ギルドへの報告
俺達チャリオットを乗せた馬車が旧王都へ戻ったのは、ダンジョンの新区画に通じる新しい地下道が開通する三日前の昼過ぎだった。
開通を記念する式典には出席してくれとギルドから要請されていたので、何とか間に合って良かった。
ノイラート辺境伯爵領に関する報告をするために、俺とライオスがギルドに向かい、レイラ、セルージョ、シューレ、ミリアムの四人は一足先に拠点へと向かった。
「やっぱり、地下道の開通が近いからか、賑やかだね」
「そうだな、発掘品の搬出が始まれば、もっと賑やかになるだろうな」
ライオスの言う通り、地下道の開通は旧王都に暮らす者達にとって、ずっと待ち続けていたものだ。
地竜が原因なのか、地竜を倒そうとした者の荒っぽい方法が原因なのか分からないが、ダンジョンが崩落して以来、立ち入りが禁止されて発掘品の搬出も止められてしまっている。
稼働可能なアーティファクトなどは調査が必要だが、陶磁器、ガラスなど鑑定が終われば市場に出回る品物までも流通が止まってしまっているのだ。
地下道建設のために多くの工事関係者が集まることで特需は発生したが、全体的な利益を考えると、やはり発掘品の取引があった方が動く金額が大きい。
それに、地下道の建設工事が終わった後も、新区画の発掘作業には、多くの土属性の技術者が必要になる。
つまり、建設特需をある程度維持しつつ、発掘品の取引が再開されるのだから、旧王都の景気は更に上向くことになると見込まれている。
ただ、俺はそれほど楽観的な未来が開けるとは思っていない。
俺達チャリオットが掘り当てたショッピングモールと思われる建物と家電量販店らしき建物には多くのアーティファクトが眠っているようだが、それ以外の建物には大きな発見は望めないような気がする。
少なくとも、新品のスマホの包装にプリントされていた、固定化と思われる魔法陣で守られていない品物は、経年劣化によって壊れてしまっているはずだ。
どれだけ動くアーティファクトが残されているかにもよるが、壊れたアーティファクトの価値は一段も二段も劣ってしまうだろう。
「チャリオットだ、ノイラート辺境伯爵領の地竜の穴に関する報告をしたい」
「あぁ、エルメール卿、戻られましたか」
ライオスに声を掛けられた受付嬢は、横に並んだ俺の姿を見つけると慌てた様子で席を立った。
「こちら、大公家からの書状を預かっております」
「あー……呼び出しかぁ」
銀の縁取りがされた高そうな封筒には、大公家の紋章で封蝋が押されている。
「王都から王族がいらしているようですよ」
「えぇぇぇ……受け取らなかったことには」
「とんでもない! 確かにお渡ししました!」
「はぁ……この書状は何時届いたのですか?」
「今日の昼前に届けられました」
受け取ってしまった以上、中身を見ない訳にはいかないので、封を切って書状の内容を確かめた。
「王族のお守りか?」
「うん、地下道の視察に来たみたい」
書状の中身を要約すると、第四王子が視察に来たから、解説要員を務めてほしいという要望書だった。
大公家からの要請となれば、名誉子爵程度には拒絶する権利は無い。
「ライオス、報告を任せちゃって良いかな?」
「いいや、ギルドマスターが居るなら、事情を聞いてから大公家に行った方が良いんじゃないか?」
「あぁ、それもそうか」
幸い、ギルドマスターは執務室に居るそうだ。
「正直、ニャンゴが居ないと色々説明が面倒だからな」
地竜が現れた穴が、先史時代の高速鉄道の跡を通って、豪魔地帯にまで続いている話などは、スマホの地図画面を使いながらでないと説明が難しいだろう。
ギルドマスターのアデライヤさんは、知らせに行った受付嬢と一緒に現れた。
「お帰りなさい、エルメール卿。お忙しいようですし、早速報告を聞かせていただきましょう」
アデライヤさんは、込み入った依頼者の話を聞くための応接スペースへ俺達を誘うと、報告を始めるように求めてきた。
「では、単刀直入に話をしますと、地竜が出て来た穴は先史時代の遺跡に通じていました」
「では、新たなダンジョンと考えて良いのですね」
「先史時代の遺跡をダンジョンとするならば、その通りですが……」
「何か問題でも?」
「危険度が高すぎるので、埋め戻す措置が取られました」
「えっ、埋めてしまったのですか?」
「はい、危険度が高すぎます」
地竜の穴が、先史時代の高速鉄道のトンネルを経由して豪魔地帯まで繋がっていて、フェルスや地竜などの危険な魔物が現れていたと説明すると、アデライヤさんも納得したようだ。
「なるほど、頻繁に竜種が現れるような状態では、調査どころではありませんね」
「指折りの王国騎士を揃えて、万全な体制を整えれば、なんとか調査出来るかもしれませんが、そこまでのリスクを冒してまで調べる意味があるかどうかですね」
意味が有るか無いかと言うならば、有るに決まっている。
経年劣化や外的な要因で壊されてしまっているかもしれないが、先史時代の最先端技術が結集しているかもしれない場所なのだ。
調査を行って資料が発見されれば、先史文明の復元に大いに役立つだろう。
ただ、竜種が闊歩している場所が安全であるはずがなく、リスクが大きすぎるだろう。
下手に刺激して、竜種が大挙してノイラート辺境伯爵領を襲うような状況が起きれば、被害は甚大になるだろう。
「ありがとうございます。エルメール卿が調査していただいたおかげで危険性が良く分かりました。何の情報も無かったら、うちのダンジョンからあぶれた冒険者共が、掘り返せと騒いでいたかもしれません」
ダンジョンの新区画へ通じる新しい地下道は完成したが、探索方法は従来とは大きく変わり、学者や土属性の魔法が使える者が主役となる。
冒険者が担う役目は、フキヤグモやヨロイムカデなどを排除する、害虫駆除のような仕事になってしまう。
それに飽き足らなくなった冒険者が、新しいダンジョンが発見されたと聞けば、これまでの経験を活かして稼げるように移籍を考えるだろう。
その当てが外れれば、騒ぎを起こしてもおかしくない。
「いえいえ、俺も自分の考えを整理できて良かったです」
「それは、大公家からの呼び出しに関わりがあるのでしょうか?」
「そこまでは分かりませんが、備えておいて損はありませんからね」
ギルドマスターへの報告を終えた後、ギルドのロッカーに寄って預けておいた騎士服とお布団を引き取った。
拠点に戻るまでの間、お布団は運びながら空属性魔法で作った乾燥機に入れておいた。
これで大公家から戻ったら、ふかふかのお布団で寝られるはずだ。





