユミ=エンジェル。あんたのご主人よ。よろしくね」

「よろしくペポ! ……でもご主人は精霊に驚かないペポ?」


 そういえば、主人公は「えっ、あなたは?」みたいな驚きのリアクションをしていたはずだ。ここに精霊がいるのを知っていた私はそんなところまで気が回っていない。


「えっ、そう、そうよ! アー、驚イタワー、精霊ナンテ本当ニイルノネー」

「……ペポ?」


 棒読みで驚いてみるが深追いはされなかった。


「で、あんたはなんでここに?」

「よくぞ聞いてくれたペポ! 僕たち精霊は人類の窮地(きゅうち)を察して現れたペポ。ご主人にこの世界を救ってほしいペポ」


 たしかそんな設定だったわね、と話半分聞いておく。百合ルートの場合は、世界の窮地は誰かが解決してしまうし、危ないことなんてしたくない。


「ええ、世界の窮地ね。私が救って見せるわ」


 と、適当に話を合わせておく。


 こうして精霊を得た私は地上に帰ろうとすると、他の台座があることに気が付いた。


(この台座なんだっけ? 何か置いてあったようだけど……)


 思い出そうと頭を捻ってみるけれど、百合の妄想成分しが絞り取れない私の頭に答えはなかった。






「みなさーん。静かにしてくださいー」


 私は教室に来ていた。今日は最初の魔法理論の授業だ。教室は、高校のスタイルじゃなくて大学のような席が自由に座れるタイプだ。長い机が段々に配置され、一番低い場所で先生が講義する。


 貴族同士の知り合いや派閥でまとまっているのかガヤガヤしている。平民の私に知り合いなんていない。


「静かにしてくださぃ……」


 先生の声が小さくなった。強く言えないタイプなのだろう。


 すると。


 先生はフワーと空中に浮かび上がって指をはじく。生徒たちの頭上でバンっ、バンっ、バンっと小さな爆発が三回起きた。教室は静まり返り全員が先生を注目する。


「はい。静かになりましたね」


(……爆発で黙らせるとかいいの!?)


 教育倫理など微塵もないこの世界。どうやら爆発はOKらしい……いや、ダメでしょ。


「私は、レイモンドです。この『魔法理論概論』と『魔法基礎演習Ⅰ』を担当します。よろしくお願いします。ちなみにさっき飛んだのは私の家柄特有魔法(ファミリーマジック)です。すごいでしょう?」


――家柄特有魔法ファミリーマジック

 それぞれの貴族の家が持つ特有の魔法のことだ。レイモンド先生は空中浮遊がそれにあたる。


(私の家柄特有魔法(ファミリーマジック)は……なんだっけ? たしか天使の力がなんたらかんたらだったような……ああ、どうりで姓がエンジェルなのね)


 自己解決しているとあることに気が付く。


(そういえば、あの先生、攻略対象だ!)


 レイモンド先生は、白髪で眼鏡をかけているおっとりした感じの男性だ。年齢は二〇代に見える。学園長のおじさんと同じようなローブを身にまとっていて、白い手袋をしている。先生に勉強を教えてもらえば自然と仲良くなり彼のルートに入れるだろう。


(魔法かぁ。日常生活で使えればいいし、勉強はほどほどでいいよね)


 魔法学園といえど元の世界で言えば高校生が対象の授業だ。社会人になった私なら理解できるだろうと高を括る。


「えーと、それでは授業を始めます。まずは魔法とは何かについてですね……」


 こうして、授業が始まったが、正直よくわからなかった。なんかこう、常識が異なっているせいか専門用語が当たり前に出てきて、ゲームで知らないワード以外はまったくだった。頭の中で百合妄想を楽しんで、右から左に流していたら授業は終わっていた。






 お昼休み、私は中庭のベンチで昼食を取っていた。お弁当というか……ただのおにぎりなんだけれど。ガスコンロなんて便利なものはなかったからお米を炊くのも一苦労だった。火の調節は難しいし気を抜くと焦げちゃう。火の魔法が使えるようになると楽できるかな。


 平民用の学食もあるんだけれど一人では行きにくいし、友達がまだできていなくてぼっち飯するしかなかった。


「それは何ていう食べ物ペポ?」


 どこからか青い精霊が出てきた。


「おにぎりよ。っていうか何で知らないの?」

「僕は食事しないから食べ物には詳しくないペポ。わかるのは魔法くらいペポ」


 この精霊は食事しないけれど、魔石を与えれば成長してくれる。見つけたら渡してみようかな。


「なるほどね。魔法に関しては頼りにしようかな」

「任せるペポ!」

「……ところであんた、どこに行ってたの?」

「お散歩してたペポ」


 ずっと私の(そば)にいるわけではないらしい。自由気ままだな、おいっ。


「精霊の姿って周りから見えるの?」

「見えないペポ。僕が見えるのはご主人だけペポ」

「ふーん。声は?」

「声もご主人しか聞こえないペポ」


 ということは、今は独り言を言っているように見えるわけか。気を付けないと。


 精霊について思い出すと名前は自由につけられたはずだ。私は百合漫画で気に入った子の名前を風の精霊ちゃんに付けてムフフしていた。


「たしか名前はなかったよね。付けてあげようか」

「そうペポ! 付けてほしいペポ!」


 ペポペポ精霊は目をキラキラさせて両手を握りながら今か今かと待ち出した。精霊に性別があるのかわからないけれど、見た目は男の子だ。男の子っぽい名前をつけることにする。


「そうね…………ペポ太郎……ペポ助…………決めた! あなたはペポ丸よ!」


 とっても安直に決めるとペポ丸は、


「……ペポ」


 としょんぼりしだし、なんか不服そうにしている。ペポペポ言っているのに、ペポが入った名前がなぜ嫌なのかわからない、ぺぽ。


 水の精霊を命名したところで、私は再びおにぎりを手に取る。というのも、わざわざ中庭でおにぎりもぐもぐするのにも訳がある。そう、ある攻略キャラとの出会いイベントが起きるからだ。


 ササッ……


 近くのモサモサとしたツツジみたいな植物から音がした。そして、中からオレンジ髪の男子が出てきた。


――アルフレッド=ヴォン=ハートフィールド

 この国の第二王子で攻略キャラの一人。髪はミディアムくらいの橙色でカッコよく決まっている。制服のラインは青色で二年生だ。家柄特有魔法(ファミリーマジック)は『絶対命令』で全ての人にどんな命令でも従わせる王子らしい能力を持っている。ただ本人はこの能力を良く思っていないみたい。


「君は……」


 もぐもぐ、もぐもぐ、ハッ!?


(そ、そうだ。会話しないと) 


 初対面で声をかけてくるなんて大体は怪しい奴だけれど、無視するわけにもいかない。


「こんなところで一体どうしたんですか?」

「ちょっと追われていて……こんな不格好な姿を見せて申し訳ない」

「いえいえ」

「少しここにいさせてくれないか?」


 そう言うとオレンジ王子は私の横に座わった。ずけずけと女の子の隣に座るなんて元の世界じゃ通報されてもおかしくないだろう。攻略キャラだから一応許すけど。


(もぐもぐ、何話そう?)

「君の名前は?」


 考えていたら先に話しかけてきた。


「私は、アユミ=エンジェルです。今年入学しました」

「アユミか。俺は二年生のアルフレッド=ヴォン=ハートフィールドだ」

「ハートフィールドってもしかして……」

「ああ、これでもこの国の第二王子だ」


 平民って王子の顔のことを知っているのかな。無礼かもと少し不安になったけれど問題なさそうだ。


 当たり障りのない自己紹介を終えると、遠くから足音と声が聞こえる。


『アルフレッド様はどこに行かれたのでしょう?』

『あちらでは?』


(この声はヴェネッサとノエル!?)







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