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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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弓使いの独り言

※今回はセルージョ目線の話です。


 ライオスから新区画で発見した建物の権利を売却する件について聞かされた時、俺は一も二も無く賛成した。

 発掘品の搬出を見守るだけの生活なんて、もうとっくの昔にウンザリしていたのだ。


 冒険者が第一線で活躍できる時間は、他の職業と比べれば短い。

 ニャンゴぐらいの年齢ならば、残りの年数なんか気にはしないだろうが、俺やライオス、ガドぐらいの年になれば、そろそろ引き際を考えるようになる。


 シュレンドル王国の北のはずれ、ラガート子爵領イブーロで燻っていた俺たちは、ブロンズウルフ討伐の現場でニャンゴと出会い、そこから一気に活躍の場を広げられた。


 ワイバーンを討伐し、ダンジョンでは新区画を発見し、地竜討伐の現場にも立ち会った。

 だが、それらの実績の殆どはニャンゴのおかげだと言っても過言ではない。


 ニャンゴ抜きで同じことをやってみろと言われても、たぶん……いや、確実に無理だろう。

 一人の冒険者としては認めたくなくても、ニャンゴの実力は俺たちの中では抜きん出ている。


 ニャンゴのおかげで、たぶん死ぬまで困らないほどの金も手に入った。

 俺が冒険者で居られる時間は、俺が冒険者だったと胸を張って言えるようになるために使っても罰は当たらないだろう。


 権利売却の話を聞いた後、久々に長弓の弦を張ってみた。

 ダンジョンで活動するようになって以来、取り回しを考えて武器は短弓を使ってきたが、外での依頼を受けるようになれば、またこいつに頼ることになるだろう。


 ブロンズウルフと戦った時も、ワイバーンと戦った時も、いつも俺の側にあり、俺を支えてくれた弓だ。

 握ると手にしっくりとする、自分の体の一部のように慣れ親しんだ弓なのだが、引いてみて愕然とした。


「重い……」


 以前なら、息をするように引けた弓が、重いと感じてしまったのだ。

 威力よりも速射性を重視した短弓と違い、長弓には威力や射程距離を求めているので、それだけ強い設定のものを使ってきた。


 それでも軽々と引けていたし、狙いを定める時にはピタリと保持していられたのに、今は引いたままで動きを止めると、ほんの僅かだけれど手が震えた。


 自慢じゃないが、俺の弓の腕前はイブーロに居た頃は一番だったし、旧王都でも上位五本の指に入ると思ってきた。


 だが、その自信が揺らいだ。

 その日から、毎日長弓の弦を張り、引いて構える動作を繰り返した。


 若い頃にやっていた、筋力を鍛える運動も再開した。

 全然動けない、悲しいぐらいに動けない。


 若い頃なら百回続けてやっても、少し息が切れる程度だった運動が、三十回程度でプルプルしちまう。

 翌日、体に痛みが出なかったから、俺もまだまだ捨てたもんじゃないと思っていたら、翌々日に動くのもやっとな痛みに襲われた。


 年取ると、次の日には痛まなくなるもんだ……母方の爺さんが言っていた言葉を実感した。

 それでも弓を引く手応えは、鍛錬を続けていくうちに元に戻ってきた。


 ただし、あくまでも動作を続けているだけで、実際に的に向かって射ている訳ではない。

 感覚さえ戻れば大丈夫だと思っているが、動きのある標的の先を呼んで当てられるかどうかは分からない。


 柄にもなく、飲みに出掛ける振りをして、街の外まで走りに出掛けたりもしている。

 それでも、目には見えない老いが、ヒタヒタと追い掛けて来るような妄想に囚われてしまう。


「セルージョ、最近あんまり飲まなくなったよね?」


 ある日の夕食の席で、何気ない様子のニャンゴに指摘され、ちょっとドキリとした。


「飲む時間を変えてるだけだぜ、お子ちゃまな名誉騎士様が寝静まった後で飲んでるだけだ」

「そうなんだ、もう昔みたいに飲めないぜ……俺も若くねぇからな……みたいな感じかと思った」

「おうおう、言ってくれんじゃねぇか。オッサン、舐めんなよぉ」

「にゃはははは……」


 冗談めかして言ってはみたものの、老いや衰えをからかわれたような気がして、正直ちょっとムカついてしまった。

 勿論、ニャンゴにそんな悪気は無いとは分かっている。


 分かってはいるが、ちょっと前なら弾き飛ばせていた無意識に発せられる言葉の棘が、チクチクどろこかブスブスと刺さるようになってしまっている。

 いや、これで良いのだろう。


 これで怒りも、ムカつきもしないようになったなら、それこそ俺の冒険は終わるのだろう。

 イラつける、藻掻ける、足掻けるうちは、まだ冒険の途中なのだ。


 何にも気付かず、お気楽に笑っているニャンゴの横で、全ての事情を察したように、ニヤニヤと笑っているレイラにもムカつく。

 特に鍛錬をやってるように見えないのに、シューレと手合わせすると、どちらも衰えとは無縁な動きを見せる。


 レイラとシューレは、俺たちよりも三つか四つ年下だったと思うが、その三、四年の差がこれほど大きいのかと思わされてしまう。

 その二人に手解きを受けているミリアムは毎回倒れ込んで気を失うほどで、なんて悲惨なんだと同情を禁じ得ないのと同時に、食らいつき、グングン成長している姿を眩しく感じる。


 俺が弓を使い始めた頃、全然思うように射れなかったし、弦を引く指の皮が剥けて血が出たりしていた。

 それでも、何でなんだか自分でも分からないが、弓を引かずにはいられなかった。


 辛いと感じるよりも、単純に楽しくて、成長するのが嬉しくて、手を止められなかった。

 たぶん、今のミリアムはそんな感じなのだろう。


 ニャンゴも、派手な活躍ばかりが目立っているが、何もない時には魔法を使って遊んでいる。

 大きな明かりの魔法陣を作ってみたり、逆に極小の明かりの魔法陣を作ってみたり、早く作ったり、沢山作ったり、グルグル動かしたり、こちらも飽きずに繰り返している。


 特殊な魔法を授かったからとか、禁忌を犯したから、などと陰口を叩く連中がいるが、そいつらは一度ニャンゴが夢中になって魔法の練習をしている様子を見てみればいい。

 ニャンゴの魔法は、どれだけ正確に魔法陣を記憶して、再現できるかに掛かっているらしい。


 あの複雑な模様を誤ることなく再現しているのだから、普通ではないし、そこに至るまでには相当な訓練や試行錯誤が必要だったはずだ。

 でも、たぶんニャンゴは、そういった裏の部分は見て欲しくないと思っている気がする。


 俺自身が、努力とか根性の部分を他人には見せたくないし、悟られたくないと思っているのと同じだろう。

 ニャンゴの兄フォークスが、嫁を貰ったのには驚かされた。


 ちょっと気の弱そうな狸人のクーナは、フォークスとお似合いだと思う。

 俺が初めてフォークスの存在を知ったのは、ニャンゴがイブーロに出て来たばかりの頃だ。


 その頃のフォークスは、故郷の村から出て来たイブーロで騙され、手持ちの金も無くなり、貧民街に身を落としていた。

 世の中の全てに怯えて、いつも耳を畳んでいたフォークスだったが、俺たちと行動を共にするようになり、少しずつ、本当に少しずつだが自信を身に付けていった。


 同じ土属性のガドが言うには、ニャンゴの兄弟らしくフォークスも器用なんだそうだ。

 ニャンゴのような突飛な発想をする訳ではないが、地道にコツコツと実績を積み上げていくタイプだ。


 フォークスは、冒険者というよりも土属性の魔法を活かしてダンジョンを発掘する人員としての道を選んだ。

 別にチャリオットと袂を分かった訳ではないので、今も拠点に暮らしているが、こいつが少々問題なのだ。


 フォークスとクーナが暮らしているのは、これまでシューレとミリアムが使っていた部屋だ。

 そこで新婚生活を始めたのだが、そうなると必然的に夫婦の営みが行われる。


 俺たちが使っている拠点の壁は、特段薄い訳でもないし、フォークスたちも気を使っているのだろうが、それでも物音や息遣いが洩れ聞こえてしまうのだ。

 昼間からイチャコラ、ベタベタしているような奴らなら、壁の一つも蹴とばしてやろうかと思うのだろうが、昼間のフォークスたちは初々しいと言うか、ほのぼのとさせられる。


 そんな様子とのギャップが大きいだけに、余計にモヤモヤとさせられてしまう。


「セルージョたちも、そろそろパートナーを探したら?」


 打ち上げの席で、時折ニャンゴからぶつけられる言葉を以前なら軽く笑い飛ばしていたが、今は笑い飛ばしながらも考えさせられている。

 冒険者を引退した後、一人で暮らすか、気に入った女と暮らすか……マジで考え始めた方が良いのかもしれないな。


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― 新着の感想 ―
防音・防振の魔法陣探さないと(スットボケ
更新ありがとうございます リアルな悩みだなあ……(T_T)
いずれニャンゴが下賜されるであろう領地に、チャリオットのどデカい邸宅建ててあげればいい。 家臣になるかどうかはともかく、「帰るべき家」あるのは心情と人生に余裕と安心感をもたらすと思う(*^_^*)
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