地竜を味わう
この日は、テリコ・ギルドの来客施設に宿泊できることになった。
ギルドマスターの代理を務めていたイスデラさんは、旧王都での俺達の功績も把握しているようで、地竜の出て来た穴の調査を依頼したいらしい。
ただ、俺達がノイラート領に留まれるのは一週間程度に限られるため、調査を終えられる保証がないので正式な依頼としては受注しない。
有用な情報が見つかれば情報料を支払い、特に目新しい情報が無い場合には宿泊費の負担だけという形に落ち着いた。
兎にも角にも現地に入らないと何とも言えないので、翌朝テリコを出発して、地竜が討伐されたモンタルボの街に向かうことにした。
酒場で情報を集めていたセルージョ達と合流して、野営のための買い出しに出掛ける。
今日はギルドの施設に宿泊できるが、モンタルボでは宿を取れる保証は無い。
復興特需に沸いている状態なので、むしろ宿を取れない可能性の方が高い。
一応、野営の準備は整えてきたので、買い込むのは食料ぐらいだ。
「セルージョ、そっちは何か新しい情報あった?」
「いいや、酒場にいた連中が、地竜の討伐やら出て来た穴やらの話を盛んにしていたが、どれも又聞きした情報ばっかりだったな」
「実際に、現地に行って戻ってきた人とかはいなかったの?」
「現地まで出向いた奴はいたが、配置された場所が離れていて討伐の場面は見られなかったらしい……てか、それも本当かどうか疑わしいけどな」
石積みの城壁を突き破るような怪物に遭遇したら、よほど手柄を立てたい者でなければ逃げ一択だろう。
冒険者は生き残って何ぼの稼業だ。
死んでも街を守る……みたいな考え方をするのは騎士とか官憲の係官とかだろう。
ましてや、相手はワイバーンよりも危険視されている地竜だ。
なのでセルージョは、現地に出向いて生きて戻って来た冒険者が、地竜と戦っていた可能性は高くないと思っているようだ。
「まぁ、冒険者が戦おうが逃げようが知ったこっちゃねぇが、それよりも気になるのは、誰しもが勇者カワードを知っていて、誰もカワードを知らねぇことだな」
「えっ、誰もカワードを知らない?」
俺の反応を見て、セルージョはニヤリと笑みを浮かべた。
「勇者になったカワードの話は、街で知らない者なんていないだろう。それじゃあ、勇者になる前のカワードはどんな奴だったんだって尋ねると、直接見知ってる奴が一人もいねぇんだよ」
セルージョの言葉を聞いた途端、背中の毛がぞわっと逆立った。
「まさか、カワードは実在しない架空の人物とか?」
「さぁな、そこまでは分からねぇが、伯爵家の下働きだったらしいとか、モンタルボで暮らしていたとか、地竜に潰された村の生き残りだとか、全部伝え聞いた話ばかりで、カワードなる人物と面識のある奴はいなかった。まぁ、ここのギルドの酒場だけだから、モンタルボに行けば知り合いは沢山いるのかもしれねぇけど、それでもちょいと引っ掛かるな」
ノイラート領に来るまでは、カワードが自爆を強制されたのではないかという疑念を抱いていたが、今度はカワードの存在自体が疑わしくなってきた。
勇者カワードへの称賛の陰に、どんな陰謀が渦巻いているのかと考えを巡らせていたら、シューレの一言で現実に引き戻された。
「でも、儲からないわ……」
「えっ?」
「秘密を暴いても、銅貨一枚儲からないし、逆に恨みを買うわ……」
「まぁ、シューレが言う通りだな、これだけ盛り上がっている状況に水を差したら、そりゃあ恨みを買うだろう」
「仮に秘密があるとしたら、間違いなく伯爵家絡み……」
シューレやセルージョが言う通り、これだけ大々的なキャンペーンが展開されている状況をみれば、ノイラート家が何らかの形で関わっているのは間違いないのだろう。
それを暴こうとすれば、最悪の場合には命を狙われるかもしれない。
だからと言って、辺境伯爵が自爆を強制していたとすれば、それを放置して良いものなのだろうか。
「ここで考えてたって答えは出ないわよ。調べるとしても、明日でしょ」
確かにレイラの言う通り、現場のモンタルボに行かなければ分からないことばかりだ。
野営のための買い出しをしながら、店の人にも聞き込みをしてみたが、返ってくる答えは、これまでに聞いたことのある内容ばかりだった。
買い出しを終えた後、夕食はギルドの酒場で済ませることにしたのだが、メニューの殆どが地竜料理だった。
高原ミノタウロスの肉を期待していたのだが、冒険者が地竜討伐に駆り出されてしまっていたので、取り手不足で入荷していないらしい。
それに、倒してしまった地竜の巨体を無駄にするのは忍びないということで、地竜の肉が出回っているようだ。
「ライオス、地竜の肉って美味しいの?」
「さぁな、俺も食ったことが無いから分からん」
「レイラは、地竜を食べたことある?」
「無いわ、でもワイバーンは美味しかったから、ちょっと楽しみね」
確かに、レイラが言うように、ワイバーンの肉は絶品だった。
ならば、更に貴重な地竜の肉は、さぞかし美味かろう。
「お待ちどう様、こちら地竜のソテーになります」
大皿に盛られた地竜のソテーは、牛肉のような赤身ではなく、鶏肉のような白身の肉だった。
香草を加えた塩で味付けされているようで、まだジュージューと音を立てている。
例によって、俺のポジションはレイラの膝の上なので、一口大に切り分けてもらうのを大人しく待つしかない。
「ねぇねぇ、レイラ、早く、早く」
「はいはい、でも熱そうよ」
「ふーふーすれば大丈夫だよ」
皿から立ち上ってくる香ばしい匂いが、空腹の胃袋を更に刺激する。
「ふー、ふー、はい、どうぞ」
「いただきます……熱っ、でも外カリカリで中は……ちょっとパサついているような……うみゃ?」
「あら、ホント、ちょっと期待外れかしら」
「うん、味は悪くないけど、パサついている……というか、この脂ってオークの脂じゃない?」
運ばれてきた時に、脂がジュージューいってたけど、どうもオークのラードをひいて焼いたみたいだ。
部位にもよるのかもしれないが、目の前の地竜のソテーは、鶏の胸肉よりも更に脂身が少ないのだろう。
不味くはないけど、びっくりするほど美味しくもないという感じだ。
「こちら、地竜の煮込みになります。熱いので気を付けてお召し上がり下さい」
続いて運ばれてきたのは、地竜のモツの煮込みだ。
「うわっ、分厚い……」
「これも切らないと駄目ね」
大きな鍋で運ばれてきた煮込みを、レイラが手元の皿に取り、切り分け始めたのだが、かなり手応えがありそうな気がする。
「ふー、ふー……はい、どうぞ」
「ありがとう、あにゃにゃ……熱っ……にゃ、にゃ、うにゃ……って、噛み切れにゃい」
「煮込みが足りないのかしら?」
「そうかもしれにゃいぃぃぃ……んぐっ」
煮込みに入っていたモツが、内臓のどの部位なのかなんて全く分からないけど、なかなか噛み切れない弾力があることだけは確かだ。
猫人の鋭い歯で噛みついて、ある程度の大きさまで噛み切ったら、あとは丸呑みするしかない。
「うーん……素材の問題なんだか、調理法の問題なんだか……」
「期待が大きかった分だけ失望しちゃってるんじゃない?」
「それもあるかもね」
確かにレイラの言う通り、ワイバーンの肉が美味しかったから、地竜なら更に美味しいのではないかと期待していた。
それに、滅多に手に入らない素材だけに、調理法が確立されていないのだろう。
肉は中華風の蒸し鶏みたいな感じで調理すればパサ付き感が減りそうだし、モツはもっと時間を掛けて煮込んだ方が良いのだろう。
うんみゃぁ……とは、ならなかったけど、地竜の味はそれなりに堪能できた。





