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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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説明が難しい

 暴走したレンボルト准教授への指導はネルデーリ学部長にお任せして、俺は発掘品の調査を担当しているモルガーナ教授の研究室へと向かった。

 俺達がダンジョンの新区画を発見した当時は、まだモルガーナ教授は准教授だったが、今では旧王都の学院で一番大きな研究室を与えられている。


 ただし、一番大きな研究室であっても、次々に持ち込まれる発掘品によって、すでにスペースの七割以上が埋まっている状態だ。

 アーティファクトのような機能を持たない発掘品については、スケッチなどの記録を取った上で、ギルドと共同の鑑定に回され、買取価格が決められて、市場へと卸されていく。


 スムーズに作業が進められていく予定だったのだが、新しい地下道の完成によって発掘品の搬出が早まったせいで、調査や鑑定が間に合わず、物品の滞留が起こってしまっているらしい。

 モルガーナ教授は、発掘品の間を縫うようにして歩き回り、作業を進めているようだ。


「ご無沙汰してます、モルガーナ教授」

「お忙しいのに、御足労いただきありがとうございます、エルメール卿」

「俺に鑑定してもらいたい品物はどちらでしょうか?」

「はい、あちらの一角に置いてあります」


 モルガーナ教授に案内された先に置かれていたのは、様々な形のガラス製の容器だった。

 同じような品物が大量に棚やバックヤードに置かれていたそうで、見た感じでは化粧品のボトルのように見える。


 樹脂製のキャップは劣化が進んで崩れかけていたりするが、様々な形や色のガラス容器は、今のシュレンドル王国ではお目に掛かれない代物だ。


「エルメール卿、こちらは問題の品物と同じ店から運び出したガラス容器ですが、何の容器だと思われますか?」

「これは、女性用の化粧品などの容器じゃないですかね」

「やはり、エルメール卿もそう思われますか」

「中身は、入っていなかったのですか?」

「殆どが蒸発してしまっていて、僅かに残っていた物も変質してドロドロでした」

「そうですか、先史文明は今よりも遥かに発展していたようですし、女性用の化粧品も色々な物が作られていたんじゃないですかね」


 俺の前世である日本でも、女性用の化粧品や香水は容器にも工夫がされていた。

 医薬品とは一線を画した容器こそが、化粧品だった証だろう。


 でも、中身が残っていなかったということは、これらの化粧品には品質維持の魔法陣は貼られていなかったのだろう。

 前世の頃、化粧品に関しては添加物や保存料が使用されていなかったり、天然由来成分にこだわっているアピールがされているのを見た覚えがある。


 そうした品物は使用期限があったり、冷暗所で保存するように注意書きがされていたりしたはずだ。

 品質保持の魔法陣が使えた時代ならば、むしろ積極的に使われていてもおかしくないと思うのだが、その辺りのこだわりは俺の常識とは異なっているのかもしれない。


「それで、品質保持の魔法陣が貼られた品物はどれでしょう?」

「こちらの箱がそうです」


 モルガーナ教授が指差した机の上には、色あせてはいるものの、様々な模様が描かれた箱が置かれていた。

 大きさは、前世で見たタバコの箱ぐらいだが、タバコよりは薄くみえる。


「同じ様な文字が描かれていますね」

「この品物の商品名ではないかと考えています」

「なるほど、箱に触れても大丈夫ですか?」

「箱はかなり脆くなっていますが、中身は品質保持の魔法陣のおかげで大丈夫のようです」


 箱を壊さないように、空属性魔法を使って箱の周囲の空気を固めてから持ち上げてみた。

 表面は大きな文字で商品名らしき印字がされていて、裏面には細かい文字で注意書きがされているようだ。


 当然、先史時代の文字なので、何が書かれているのか全く分からない。


「それで、中身に品質保持の魔法陣が貼られていたのですね?」

「はい、その中身がこちらです」

「えっ……」


 箱の中身を見せてもらったら、その時点で用途が分かってしまった。

 確かに、品質が維持されていないとマズい品物だとは思うが、そこまでするかぁ……というのが正直な感想だ。


「エルメール卿、実は一つ開封して、中身を取り出してみました」

「えっ、開けたんですか?」

「開けてはいけない物だったのですか?」

「いいえ、そういう意味ではなくて、開けたら品質が維持できなくなるのかなぁ……と思ったので」

「はい、その点に関しては、仕方ないと割り切っています。一応、同じ発掘品が幾つもありますので、研究用として一つを開封して、中身を確かめました。それが、こちらです」

「ほ、ほほぅ……なるほど」


 その品物は、品質保持のパッケージから取り出され、更には展開されていた。


「ご覧ください、エルメール卿。あちらが透けて見えるほどの薄さなのに、筒状に加工されているのです。しかも、弾力があり、羊の腸のようでもありますが、先端は閉じています」

「そ、そのようですね」

「それと、これも品質維持のためなのか、粘液状のものが塗布されています」

「そ、そうですね……滑りを良くするためかにゃぁ……」

「滑り、滑りですか……あっ、この形で収められていたのではなく、えーっと……スケッチはどこへ……あった、ありました。このように丸めた形で収められていました」


 うん、モルガーナ教授が嬉々として俺に説明してくれている品物は、どこからどう見てもコンドームだ。

 おたボッチな高校生だった前世では縁の無い品物だけど、知識としては当然知っている。


 箱の表に書かれていたのは、たぶん、0.02mm といった薄さの表示なのだろう。

 そりゃあ、穴が空いたり、破れたりしたら意味をなさない品物だから、品質の保持は必要だろうけど、魔法陣まで使うとは思わなかった。


「エルメール卿、もしかして、これは薬を収めて飲み込むための物でしょうか?」

「いやいや、飲んじゃダメでしょ!」

「えっ、ダメなんですか? というか、エルメール卿はこれが何か分かったのですか?」


 グイグイと迫ってくるモルガーナ教授は、研究が最優先の典型的な学者バカで、身だしなみとかまるで気にしていないが、それでも一応女性ではある。

 ある意味、女性だからこの用途に気付かないのだろうか。


「一個ずつ個別の包装になっていて、しかもそれぞれに品質保持の魔法陣が貼られているのを見ても、かなり高価な品物だったのではないですかね?」

「うーん……どうなんでしょうね。品質保持の魔法陣が付いていても、開けてしまえば効果が無くなってしまいますし、案外使い捨てなんじゃないですか?」

「使い捨て? このような高度な技術が使われた品を使い捨てにするでしょうか?」


 いやいや、それは洗って再使用するような物じゃないと思いますよ。


「先史時代と現代とでは、価値観が違っていてもおかしくないですよね」

「確かに、エルメール卿が仰る通り、今と全く同じ考え方ではないでしょう。ですが、このような工芸品を使い捨てにしますかねぇ?」


 いやいや、それ工芸品じゃないですから、大量生産品ですよ。

 てか、絶対に再使用なんかしないでしょう。


「あー……えっと……これは、あくまでも推論なんですけど……」


 この世界では、まだセクハラなんて言葉は存在していないから、ズバッと言ってしまっても大丈夫だろうが、それでも言葉を慎重に選びながら、推論という形で説明を試みた。


「えっ? 子供を作らないためのもの?」

「たぶん……男性が装着して、それから行為におよべば、妊娠する確率を大幅に減らせるんじゃないかにゃぁ……」

「えっ? 男性が装着って、どこに装着するのですか?」

「はっ? どこにって、ナニにですが……」

「ナニ? ナニとは……?」


 どうやらモルガーナ教授は、学生の頃から研究に熱中するあまり、保健体育的な知識が欠落しているらしい。

 これ、子供の作り方から説明しないと駄目なのかにゃぁ……。


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