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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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候補生たちの成長(中編)

 ザカリアスお薦めのパン屋で、レーズンバタートップを堪能した後は、情報通のルベーロが案内役になった。


「お次は俺のお薦めの店に行くよ、まだ開店してから一ヶ月にもならない新しい店だそうだが、大人気の行列店に成長してきているんだ」


 今日の食べ歩きは、四人それぞれが仕入れて来た情報を自慢する形で行われているそうだ。

 別の休みの日に、四人が別行動をして街の人から情報を仕入れて来たらしい。


 ただし、聞き込みの本来の目的は、街の人達がどんな事に不満や不安に感じているのか聞くためで、美味しい食べ物屋の情報を聞くのは、話の切っ掛けを作るためだそうだ。


「『巣立ちの儀』の警備に関わって、都外の人から色々な話を聞いて、俺達はもっと王都の人の実情を知らないと駄目だと思ったんです」

「なるほど、それで趣味と実益を兼ねて、美味しい食べ物屋探しをしてるのか」

「まぁ、俺は前からやってはいたんですが、他の三人はちょっと口下手なんで……」


 オラシオは人見知りの引っ込み思案、ザカリアスは強面で取っ付きにくい、トーレは無口で表情に乏しい。

 情報収集は、得意なルベーロに任せてしまっても良いのかもしれないが、それでは何時まで経っても成長しないと、三人が自主的に取り組み始めたらしい。


 その甲斐あってか、四人は王都の色々な場所に足を延ばしていて、店に向かう道も大通りだけではなく、入り組んだ路地なども通り抜けていく。

 その途中で、道端に荷物が置きっぱなしになっていれば、周囲の人間に声を掛けて持ち主を探し、片付けるように指導したり、荷車が通りやすいように人込みを整理したりしている。


「まだ見習いですけど、この制服が何なのか王都の人は知っているんですよ」

「正式な騎士ではないけど、下手に逆らうと本物の騎士が出て来ると思っているのかな」

「そうでしょうし、俺らも順調にいけば正騎士ですからね」

「なるほど……」


 王国騎士になれば、同時に貴族としての身分を与えられる。

 王都では、余程理不尽な要求でなければ、貴族には逆らえないという風潮があるらしい。


「たぶん、エルメール卿でしたら無茶な要求も通ると思いますよ」

「いやいや、俺は無茶な要求なんてする気は無いからね」


 王城や王国騎士団にちょいちょい出入りしているから、平民とは違っているとは自覚しているが、だからといって貴族としての自覚も持っていない気がする。

 話をしながらルベーロは、また裏路地へと入っていく。


「この先は、職人街になってるんですよ」

「へぇ、そうなんだ。どんな職人さんがいるの?」

「服飾、木工、金具……色々ですね」


 バルナルベスの公開処刑は休日を選んで行われたので、今日は平日だから、色んな音が聞こえてくる。

 機を織る音、木を削る音、鍛冶の槌音、話し声よりも物音の方が大きく響いていて、その一角が大きな工場のようにも感じる。


「さすが王都は活気があるね」

「ですよね。俺の故郷とは比べ物になりません。あっ、その先です……ちょっと失礼」


 店があるらしい方向を指差したルベーロは、そのまま足を速めて進んでいく。


「ニャンゴは後から来て」

「お、おぅ……」


 ルベーロに続いて、オラシオとザカリアスも足を速めて歩いていった。

 店先では、ルベーロが体格の良い男性に声を掛けていた。


「お兄さん、割り込みは駄目だよ」

「なんだ、てめ……ぇ……」


 勢いよく振り向いた牛人の男は、ルベーロの制服を見て怒鳴り声を飲み込んだ。


「見てたからさ、この時間なら並び直しても、売り切れないから大丈夫だよ。俺達もこれから並ぶところだからさ」


 列の後ろに回れと促すルベーロの背後には、オラシオとザカリアスが仁王立ちしている。

 行列に割り込みした牛人の男は、二十代後半ぐらいで体も大きいが、オラシオやザカリアスとは鍛え方が違う。


 胸板の厚さ、首や腕周りの太さ、なによりもまとっている雰囲気が違い過ぎる。

 牛人の男は、バツが悪そうな表情で行列の後ろへ向かって歩いて行き、途中で足を止めた。


「最初は、この辺りに並んでたんだけど……」


 元並んでいた場所に戻ろうとしたようだが、ザカリアスがクイっと列の顎を振ると、項垂れて、頭を掻きながら列の最後尾へと回っていった。

 牛人の男が行列の最後尾へ並ぶと、その後ろにザカリアス、オラシオの順で列を作った。


 これでは、もう一度割り込みをするなんて不可能だろう。

 俺も、ルベーロ、トーレと一緒に列の後ろに並んだ。


「うんうん、オラシオも貫禄付いてきたねぇ」

「ううん、まだまだだよ。制服に助けてもらってるだけだよ」

「だとしても、アツーカ村に居た頃とは大違いだよ」

「そうかなぁ……」

「そうだよ、今ならミゲルも一睨みで黙らせられるだろう」

「まぁ、ミゲルだったらね」


 アツーカ村にいた頃も、体格だったらオラシオの方がミゲルよりも大きかったが、気弱な性格が災いして逆らえずにいた。

 それが今や、ミゲルだったら一睨みで黙らせられると言うほどになったのだから、それだけ精神的にも成長しているのだろう。


「それにしても、いい匂いがするにゃぁ……」

「ほんと、お腹が空いてくるよ」


 というか、オラシオはさっきレーズンバタートップを一と三分の二個食べたばっかりだよね。

 でも、この芋が焼ける香ばしい匂いはたまらない。


「ルベーロ、ここは焼き芋屋なの?」

「そうです、壷焼き芋の店なんですが、芋が特別なんですよ」


 前世で暮らした日本でも、壷焼き芋の店はあった。

 ルベーロ曰く、この店も大きな壺の中で炭を起こし、壺の中に吊るした芋をじっくりと炙っているそうだ。


「なんて芋を使ってるの?」

「ツエスト芋だと聞いてます」

「聞いてますって、ルベーロもまだ食べていないの?」

「はい、噂に聞けども、なかなか機会が無くて、今日が初めてです」

「それじゃあ楽しみだね」


 ここの店は何人にも勧められたが、じっさいに来て食べてみる余裕はなかったらしい。

 行列には二十人ぐらい並んでいたが、意外に回転は速いようで、それほど待たずに俺達の順番が来た。


 ツエスト芋は、色も形も、香りもサツマイモそっくりだった。


「はいよ、熱いから気をつけておくれ」


 カバ人のおかみさんが差し出してくれた芋を、空属性魔法で作った手袋をして受け取る。

 これなら肉球を火傷する心配は要らない。


「おぉぉぉ……蜜が」


 ツエスト芋は、割ってみると中は赤紫色で、断面にじわっと蜜が溢れてきた。


「ふー、ふー、熱っ! はふっ、はふっ……うみゃ! 芋がしっとり、ねっとり、あみゃ!」

「うもぉ、こんなに甘いお芋は初めて食べたよ」

「これは美味いですね。我ながら良い選択でした」


 芋は小さいサイズにしておいたのだが、それでも一本食べてしまうと、かなり満腹になった。

 オラシオは、俺が選んだ芋の三倍以上ありそうな芋を選んでいたが、それをペロリと平らげて、それでも物足りなそうな顔をしていた。


 君ら、どんだけ食べたいねん。

 ザカリアスやトーレは勿論、四人の中では小柄なルベーロも、三人と同じサイズの芋をペロリと完食した。


「じゃあ、次は僕の番だね」

「おっ、オラシオはどこに連れていってくれるんだ?」

「それは、着いてのお楽しみだよ」


 焼き芋を食べ終えたところで、今度はオラシオが案内役を務める。


「オラシオ、今王都のどの辺にいるのか分かってる?」

「うん、ここは王都南西の第三街区だよ。その先の通りに出ると、左手に大聖堂が見えるよ」

「さすが騎士見習い、もう王都の地理はバッチリだな」

「うーん……それでも、全部の路地までは覚えきれていないけどね」


 初めて王都で食べ歩きをした時は、俺がオラシオ達を引き連れて歩いている状態だったが、今日はオラシオに任せていても大丈夫そうだ。


 さぁ、ではオラシオお薦めの逸品を堪能しに行きますかね。


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― 新着の感想 ―
つえすと芋 さつまいも 薩摩 薩摩と言えば示現流 示現流の掛け声は ちぇすとおおおお!からの ちぇりおー! 成る程ね
ちぇすとーが訛った感じかにゃ
ミゲルって特に目的のない筋肉づくりしてなかったっけ?
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