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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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暗躍(後編)

「セルドロ様、宰相閣下より書状が届いております」

「ふっ……やはり来たか」


 侍従から書状を受け取ったセルドロ・フロンデールは、封を切る前に内容を予想していた。

 デスクの引き出しからペーパーナイフを取り出し、慣れた手つきで封筒を開くと、内容を一瞥した後でグシャリと握り潰し、灰皿の上で燃やしてしまった。


 別に読まれて困るような事は書かれていないが、王城から差し出した時点で書状を送ったという事実は残ってしまう。

 揉み消す意味は無いが、手元に置いておく気にもならなかっただけだ。


「出掛ける、馬車を回せ」

「畏まりました」


 セルドロは、宰相オーレリオ・エルマリートほど世間から評価されていないが、非常に頭の切れる男だ。

 宰相からの書状を一瞥しただけで、その裏の意味まで理解している。


 外出の支度を整えたセルドロが向かった先は、王都第二街区にあるガウラルア商会だ。

 こじんまりとした店を王都第二街区に構えてから、まだ五年程しかたっていない新興の商会だが、毎年売り上げを増やし続けている。


 ガウラルア商会は、葉巻や刻みタバコ、男性用の装飾品を扱う店だ。

 セルドロの実家フロンデール伯爵家の領地ではタバコの栽培が盛んで、ガウラルア商会とはタバコの取り引きで繋がっている。


 ガウラルア商店は、第二街区の店の他に、第三街区にも店を構えている。

 そちらでは、庶民向けの価格の安い商品を扱い、第二街区の店では貴族向けの高級品を扱っている。


 新王都では、こうした形態の店は少なくない。

 第三街区で実績を重ね、資本を作って第二街区に出店するのだ。


 前述のとおり、フロンデール伯爵家とガウラルア商会は、タバコの取り引き相手であるのと同時に、伯爵家の闇の部分を担う窓口でもあるのだ。


「いらっしゃいませ、セルドロ様」

「うむ」


 出迎えたガウラルア商会の主、モテオは、セルドロを下にも置かぬ歓迎ぶりで奥の部屋へ通した。

 貴族の上客の場合、店頭ではなく別室で商談を行うことは珍しくないが、セルドロの場合は商談ではなく密談のためだ。


 その証拠に、セルドロは別室を通り抜け、もう一方の扉から地下へと階段を降りて行った。

 一見すると地下の商品保管庫のようだが、密談のための部屋が設けられている。


「コマは?」

「揃えてございます」

「一番外の城壁に沿って、大聖堂の塔の更に上だそうだ、届くか?」

「ご心配なく」

「撃ち落とす必要は無い、肝を冷やせば良い」

「心得ております」

「頼んだぞ」


 セルドロは重たそうな革袋をテーブルに置くと、階段を上がり、モテオに見送られながらガウラルア商会を後にした。

 セルドロを見送ったモテオは、店を番頭に任せて第三街区の支店に向かった。


 裏口から店に入ったモテオは、出迎えた店員に声を掛けた。


「ブレンナーを呼べ」

「畏まりました」


 命じ終えたモテオは、第二街区の店と同じように地下に作られた倉庫へ降りていった。

 店員たちが休憩に使っている安物のソファーに腰を下ろして待っていると、足音も立てずに大柄な男が降りてきた。


「お待たせしました」

「鳥は一番外の城壁に沿って、大聖堂の塔よりも高く飛ぶそうだ。撃ち落とす必要は無い、脅かして追い払えば良い。いいな!」

「お任せ下さい」

「くれぐれも、足が付かないようにしろ」

「心得ております」


 モテオはテーブルにセルドロから受け取ったものよりも一回り小さい革袋を二つ置くと、階段を上がって帳場に顔を出し、支店の売り上げ状況を確認して第二街区へ戻っていった。

 ブレンナーは、その場で革袋の中身を確かめた。


 片方の袋には金貨が、もう片方の袋には銀貨がはいっている。

 ブレンナーは、その中から金貨を二枚抜き取ってから革袋へ戻した。


 そして、モテオが第二街区の本店に戻る頃合いを見計らって店を出ると、城壁の外へと向かった。

 今、新王都の城壁の外では、下水道の設置工事が進められている。


 新王都の住民増加に対応するために、いまある城壁の外側に新たな城壁を築き、新王都を拡張するためだ。

 今ある城壁から新たな城壁までの距離は、第三街区の幅よりも五割増し程度広くなる。


 果たしてそれだけの土地の需要があるのか、それだけの人口増加が見込めるのか、懐疑的な意見がある一方で、現実的に増え続けている都外の住民を考えれば、それでもいずれは足りなくなると考える者もいる。

 城壁の建設には、五年から十年の期間を見込んでおり、その成否が判明するには更に長い時間が必要となるだろう。


 ブレンナーは、バラックが建ち並ぶ都外のスラムを迷う素振りも見せずに歩いていく。

 第三街区では特段目立たないブレンナーの服装も、ここでは少し浮いて見えるほど都外の街は薄汚れている。


 ブレンナーは、一軒のバラックに声も掛けずに入っていった。

 中には十人弱の若者が暇を持て余していた。


「仕事だ。明日か明後日、城壁の遥か上、大聖堂の塔よりも高い所を貴族どもが、俺たちを見下ろして飛ぶ」

「飛ぶ? 空を飛ぶのか?」


 人が空を飛ぶと聞いて、若者たちが好き勝手に喋り始めた。


「すげぇ、どうやって飛ぶんだ?」

「そりゃ魔法だろう」

「でも、空を飛ぶ魔法って風属性か?」

「うるさい、黙れ、話の途中だ!」


 ブレンナーに威圧されると、若者たちはビクっと体を震わせて黙り込んだ。


「いいか、空を飛ぶ貴族の姿が見えたら騒ぎを起こせ、大声で罵り合い、取っ組み合いをしろ。普段お前らがやってることだ」

「それで、その後は?」

「たぶん、騎士の見習いどもが止めに来るはずだ。そいつらに殴り掛かったりするなよ。そいつらが来たら、騒ぎ立てるだけにしろ、捕まったら処刑されると思え」

「わ、分かりました……」

「金だ、無駄にするなよ……」


 ブレンナーはモテオから受け取った、銀貨が入った方の袋を放った。

 このバラックに居る若者は、反貴族派が騒動を起こすために地方から連れて来た者たちだ。


 反貴族派の幹部どもが捕らえられ、行き場を失っていたところをブレンナーに拾われ、色々と後ろ暗い仕事をさせられている。

 殆どの者が身分証も持たずに故郷を飛び出して来ているので、このバラック以外にいく場所が無いのだ。


「しくじったら、次は無いからな」

「分かりました」


 この若者たちにとって、ブレンナーは命綱だ。

 満足に文字も読めず、計算もできない者ばかりなので、ブレンナーに見捨てられたら詰むのだ。


 ブレンナーは若者たちに名前すら明かしていない。

 仮に、この若者たちが捕まったところで、商会まで辿られる心配はない。


 話を終えたブレンナーは、城門を通って第三街区へ戻り、歓楽街に足を向けた。

 入り組んだ路地を抜け、場末の酒場のドアを潜った。


 看板の無い店の中は、タバコの煙が立ち込めていた。

 ウナギの寝床のような細長い店で、立ち飲みのカウンターの奧に二人掛けのテーブル席が二つ、その奥にドアがあり、更に奥へと続いている。


 ブレンナーはカウンターで酒を注文して受け取ると、奧のテーブル席で一人で飲んでいる男の向かいに座った。

 紙で包んだ葉巻を一本と金貨の入った革袋を差し出す。


 座っていた男は、葉巻の包みを解くと、吸い口を切って美味そうに煙をくゆらせた。

 ブレンナーも自分の葉巻に火を点け、紫煙と酒を味わった。


 ブレンナーは、そのまま一言も言葉を発せず、葉巻を吸い終えると店を後にした。

 先に酒を飲んでいた男は、葉巻を吸い終えると包み紙に火を着けて灰皿で燃やすと、席を立って店を出ていった。


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― 新着の感想 ―
突発的なイベントに対して即座に刺客を差し向けられる人物による暗躍 という時点でだいぶ容疑者が絞られるよね…って
なんだろう、やたら細かく暗躍側が書かれただけに更に裏で何かが進行している気がしてならないのですが。この状況で何が起こって最後に誰が笑うのかとても気になります。
おやおや、もう固められているんですねぇ。
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