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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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作業員(前編)

 ダンジョン新区画での発掘作業の再開に際して、ギルド、大公家、学院の三者は一つの課題に向き合っていた。

 それは、発掘品の搬出作業を行う人員をどうやって雇うかだ。


 今回、わざわざ新しい地下道を作ってまで発掘を再開する目的は、地下に眠る先史時代の文明の遺物回収だ。

 ニャンゴ・エルメール名誉子爵が発見した、実動するアーティファクトは学会に一大センセーションを引き起こした。


 ただのタイルにしか見えなかったアーティファクトは、目に見える情景をそのまま記録、再生し、学者のみならず、王族や貴族の度肝を抜いた。

 それ以外にも、数多くの実動するアーティファクトが眠っているとなれば、新たに地下道を作るだけの意味もあるというものだ。


 実動するアーティファクトは、貴族どころか王族にすら行き渡っていない。

 それが庶民の手に入るには、どれほどの時間が掛かるか分からないが、今後の生活を一変させるだけの価値があるのは間違いない。


 どこから漏れ伝わったのか分からないが、とある王族は実動するアーティファクトに対して、望むだけの報酬の他に貴族街に屋敷を贈るとまで言ったと噂されている。

 ただのタイルにしか見えない、アーティファクト一台だけで、それほどの価値なのだ。


 そうした噂の煽りを受けて、ダンジョンでの発掘が再開される以前から、商人の間では発掘品の取り引き価格が上昇し続けていた。

 アーティファクトでなくとも先史時代の遺物というだけで、それまでの倍の価格で取引されるようになっている。


 発掘品は商取引の対象となるだけでなく、貴重な研究資料でもある。

 散逸するような事があってはならないし、権利者の許可なく持ち出されるような事態は防がなければならない。


 その権利者の一人が、王族の覚えも目出度いニャンゴ・エルメール名誉子爵ということもあり、ギルド、学院、大公家の三者が神経を尖らせている。

 これまで荷運びなどの力仕事の殆どは日雇いで、真面目に仕事をこなせば素性には拘らなかったが、運び出す品がアーティファクト絡みとなれば、身元の怪しい人間は雇えない。


 最初に募集を掛けたのは、旧王都のギルドに所属しているランクの低い冒険者で、これまでの実績や口座の残高から犯罪に手を染める可能性が低いと判断した者たちだ。

 駆け出しに毛が生えたレベルの冒険者では、商隊の護衛などの依頼は受けられない。


 だが、日当の安い力仕事ばかりでは収入も安定しないし、実績にもならないと考え始めたぐらいの連中をピックアップして、普通の力仕事よりも割高な報酬を提示して勧誘した。

 これが、ギルドの用意した搬出作業を行う主力部隊だ。


 それに対して、学院が用意したのは、学院に通う生徒の中でも身元がハッキリしていて、これまでの成績や素行に問題の無かった者たちだ。

 若手冒険者に比べると腕力という点では劣るが、発掘品の取り扱いといった知識の面では優れている。


 そして、大公家が用意したのは、大公家騎士団の見習い騎士だ。

 当然、身元は厳しく調べられているし、普段の素行もチェックされている。


 見習いとは言え給金は支払われているし、不祥事を起こせば大公家の騎士になるという夢が断たれるとなれば、発掘品の横領に手を出す可能性は低いと思われる。

 更には、そうした人材であっても、実際に作業に関わる時には、大公家の騎士によって本人確認が行われる。


 いずれは、こうした厳重な体制は解除される予定だが、チャリオットが発見したショッピングモールと隣接する量販店に対しては、この状況が維持される予定だ。

 この二つの建物は、学術的にも商業的にも宝物庫といっても過言ではない存在だ。


 確実かつ迅速に作業を進めることが、旧王都の経済を活性化させるための最優先事項なのだ。

 発掘再開初日、ニャンゴ・エルメール名誉子爵は不在だったが、所属する冒険者パーティー、チャリオットの立ち合いの下で、順調に作業は進められた。


 それから数日、姿を現さないエルメール卿を巡って、王家からの指名を受けた依頼に出掛けているとか、パーティーとの不仲説など様々な噂が飛び交ったが、数日後に現れた本人は、いつもと変わらない様子だった。

 発掘品の運び出し作業は、時折現れるネズミやフキヤグモ、ヨロイムカデなどのために中断することはあっても、大きなトラブルも無く進められていた。


 運び出し作業の人員として、学院から送り込まれた生徒の中に、エーデンという少年がいた。

 エーデンは、旧王都の商業地区に店を構えるリリバリー商会の三男で、考古学の専攻ではないが志願して搬出作業に加わっている。


 リリバリー商会は新王都にも支店を持ち、エーデンの父親が商会主、伯父が補佐を務める親族経営の商会だ。

 二人の兄は、既に商会の役員として実務に就いていて、エーデンも学院を卒業した後は商会で働くことになっている。


 エーデンが搬出作業に志願した表向きの理由は、アーティファクトを含めた発掘品に関する知見を深め、将来の仕事に活かすためとしているが、実際には別の理由があった。

 エーデンは、志願すれば搬出作業への参加が認められる良好な成績を残している。


 講義を受ける態度も真面目そのもので、表面上は何の問題も無い優等生だが、一つだけコンプレックスがあった。

 それは、女性に対して奥手なことで、日常会話ですら緊張しまくって上手く喋れなくなってしまうほど重症だった。


 そんな様子を見かねた学友の一人が、休日に遊びに行こうとエーデンを誘い出した。

 向かった先は歓楽街で、学友は尻込みするエーデンを思い切った行動じゃなきゃ治らないぞと言いくるめ、娼館へと連れ込んだ。


 それまで女性は眺めるだけで、悶々と欲望を内に秘めていたエーデンは、やり手の娼婦フェルネの手管に嵌まり、足繁く通い詰めることとなった。

 大商会の商会主の息子と知った娼館の主ロブロスが、まとめて搾り取るように指示を出していたのだ。


 こんな生活からは抜け出したい、本当に好きなのは貴方だけ……エーデンは不幸な身の上を装った娼婦に騙され、性の快楽に溺れさせられ、気付いた時に莫大な借金を背負っていた。

 娼館主ロブロスはリリバリー商会から引き出そうとしたのだが、それだけは勘弁してくれ、実家に知らせたら死ぬとまでエーデンに泣きつかれ、それならばと交換条件に出したのが搬出作業への参加だった。


「いいかい、あんたらが入る建物の一番反対の端に、アーティファクトを扱っていた店があるらしい。そこへ行ってアーティファクトを持ち出して来な。壊れていても見栄えの良い物なら借金はチャラ、もし実働品を手に入れられたら、フェルネを身請けさせてやるよ」

「で、でも、アーティファクトなんて持ち出したら、バレるんじゃ……」

「手の平に乗る、見た目はタイルにしか見えない代物だ、下着の中にでも突っ込んで持ち出して来い」


 ロブロスは、裏社会の連中からダンジョンに関する情報を仕入れていた。

 上手く手に入れれば、一生遊んで暮らせるほどの財産が手に入るが、長年歓楽街で生きて来たロブロスが発掘現場に入り込む余地は無い。


 それでも諦めきれずにいた所に、エーデンがのこのこ現れたという訳だ。

 ロブロスは、自分が仕入れた情報をエーデンに与え、アーティファクトの持ち出しを命じた。


「いいか、慌ててドジ踏むんじゃねぇぞ。最初の数日は伝えた情報に誤りが無いか検証しろ。最初のうちは全員が緊張しているから隙がねぇが、何も起こらずに数日が過ぎれば必ず気が緩んで来る。そこを狙え」


 エーデンは、ロブロスの指示に従い、ひたすら情報収集に専念した。

 一日の作業の段取り、自分が一人になれる状況の把握、現場の建物の様子など、噂話にもなっていない情報を自分の目で確かめ、建物の内部状況も少しずつ調べた。


 エルメール卿が不在のうちに実行しようとエーデンは考えていたが、実行する前に現場に復帰されてしまった。


「慌てるな、フェルネと一緒になるためだ、慎重に行け」


 エーデンは緊張を解すために自分で自分に話し掛け、搬出作業から抜け出すタイミングを窺い続けた。


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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます、いつも楽しみに読まさせて頂いてます(^人^) 主人公を引き立てるためだけに周りのモブが存在してるような作品とは違い、当作品は周りも至極優秀なんですよね・・・果たしてこんなあり…
自分で声を出しているってなってるから 周りの人や風魔法の探知を使っている人が近くに 居たら発言を聞かれてるだろ、これは(汗
ありそうな話ですねぇ。
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