新しい動き
昇爵の件は改めて通達を出す、悪いようにはしないから心配するなと、国王陛下とバルドゥーイン殿下には言ってもらったのだが、安心してなんかいられないよね。
まぁ、領土を与えるなんて簡単な事ではないから、今すぐ決定する訳じゃないのは理解できているけど、いずれは決断しないといけなくなるはずだ。
それに、もう一つ話を進めないといけない事がある。
ダンジョン内部でチャリオットが権利を有する二つの建物の売却について、ギルドの担当者と話を進めないといけない。
姫様のダンジョン訪問が終わってからと思っていたら、地竜の討伐なんてイレギュラーが発生してしまって、そちらに気を取られてしまったが、こっちの話も進める必要がある。
騎士団の宿舎で起床した後、朝食を済ませたらアンブリス騎士団長に地竜討伐の様子を報告し、旧王都へトンボ返りした。
ダンジョンの発掘現場へと直行してライオスを捕まえた。
「ライオス、例の件をギルドに相談に行こう」
「おぅ、帰ってきて早々慌ただしいな」
「なんか、また爵位が上がっちゃいそうで、そっちも色々面倒な事になりそうなんだ」
「はぁ、手柄を立てるのも考え物だな」
「まったくだよ……」
搬出の見守りはガドたちにお願いして、ライオスと一緒にギルドへ向かった。
ギルドマスターのアデライヤに面談を申し込むと、生憎と外出中だった。
午後には戻ってくるという話なので、ギルドの酒場で昼食を食べながら待つことにした。
「それで、地竜はどうなったんだ?」
「あっ、そうか、チャリオットのみんなに詳しい報告をしていなかったや」
地竜を討伐した後、一度拠点には戻ったが、すぐに大公家の屋敷へ戻らなければならなかったし、その後は姫様を護衛して新王都へ向かってしまったのだ。
「全部で三頭、全部討伐してきたよ」
「はぁ? 三頭だと?」
「そうだよね、そこからだよね」
一頭目の地竜の現場で、猫人に自爆を強要していた人物を目撃して、かっとなって収束砲撃を放って領主様を埋めてしまったところから、旧王都へ戻って来るまでの顛末を話した。
「はぁ……毎度の事ながら、よくぞそこまで騒ぎに巻き込まれるというか、騒ぎを大きくしてくるというか……」
「べ、別に俺は騒ぎを大きくしようなんて思ってないからね。たまたまだよ、たまたま騒ぎが大きくなっちゃっただけだからね」
「まぁ、これでニャンゴが討伐に向かっていなかったら、他の領地まで巻き込まれるような事態になっていたかもしれないし、そういう意味では騒ぎを収めたとも言えるな」
「いや、そういう意味とかじゃなくて、ちゃんと騒ぎは収めてるから」
「だが、そのじゃじゃ馬には狙われ続けているんだろう?」
「ふぐぅ、そうなんだよねぇ……」
別れ際に唇まで奪われて、必ず側に行くと宣言した時のアルビーナの目は、完全に獲物を狙う肉食獣のそれだった。
黒虎人に狙われた、いたいけな黒猫人の運命は風前の灯だよ。
「俺は、そのじゃじゃ馬令嬢には会っていないから、どんな人物なのかまでは分からんが、他人の予想の斜め上を行く人物だとしたら、冒険者登録して旧王都に現れるかもしれないな」
「にゃぁぁぁ! にゃんで!」
「なんでも、なにも、それがニャンゴの一番近くに居る最善策だからな。まぁ、普通の侯爵令嬢だったら、そこまではしないだろうが……普通じゃないんだろう?」
「侯爵令嬢が冒険者とか……ありえないでしょ」
そう言いながらも、アルビーナだったらやりかねないと思ってしまった。
何しろ、初対面の俺に木製とはいえ、いきなり槍を振るって来るような人物なのだ。
「もしかしたら、もう冒険者として登録は済ませて、実際に討伐の依頼とかこなしていたりしてな」
「いやいや、さすがにそれは……」
絶対に無いとは言い切れないのが、アルビーナの怖ろしいところだろう。
食後のカルフェを飲み終えて、そろそろと思っていたら、ギルドの職員がアデライヤが戻ったと呼びに来てくれた。
ギルドの二階にある執務室へと案内されると、アデライヤは自らお茶の支度をしていた。
本人曰く、気分転換のための趣味なんだそうだ。
「それで、今日はどういった用件なんだ?」
「チャリオットが権利を所有する二つの建物についてだ」
チャリオットとしての交渉なので、リーダーのライオスが話を切り出した。
「運び出しに何か問題でも生じたのか?」
「まぁ、広義の意味では問題なんだが、改善の難しい話だ」
「ほぅ、詳しく聞かせてもらおうか」
チャリオットが権利を有する建物からの物品の運び出し作業は、今の所は順調に進められている。
一度、実際に動くアーティファクトを盗み出そうと考えた不心得者がいたが、計画は事前に察知して拘束している。
物品の運び出し作業は順調に進められているが、肝心な査定の作業が滞ってしまっている。
運び出しの作業は、力さえあれば誰にでも可能だが、査定については、知識と経験を有する者でなければ行えない。
「なるほど、確かにこのままのペースで査定をしていたら、全ての物品の査定が終わるまでには数年単位の時間が必要になるだろうな」
「見ての通り、俺もそんなに若い訳じゃない、冒険者として一線で働ける時間はそんなに長くは無いと思っている」
「だが、どうやって査定の問題を解決しようというのだ?」
「建物の権利を一括で売却しようと思っている」
「一括での買い取りだとしても、査定は必要になるぞ」
「簡易的な査定で、短期間で終わらせられないか?」
「そうは言うが、まだ前代未聞なアーティファクトが残されているかもしれないのだぞ」
「ギルドが無理だと言うならば、商会に話を持ち込もうかと考えている」
現在、俺たちが権利を所有しているショッピングモールからの出土品は、査定を終えた後で売りに出されて、多くの紹介が争うようにして買い求めている。
その出土品の権利を丸ごと手に入れられるなら、商会は喜んで話に乗ってくるだろう
「待て、ちょっと待ってくれ。一つの商会が権利を独占するのはマズい」
旧王都の経済は、ダンジョンからの出土品を中心として回っていると言っても過言ではない
。
その権利を一つの商会が独占することは、旧王都の経済を牛耳る行為といえる。
実際、出土品の販売については、特定の商会に偏りができないようにギルドが配慮していると聞いている。
「単独の商会が権利を独占するのはマズい事なのは、俺たちも認識している。だからこうしてギルドに相談を持ち掛けているのだ」
「そちらの希望は分かったが、何しろ前代未聞なケースだからな……」
「焦らせるつもりは無いが、ノンビリと構えているほど余裕も無い。今年中に結論を出してくれないか?」
「年内か……エルメール卿の助力は得られるのか?」
「勿論、俺も関わる話なので助力は惜しむつもりはありませんよ」
「それは助かる、正直な話、アーティファクトについてエルメール卿以上の見識を持つ者は、ギルドにも学院にも存在していないからな」
「俺としては、チャリオットとしての要求を通してもらうので、ギルドに損失が出るような事態にはなってもらいたくありません」
うちは、もう充分に稼いでいるが、この先、ダンジョンで稼ごうという人間の妨げにならないように、あまりにも安い値段での売却も出来ない。
アデライヤも、そうした事情については理解しているようだ。
「適正……というのは難しいですが、なるべく公正な価格になるように努力はいたします。また、総合的に考えれば、ギルドが損失を出すような事態にはなり得ませんから、御安心下さい」
こうして、チャリオットが権利を有する二つの建物について、ギルドへの売却を進めることで合意した。
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