陛下への報告
「さぁ、ニャンゴ様、最後までちゃんとエスコートしてくださいませ」
「かしこまりました、姫様」
王城の車停めに停車した魔導車から、手を取ってエルメリーヌ姫が降りる手伝いを終えたら、エアウォークで高さを調整して腕を組んでエスコートする。
玄関までの廊下には、王国騎士の皆さんが警備の目を光らせている。
騎士の皆さんに見守られながら、俺と腕を組んでいるエルメリーヌ姫は満面の笑みを浮かべている
この様子が騎士の皆さんから、色んな所へ伝わっていくのかと思うと、また胃が痛くなってきた。
地竜三頭を討伐して旧王都へ戻った翌日、エルメリーヌ姫は新王都へ向かって帰還の途についた。
俺は帰り道の護衛も依頼されていたので、 きっちりと護衛を務めたのだが、トイレと風呂、それと寝る以外の時間では、ほぼほぼ姫様に拘束され続けてきた。
魔導車を降りて宿舎や食事処に移動する時も、腕を組んでのエスコートを求められた。
こうしてエアウォークを使えば、猫人の俺でも腕を組んで歩けるのだが……掴まった宇宙人感が半端ない。
俺とエルメリーヌ姫様の関係は、例の歌劇『恋の巣立ち』で色々と誇張されて伝わっているようなので、居合わせた一般の人からは、やっぱり……といった声が洩れ聞こえてきた。
てか、やっぱりじゃないですから、まだ、やっぱりじゃないですよ。
エルメリーヌ姫が、ここまで積極的な態度に出ているのは、レイラとアルビーナのせいだろう。
旧王都の街での買い物で有耶無耶になったけど、拠点での裸族生活までバレてしまったし、アルビーナは釣り合いが取れそうな貴族ということで警戒度が上がったようだ。
というか、俺はまだ結婚とか考えてないんだけどにゃぁ……。
シュレンドル王国の貴族は、『巣立ちの儀』を境に本格的に縁談が進められると聞いたことがある。
女性王族ならば上位貴族との縁談か、隣国などに嫁ぐという形になるのが一般的だが、エルメリーヌ姫の場合は強力な治癒魔法の使い手という事もあり、王家が手放さないのではないか言われている。
エルメリーヌ姫に縁談を申し込む貴族は引きも切らないという噂だが、未だにどこの家とも婚約が成立したという話は聞かない。
そうした、ちょっと特殊な事情のエルメリーヌ姫が、こんな風に親密にしている様子が伝わると、俺への風当たりが一層強くなりそうな気がする。
とりあえず、王城まで送り届ければ、お役御免になるかと思っていたのだが……甘かった。
「ニャンゴ・エルメール様、陛下が地竜討伐の様子をお聞きになりたいそうです」
恭しく出迎えた執事さんから、そう言われてしまっては、帰る訳にはいかない。
「かしこまりました。では、姫様こちらで……」
「私も参ります」
ですよねぇ……解放してくれる可能性は低いと思ったけど、一応言ってみただけです。
執事さんの案内で向かった部屋には、国王陛下と共に、バルドゥーイン殿下の姿もあった。
「ほほう、エルメリーヌも一緒か」
「陛下、旧王都からの姫様の護衛、つつがなく務めさせていただきました」
「カーライル領に現れた地竜の討伐を行ったと早馬で知らせが届いている。もう少し詳しい状況を教えてくれるか?」
「かしこまりました」
カーライル領に現れた地竜は全部で三頭だったことや、三頭の討伐方法、それに、討伐後に地竜が出て来た穴を塞ぐ作業を行ったことも報告した。
「それでは、その地竜が豪魔地帯から、先史時代に作られたトンネルを通って現れたのは、間違いないのだな?」
「はい、おそらく間違いないと思われます」
「そのトンネルは、カーライル領の所で埋めたのだな?」
「はい、当時の経路を見ると、新王都の近くまで来ていますので、この辺りに地竜が現れないとも限らないので、先史時代のトンネルを含めた穴は塞いでおきました。
「では、新王都が地竜の脅威に晒される心配はなくなったのだな?」
「いいえ、地竜がどの程度の掘削能力を持っているのか分かりません。私共の想像を超える能力を持ち合わせているとしたら、今回埋めた部分を掘り返す可能性もゼロではございません」
「そうか、だが、これまでよりは大幅に低くなったのではないか?」
「そうでございますね。これまでよりは、安全になったと思います」
竜種は体も大きく、攻撃力も高いので、現れれば大きな被害となる。
いくら素材が高く売れたとしても、現れてもらいたくない存在だ。
「父上、ニャンゴ様への昇爵はどうなりますか?」
「昇爵か……エルメール卿は昇爵が望みか?」
「いいえ、特には……」
「ニャンゴ様、そんなにアルビーナがよろしいのですか?」
「アルビーナ嬢は関係ありませんよ」
「それでは、私と婚姻を結ぶのは、そんなにお嫌なんですか?」
「嫌と言うか……実感が湧かなくて……」
田舎育ちの平民には、王族との結婚なんて想像も出来ない。
勿論、エルメリーヌ姫は可愛いし、結婚相手として不足がある訳ではないが、むしろ俺では釣り合いが取れていないと思ってしまうのだ。
「ふむ、いずれにしても、褒美を取らせるのは地竜討伐の裏付けが取れてからだ。それに、エルメリーヌよ、当人が望まぬ物を与えても、それは褒美にはならぬぞ」
国王陛下から釘を刺され、もう少し詳しい話を聞きたいから下がっていなさいと言われ、エルメリーヌ姫は渋々といった様子で退室していった。
「すまないな、エルメール卿」
「いいえ、どう対応すれば良いのか戸惑ってしまいますが、好意を寄せていただけるのは有難いことです」
「エルメール卿が望むのであれば、エルメリーヌを嫁がせる方法が無い訳ではないが……」
「いいえ、国の中に波風を立てるのは本意ではございません」
「まぁ、エルメール卿ならばそう言うと思っていた。エルメリーヌは、少しでも国の役に立ちたいという気持ちが強くてな、少々空回りしているところがあるのだ」
エルメリーヌ姫は、王都の学院に通いながら、王立の治癒院で治療の実習も行われているそうなのだが、どうもそれが上手くいっていないらしい。
「光属性で魔力も十分に持ち合わせているが、それだけで何でも出来るほど医術は簡単ではないのだ。例えば、深い傷に雑な治癒魔法を掛けてしまうと、後で動かす時に痛みが出たりするのだ」
「それは、傷を元の位置に戻しながら塞げば防げるのでしょうか?」
「その通りだ。筋肉、血脈、魔脈などが元通りに繋がるように、魔法を制御する必要があるのだが、エルメリーヌはその辺りが少々苦手のようでな……」
光属性を持つ王族ゆえに、『光の聖女様』とか、『救国の聖女様』などと呼ばれ、それに見合った働きが出来ていないために焦っているらしい。
「順を追って経験を積ませるように周囲の者に指示は出しているが、怪我人はこちらの都合を考えた傷を作ってきてくれたりはせぬからな」
「陛下、治癒魔法の訓練は植物相手では駄目なのでしょうか?」
「植物だと? 治癒魔法をか……いや、考えたことも無かったな」
治癒魔法が使える光属性は出現率が低いレアな属性なので、手にした者は例外なく治癒士となる。
希少な治癒魔法だから、それを植物に使おうという発想は無かったのだろう。
「人の体と植物では、構造が異なりますが、幹や茎を修復し、きちんと水が巡るように治す作業は魔力の制御の役に立つような気がするのですが……駄目ですかね?」
「いや、その考えには至らなかったな。植物であれば、こちらの希望通りの傷を付けるのも可能だな。そうだな、一度試してみても良いな。ところで、エルメール卿」
「はい、なんでしょうか?」
「そなたの左目もエルメリーヌが治療したが、何か不都合は起こっていないか?」
「あぁ……不都合ではないのですが、魔力を通して強化すると、魔力が見えるようになりました」
「ほぉ、魔眼か? 詳しく聞かせてくれるか?」
「はい」
国王陛下、バルドゥーイン殿下との会談は、場所を夕食の席に移して続けられた。





