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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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辺境伯爵(前編)

 フェルス尽くしを堪能した翌日、俺達チャリオットはモンタルボの街を出発して、ノイラート領の領都テリコへ向かった。

 辺境伯爵から招待を受けたのに、いつまでも姿を見せないと不敬だと思われかねないからだ。


 ノイラート辺境伯爵には会ったことが無いので……いや、もしかすると王城で会っているかもしれないけど、晩餐会や舞踏会、叙任式では挨拶した人が多すぎて覚えきれなかった。

 それ以前に会う機会があった、レトバーネス公爵やエスカランテ侯爵などは覚えているが、一度にあんな大人数は覚えきれない。


 よほど特徴的な人物であれば見覚えがあるかもしれないが、印象の薄い人物だった場合にはどう対処したら良いものやら。


「そういう時は、とりあえず礼儀正しくしておけば良いのよ」

「でもさレイラ、初対面かどうかも分からないんだよ」

「大丈夫よ。相手はニャンゴと繋がりを持ちたいから呼び出しているんだから、会った経験があるなら匂わせてくるし、初対面ならばそう申し出るわよ」

「なるほど……まぁ、いずれにしても出たとこ勝負だね」


 ノイラート辺境伯爵の居城トルリコ城は、領都テリコ西側の丘の上に建っている。

 自然の丘陵地を利用し、更には三重の堀に囲まれているそうだ。


 それほどの守りを固めるのは、ここが豪魔地帯からほど近い場所にあるからだろう。

 トルリコ城の敷地は広大で、有事の際には領都の市民を避難させ籠城できるように作られているそうだ。


 王都の王城も似たような造りだが、あちらはあくまでも王族が無事に生き延びるための造りとなっている。

 まぁ、王城も元は市民を受け入れる目的で設計されたのかもしれないが、王都が発展を遂げた今となっては、市民の一部しか受け入れられないだろう。


 王都の発展速度が早すぎて、王城の拡充などは間に合わなかったのだろう。

 ちなみに、トルリコ城のトルリコとは、この土地の古い呼び方だそうで、それがいつの間にかテリコに変わったんだそうだ。


「かぁ、随分と厳重な城だな」


 セルージョが言うように、トルリコ城の中に入るまでには、三重の堀を渡らなければならない。

 まず、城の東側から一番外の堀に沿って反時計回りに進み、北側の橋から堀を渡る。


 橋を渡ったら、二番目の堀に沿って反時計回りに進み、西側の橋から堀を渡る。

 更に三番目の堀に沿って反時計回りに進み、南側の橋から堀を渡って、ようやく城の内部へと入れる作りになっている。


「それだけ、魔物の脅威に備えてるんじゃない?」

「まぁ、意味ねぇけどな」

「えっ、なんで?」

「そらそうだろう、あの地竜だったら堀を渡って突っ込んで来るだろうし、ワイバーンは空から来るんだぜ」

「そう言われたら、そうかもしれないけど、レッサードラゴン程度だったら防げるでしょ」

「まぁな、てか、レッサードラゴンだったら、こんな堀は必要ないだろう」

「それを言ったら、元も子もないじゃん」


 確かに、地竜だったら堀を簡単に突破しそうだけど、それでも防衛手段としてある程度の効果はあるだろう。

 俺達チャリオットの来訪は、あらかじめ門番にも知らされていたようで、最初の橋でギルドカードを提示すると、そこからはノイラート家の騎士が先導してくれた。


「さすがは、ニャンゴ・エルメール名誉子爵様だな」

「やめてよ、セルージョ。そんなの柄じゃないんだから」

「王都でお姫様を危機から救い、ダンジョンで大発見をして、今度は竜殺しだ。ますます王族、貴族からは目を付けられるぞ」

「はぁ、気が重いにゃぁ……」


 三番目の橋を渡った先は、広大な庭園になっていて、城の建物は北側に集まっているようだ。

 玄関前の馬車が停まったところで、ステップで足場を作って、分かりやすく空中を歩いて降りた。


 そのまま玄関へと向かうと、恭しく頭を下げた鹿人の男性がいた。


「ようこそ、いらっしゃいました、ニャンゴ・エルメール卿。私はノイラート家の執事を務めております、エルガーと申します」

「ニャンゴ・エルメールです。ノイラート辺境伯爵にお誘いいただき、罷りこしました」

「ご案内させていただきます。パーティーの皆さまもご一緒に……」


 一人きりで案内されたらどうしようと思っていたので、ライオス達も一緒と聞いて胸を撫でおろした。

 玄関ホールを通り、西側の建物へと案内される。


 エルガーは東西に伸びる廊下を進み、左手の部屋のドアをノックした。


「旦那様、ニャンゴ・エルメール名誉子爵様がお見えです」

「入ってもらいなさい」

「どうぞ……」


 エルバーが開けてくれたドアの先には、会議室を思わせる大きなテーブルがあり、右手の奥には執務机に向かって書類に目を通している熊人の男性がいた。

 灰色の髪を短く刈り込み、ギョロリとした目や頑丈そうな顎からは意思の強さを感じる。


 年齢は三十代後半か四十代前半ぐらいで、ガッシリとした体つきをしていた。


「お初にお目にかかる、ニャンゴ・エルメール名誉子爵。私がブリストン・ノイラートだ。ようこそ、我が城へ」

「お招きいただきありがとうございます。冒険者として活動中なので、このような服装しか持ち合わせございません。ご容赦ください」

「構わない、楽にしてくれたまえ」

「ありがとうございます」


 ノイラート辺境伯爵は、俺達に会議室のような大きなテーブルを囲んで席に付くよう促すと、目を通していた書類の束を机の上に置いた。

 席を立ち、大きく伸びをしながら首を回すと、ボキボキと関節が鳴る音が響いた。


「いくつになっても書類仕事には馴染めんな。ペンを握っているよりも、剣を握っていた方が楽だ」

「地竜の討伐現場にも出ていらしたと伺いましたが……」

「あぁ、まさか、あれほど容易く城壁を破られるとは思ってもいなかったわい」

「一昨日、我々が討伐した地竜よりも大きかったのではありませんか?」

「いいや、大きさは殆ど同じだったと聞いている。違いがあるとすれば、人間の味を覚えているかいないかだろう」


 最初に現れた地竜は、モンタルボに突っ込むまえに、手前の村を全滅させている。

 そこで人間という名の獲物の味を覚えてしまったらしい


 一昨日の地竜は、穴から出た後、フェルスの血の臭いに惹かれてモンタルボまで来ていた。

 人間の味を覚えていなかったから、真っ直ぐに城壁に突っ込んで来なかったし、先に討伐された地竜の血の臭いを警戒して闇雲に突っ込んで来なかったのだろう。


「だが、それも時間の問題だったと聞いている。エルメール卿が倒していなければ、そのまま野営地に突っ込み、人間の味を覚え、また甚大な被害を引き起こしていただろう」


 せっかく補修した城壁を別の場所から壊され、街に乱入されていたとしたら、更なる復興費用が必要となっていただろう。


「よくぞ地竜を討伐してくれた、改めて礼を言わせてもらう、ありがとう」

「ブリストン様、どうか頭を上げてください、我々は自分の身を守るために戦っただけですから」

「だとしても、モンタルボの民を救ってくれた事に違いは無い。正直に言って、一頭目のような策略が通じていたかも不明だ。土の鎧を貫いて、地竜本体にダメージを与えられるような攻撃手段は我々には無かった。下手をすれば、モンタルボを破壊され、ここテリコまでも破壊されていたかもしれん」


 ブリストンさんは、言葉を切ると大きく息を吐いた。


「本当に、エルメール卿が居てくれて助かった。地竜が出てきた穴は、既に騎士団に命じて埋めさせた。ダンジョンの宝は魅力的だが、今のノイラート領には荷が重すぎる」

「そうですか、賢明な判断だと思います」

「うむ、その上で、エルメール卿に頼みたい事がある」


 ほら来たよ、髭がビリっとした。

 その頼み事って奴を聞かずに帰っちゃ駄目かにゃ。


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― 新着の感想 ―
ああ。頼みを聞くのはいいが―― 別に、それを断ってしまっても構わんのだろう? と言いたいところ。 まぁ最初から断るって姿勢じゃないにしても、頼まれる側に拒否権が無いとしたら、それは横暴だし何様だってい…
ボっちゃおうぜ!
 あれかな、フレイムランスを魔道具に、という話かな?
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