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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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候補生たちの成長(後編)

 平日の王都、それもお昼近い時間となれば、街は多くの人で賑わっている。

 よくもまぁ、これだけの人が集まってくるものだと、感心するほどの人の数だ。


 前世の日本で例えるならば、渋谷のスクランブル交差点ぐらいの人が居る。

 それだけの人が行き交う街なのに、オラシオは迷う素振りも見せず自然体で歩いている。


 イブーロの街で『巣立ちの儀』の儀式を受けた後、屋台巡りをした時には俺に手を引かれていたオラシオが……。

 この三年ちょっとの間に、変われば変わるものだと思ってしまった。


「楽しいな、オラシオ」

「そうだね、イブーロで食べ歩きしたのを思い出すよ」

「あの時は、尻込みするオラシオを引っ張って歩くのが大変だったんだぞ」

「ふふっ、そうだったね。あの時、ニャンゴにもらった火の魔道具……ほら、いつも持ってるんだ」


 オラシオは、制服の襟元から紐で吊るした火の魔道具を取り出してみせた。


「これ、取るの大変だったよねぇ」

「あぁ、実はそれ、空属性魔法を使ってイカサマして取ったんだ」

「えぇぇぇ……そうだったの?」

「そうじゃないと、吹き矢ごときじゃ落ちないよ」


 吹き矢で倒れかけた火の魔道具にダメ押しをして、更に斜めに転がるように細工をしておいたのだ。


「うわぁ、ニャンゴ悪いんだぁ……」

「なぁに、本当に取れると思って、俺達の後に挑戦していた奴らがいたから、屋台のおっさんは元手は回収してるさ」

「ニャンゴ、今でもやってるんじゃないだろうね?」

「やる訳ないだろう、火の魔道具だったら自分で自由に作れるんだ。イカサマしてまで手に入れる必要なんか無いさ」

「それもそうか……あっ、その先だよ」


 オラシオが指差す先からは、香ばしい匂いが流れてくる。


「うぉぉ……この匂いはヤバいなぁ」

「唾が溢れてきたよ」


 後ろにいるザカリアスとルベーロは、もう匂いにやられているみたいだ。

 てかさ、君らパンを一斤食べて、大きな芋まで食ったよね。


 ホントに、どこに消えちまうんだ。


「さぁ、ここだよ。僕のお薦めはオーク肉の串焼き屋さんだよ」


 オラシオがニコっとイタズラっぽく笑った理由は、串焼きの形を見てすぐに分かった。

 タレの匂いは違っているけど、小判型の肉の形は、イブーロの屋台で食べたものと同じだ。


「ニャンゴ、あの肉、オークのどこの肉だと思う?」

「オラシオ、冒険者として色んな土地を巡ってきた俺が、この程度の事を知らないとでも思ってるのか?」

「あー……やっぱり知ってたか、ニャンゴにちょっと自慢しようと思ってたのになぁ」


 小判型の肉は、オークの骨の骨髄だそうだ。

 オークの巨体を支える大腿骨の骨髄は、処理の仕方次第で美味しくなるが、手間が掛かるから仕入れの値段は安いらしい。


 串焼き屋の前には、昼前とあって行列が出来ていたが、どんどん焼いているらしく、すぐに順番が回ってきた。

 俺は一本で十分だが、オラシオ達は一人で三本食べるらしい。


「はい、ニャンゴ、どうぞ」

「ありがとう、熱そうだな、ふー、ふー……うみゃ、ラーシを使った甘辛いタレは、ニンニクとゴマの風味が加わって香ばしくて濃厚、オークの骨髄も旨味がギュッと詰まっていて、うんみゃ!」

「うもぉ! ホントだ、これ美味しい!」

「ヤバいな、これは病み付きになるぞ」

「これは休みの度に通いそうだ」

「うん、ヤバいね……」


 ここもオラシオが聞き込んで来たものの、誰も来たことが無かったようで、ザカリアス、ルベーロ、トーレも夢中になってかぶり付いている。

 やかましい猫人に、巨漢の騎士候補生が貪るように食べていれば、当然道行く人たちが足を止める。


「お兄さん、そんなに美味いのか?」

「あぁ、ガツんとくる美味さだな」


 強面のザカリアスがニカっと笑って勧めた途端、ドドっと行列に並ぶ人が増えた。

 店のおっさんにとっては、これ以上ない良い宣伝になったと思う。


「あぁ、うみゃかった……」

「ニャンゴ、僕の分、食べる?」

「よせよ、胃袋の大きさが違うんだ、俺はもう十分だ」

「ニャンゴ、いっぱい食べないと大きくなれないよ」

「大きなお世話だ、俺は食べても横にしか大きくなんないんだよ」


 こんなにドカ食いしていたら、またお腹タプタプになっちまうよ。

 食べ歩き、最後に店を紹介してくれるのはトーレだ。


 細身で飄々としているトーレだから、デザートの美味しい店でも紹介してくれるんじゃないかな。


「それでは、次は自分が……」

「トーレ、どんな店なの?」

「時間も、腹の具合も良い頃なので……ドカ盛りパスタの店を」

「えっ……」

「ドカ盛りパスタの店です」


 いや、聞こえてる。くっきり、はっきり聞こえてるよ。


「さすがトーレだ、外さないな」

「丁度良い時間だもんな」

「うん、僕も良いと思う」


 ドカ盛りというフレーズに絶句したのは俺だけで、ザカリアスも、ルベーロも、オラシオも食べる気満々といった感じだ。

 君らの胃袋はブラックホールか。


 思いっきりツッコミを入れてやろうかと思っていたら、不意にオラシオが足を止めた。


「待って、なんか悲鳴が聞こえた」


 オラシオの言葉に俺も耳を澄ませてみたが、雑踏のざわめきしか聞こえてこない。

 聞き違いじゃないのかと思ったが、ザカリアスたちは休日モードから騎士候補生の顔に戻っている。


「どっちだ、オラシオ」

「そこの左の路地の奥」

「よし行こう、トーレは路地の入口で待機して」


 オラシオとザカリアスが先に立って進み、その後ろにルベーロが指示を出しながら続く。

 俺には悲鳴なんて聞こえなかったが、オラシオの足取りは確信に満ちている。


 路地に入ったところで、オラシオが先頭に立ち、ハンドサインで合図をしながら進んで行く。

 表通りのざわめきが小さくなった所で、今度は俺の耳にも短い悲鳴が飛び込んできた。


「嫌っ……やめ……」

「うっせぇ、離せ!」


 どうやら争っているのは女性と男性のようだ。

 オラシオが一軒の家を指し示し、ザカリアスと目線を交わして扉の両側に張り付いた。


「止めて……そのお金は持っていかないで……」

「邪魔、すんな!」


 ドタンドタンと人が争うような音が聞こえた後、突然家の扉が勢いよく開かれた。

 中から出て来たのは四十代ぐらいの男で、オラシオ達の姿に驚いて足を止めた。


「な、なんだ、手前ら!」

「王国騎士候補生だ。何の騒ぎだ!」


 キレの良いザカリアスの啖呵に、ウマ人の男は思わず足を止めた。

 左手に持っている重たそうな革袋には、たぶん金が入っているのだろう。


「こ、これは、内輪の問題だから騎士の出る幕なんざねぇ」

「お願いです、その人を止めてください!」


 男の声をさえぎるように、悲鳴の主だと思われる女性の声が響いた。


「詳しい話を聞かせてもらおうか」

「うるせぇ! 大きなお世話……だ?」


  革袋を手にした男は、ザカリアスに殴りかかろうとして不意に動きを止めた。


「くそっ、離せ!」


 殴りかかろうとした男の右手は、オラシオがガッチリと掴んでいる。


「オラシオ、そのまま拘束してくれ」

「止めろ……放せ!」

「話を聞くだけだから、大人しくしてね」


 ルベーロの指示に従ってオラシオは、あっさりと男を羽交い絞めにして拘束してしまった。

 ザカリアスはオラシオのフォローをして、ルベーロは家へ踏み込んで女性を助け起こしている。


「我々は王国騎士候補生です、何があったのですか?」

「あいつ、死んだ夫の弟なんですけど、いつも暴力を振るって金を奪っていくんです」

「分かりました。官憲に届け出ますか?」

「これまでにも何度か届けを出したんですが、捕まえてもらえなくて……」

「では、良い機会です、突き出して今までの分も取り返しましょう」


 どこの領地でも、いわゆる軍隊に近い騎士団の他に、警察組織に近い官憲が活動をしている。

 王都でも騎士団の下部組織という位置付けで、官憲が盗難などの捜査を行っているそうだ。


 今回は、個人的な恐喝事件なので、官憲の捜査対象となるそうだ。

 金を脅し取った男は、何とか逃れようと藻掻いているが、オラシオの羽交い絞めからは全く抜け出せる感じがしない。


 そのままトーレとザカリアスが人込みを捌き、官憲の事務所まで誘導して引き渡しを行った。

 引継ぎの説明はルベーロが担当して、テキパキと進めていた。


 街のチンピラという感じだったが、俺の出る幕は全く無かった。

 オラシオが女性の悲鳴を聞きつけたのは、俺たちと話をしながら風属性の魔法を使って索敵の練習をしていたからだそうだ。


「いつの間に、そんな器用な真似ができるようになったんだ?」

「ふふん、いつまでもニャンゴに差を付けられているだけじゃ悔しいからね」


 自慢げなオラシオを見て、悔しいと思うよりも誇らしいと思った。

 引き渡しが終わると、また四人はリラックスした表情に戻り、トーレの案内でドカ盛りパスタの店を目指した。


 四人それぞれが得意な分野を活かして活動する様は、もう立派な騎士に見える。

 これならば、四人揃って正騎士の叙任を受けるのは間違い無いだろう。


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― 新着の感想 ―
オラシオの成長がいいですね!
なんと、索敵できるようになってたのか 凄いじゃないか
初期から追っている一読者としては、オラシオの更なる成長に感激!
感想一覧
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