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不落の名にかけて

 ホフデン男爵家に関する騒動は、もう終わりだと思っていたのに、王家からのお呼び出しが掛かってしまった。

 バルナルベスの公開処刑が正式に決まり、その執行にバルドゥーイン殿下とエデュアール殿下が立ち会うそうで、現場での警護を依頼されたのだ。


 勿論、刑場の警備は王国騎士団が行うので、滅多なことは起こらないはずだが、それでも万が一を考えて不落の魔砲使いの起用が決定されたらしい。

 なんだか、このところ全然冒険者らしい活動ができていない。


 商隊を守って山賊と対決したり、魔物の群れを蹴散らしたり……なんて生活に憧れていたんだけど、人生は思い通りにはならないものらしい。

 公開処刑の前日に王国騎士団に顔を出し、その晩は騎士団の宿舎に泊まった。


 アンブリス・エスカランテ騎士団長、ブルーノ・ダルボロス第一師団長、ホフデン男爵領でも一緒だったツェザール・ヘーゲルフ第二師団長と夕食を共にしながら警備の打合せをした。

 そして公開処刑当日は、王家の紋章が入った革鎧に身を包み、バルドゥーイン殿下、エデュアール殿下と同じ魔導車に乗り込んだ。


「度々呼び出してすまないな、ニャンゴ」

「いいえ、爵位を授かっても、あまりお役に立っていませんから、お気になさらず」

「とは言っても、発掘に専念したいのではないのか?」

「まぁ、そうですね。正直、パーティーの仲間が飽きてしまっていて……」

「飽きる? 発掘をか?」

「はい、現状は発掘というよりも、遺跡に残されている品物を運び出す作業を見守っているだけなので、あまりやる事が無いのですよ」

「なるほど、学者にとっては垂涎の場であっても、冒険者にとっては退屈という訳だな」

「その通りです」


 バルナルベスの公開処刑が行われるのは、第三街区の外、つまり王都の外に設けられた特設会場らしい。

 王都の外であれば、何か騒動が起こったとしても、手加減無しで鎮圧行動が取れる。


 これが王都の中だったら、住民や建物への被害を考慮しなければならないのだ。

 第三街区から出る門が近づいてきたところで、バルドゥーイン殿下から頼み事をされた。


「ニャンゴ、万が一の時には、私よりもエデュアールを守ってくれ」

「兄上、それはなりませぬ」

「いいや、エデュアールは次の王になるかもしれない身だ。私よりも優先してくれ、いいな、ニャンゴ」

「申し訳ございませんが、そのご要望にお応えできかねます」

「どうしてもか?」

「はい、不落の名にかけて、お二人とも守ってみせます」

「はははは、こいつは一本取られた。そうだな、頼んだぞ不落の魔砲使い殿」

「お任せあれ」


 俺が展開する空属性魔法のシールドは、魔法による攻撃に対して滅法強い。

 火、水、風、雷、氷などの魔法は、ことごとく跳ね返せる。


 そして、物理攻撃に対しての強度も、研究を重ねて、強化を重ねている。

 純粋な硬さに拘ったり、弾力性を加えて破壊強度を増したり、ハニカム構造などの立体構造を取り入れたり、王都の巣立ちの儀が襲われた頃よりも格段に強度が増している。

 

 今日はバルドゥーイン殿下とエデュアール殿下に探知ビットを貼り付ける許可も貰っているので、その周囲には瞬時にシールドを展開する準備は整えてある。

 あとは、それ以外の突発的な事態にどう対処するかだが、王国騎士も近衛騎士も警護に当たるのだから、そんなに心配は要らないだろう。


 それにしても、今日のエデュアールはやけに静かだ。

 いつもなら、俺が挨拶すれば嫌味の一つも言わないと気が済まない性格をしているのに、終始神妙な態度を貫いている。


 もしかして、自分の派閥に属する貴族が処刑されることに責任を感じていたりするのだろうか。

 いや、そんなタマには思えないんだけどにゃぁ……。


 処刑場は思っていたよりも広く、黒山の観衆に取り囲まれていた。

 ただし、放射状に区切られていて、そこには馬に乗った騎士が配置されている。


 その他にも、革鎧を着こんだ騎士見習いらしい姿が見えるので、たぶん、オラシオ達もどこかに配置されているのだろう。

 時折、鋭く警笛が吹かれているのは、騒ぎを未然に防ぐためなのだろう。


 魔導車のドアが開き、近衛騎士と俺が先に降りて、群衆との間にシールドを展開してから、バルドゥーイン殿下とエデュアール殿下に降りてもらった。

 王族の姿を目にした群衆からは、どよめきが広がって行く。


 二人が上がる壇上の周囲にも、すでにシールドを設置してある。

 このシールドと二人の周囲に展開するシールド、そして、致命傷を防ぐ急所を守るシールドの三段構えで防御を固める。


 勿論、自分の周囲にも魔力回復の魔法陣を組み込んだフルアーマーを展開しておく。

 王族を守るのも大切だが、俺がやられたら、俺の展開しているシールドは全て解除されてしまう。


 警護対象を守り、自分も守る、出来る男はつらいのだ。

 王族の登場によって観衆からどよめきが起こったが、馬車からバルナルベスが引き出されると、一気に怒号が浴びせられた。


「殺せ! 殺せ! 殺せ!」


 憎悪を伴った言葉と共に、群衆が足を踏み鳴らして地面が揺れる。

 もし、この群衆が一気に押し寄せてきたら、果たして俺のシールドは耐えられるだろうか。


「静まれ!」


 背中に嫌な汗が伝って落ちた時、騎士団長の一喝が群衆を抑え込んだ。

 騎士団長が、すっと一歩踏み出した時、壇上を囲うシールドを解除した俺の判断もファインプレーだった気がする。


 騎士団長が後ろに下がり、代わって一歩前に出たバルドゥーイン殿下が刑の執行を宣言し、バルナルベスが鉄の棒に拘束されたのだが、最後まで見苦しいほどの抵抗を続けていた。


「い、嫌だ、死にたくない! 死にたくない!」


 確か、バルナルベスは刑の執行までに、エデュアール殿下によって改心させられるはずだったが、現実的に死を目前にすれば全部頭から吹っ飛んでしまったのだろう。

 バルナルベスの足下には薪が組み上げられ、バルドゥーイン殿下の合図と共に火が点けられた。


 泣き叫ぶバルナルベスを見て、観衆は罵り、嘲笑い、溜飲を下げる。

 やはり火炙りによる公開処刑は、見ていて気分の良いものではない。


 膝の辺りまで炎に包まれたバルナルベスは、それでも喚き続けている。


「俺は何も悪くない! 悪いのは、そこにいる……うぎゃぁぁぁ!」


 バルナルベスが俺たちが居る壇上に向かって口を開いた瞬間、壇の下に控えていたエデュアール殿下の近衛騎士が鋭く腕を掲げるのが見えた。

 次の瞬間、出現した巨大な火球がバルナルベス目掛けて撃ち出される。


「シールド!」


 バルナルベスを飲み込んだ火球が勢いそのままに、刑場をぐるりと囲んだ観衆に飛び込む前に、俺のシールドの展開が間に合った。

 火球は斜めに展開したシールドによって上方へと逸れ、熱気と共に形を崩し空へと消えていった。


  それでも命の危険を感じた観衆からは、大きな悲鳴が上がっている。


「貴様、いったい何のつもりだ!」

「殿下の御命令だ」

「何だと、民衆を巻き込んだらどうするつもりだ!」

「巻き込んでいないのだから良いだろう」


 壇の下からは魔法を放った騎士と別の騎士が口論になっているようだ。


「止めよ、そちらの騎士には後で話を聞く」

「はっ」


 バルドゥーイン殿下の言葉で騎士同士の口論は収まった。


「エデュアール、お前の近衛か?」

「はい、兄上」

「打ち合わせていたのか?」

「はい、詳しくは後程……」

「分かった」


 どうやら、エデュアールはバルナルベスが喚き散らすことを予測して、壇の下に近衛騎士を配置しておいたようだ。

 あのままバルナルベスが喚き続けていたら、おそらくエデュアールの名前を口にしていたのだろう。


 この場で名指しされることは、エデュアールにとって大きなマイナスであると同時に、王家にとってもマイナスになる。

 それを未然に防いだのは良いとしても、観衆を巻き込む危険性を全く考慮しない攻撃は、けっして褒められたものではないだろう。


 全身を焼かれ、沈黙したバルナルベスを確認して、バルドゥーイン殿下は踵を返した。


「エデュアール、城に戻るぞ」

「はい、兄上」

「ニャンゴ、よくぞ防いでくれた」

「お役に立てて何よりです」

「さすが、不落の名は伊達ではないな」


 バルドゥーイン殿下は少しだけ口許を緩めたが、次の瞬間には厳しい表情に戻っていた。


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― 新着の感想 ―
不落が居なかったら巻き込んでるじゃんw
 本当はエデュアールは守りたくないんだよなぁ。まー、変な嫌疑掛けられたくないからああ言うしかないんだけど。
この後、ニャンゴは735話で言ってた 王都で信頼できる人物のラガート子爵の次男 カーティスに会いに行くんだろうな。 でも、その前に姫様に連行されて 「なでなで」タイムかな? 最近、全然会えてないから(…
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