騎士団の尋問
レーブと共に騎士団に戻り、ただちに捕らえた二人の尋問を始めた。
最初に連れて来られたのは、ドゥエルと名乗って司祭と孤児の売買交渉をしていたオルデレスだ。
勿論、尋問を行う前に徹底した身体検査が行われ、自害するための薬物などを所持していないか確認済みだ。
小さな机を挟んで、レーブとオルデレスが向かい合って座り、その他に二名の騎士が立ち会っている。
俺は部屋の壁際から、尋問が行われている机を横から見守るように座っている。
「さて、最初にお前を何と呼べば良いのか教えてもらおうか?」
「さぁてね、何でも好きに……がはっ!」
オルデレスがヘラヘラと答えた途端、素早く立ち上がったレーブが鼻っ柱に拳を叩き込んだ。
立ち会っている騎士が椅子から転げ落ちたオルデレスに歩み寄り、助け起こすのかと思いきや脇腹に蹴りを叩き込んだ。
「がはっ……」
「お前、自分がどこに居るのか良く考えろよ」
「手前ら……うがぁぁぁぁ!」
四つん這いのまま悪態をついたオルデレスの股間を、もう一人の騎士が手加減無しに蹴り上げた。
「だからさ、良く考えろって言ってんだろ」
立ち会っている騎士は二人とも二十代前半ぐらいだが、声を荒げる訳でもなく、淡々と感情の感じられない声でオルデレスを諭している。
「五つ数えるうちに座り直せ」
「うるせぇ……があぁぁぁあぁぁぁぁ!」
四つん這いのまま、まだ悪態をついてみせるオルデレスの左手の指を、騎士の一人が踏みにじった。
長靴の踵で踏み付け、体重を乗せた状態でグリっと足を捻ると、何かが砕ける音がした。
「五……六……七……」
「待て、ちょっと待て……がっ!」
騎士の一人が、手にした警棒でオルデレスの頬を殴り飛ばした。
「待って下さいだろう? 舐めてんのか?」
「舐めてません、待って下さい……」
まだ名前を聞いただけなのに、オルデレスは既にボロボロだ。
「改めて聞くぞ、名前は?」
「オルデレスです。教会の連中にはドゥエルと名乗っていましたが、そっちは偽名です」
「なんで偽名を使ったんだ?」
「娼館との繋がりを気付かれないためです」
日本だったら即訴えられるレベルの取り調べだが、おかげでオルデレスは始まった直後とは別人かと思うほど素直に答え始めた。
「オルデレス、素直に答えれば痛い思いなんかしないで済むんだぞ」
「へぇ、すみません……」
「組織とクーネベルト商会の関係を話せ」
「は……話したら殺されちまう」
クーネベルト商会の名前を出しただけで、オルデレスはガタガタと震え出した。
そこへ打ち合わせ通りに、アーティファクトを使い録音ファイルを再生する。
『騎士に捕まった時点でお前は喋ると判断する。仮に処刑されずにシャバに出て来られても、組織が必ず殺す……』
「ベイツ! えっ……はっ?」
視線を向けた先にベイツの姿は無く、俺が座っているのを見てオルデレスは首を捻った。
そこへレーブが話しかける。
「オルデレス、お前とベイツの会話は把握している。話さなくても、もう殺されるのは確定なんだろう?」
「いや、俺は……嫌だ……死にたくねぇ」
「だったら話せ、話せば保護してやる。刑期を終えたら、どこか別の土地で釈放してやる」
「本当か? 本当なんだな?」
「別に信じなくてもいいぞ、なんなら、今すぐ娼館に送り届けてやろうか?」
「止めてくれ! 話す、話すから助けてくれ!」
ベイツが捕まった時点で裏切者だと言ってくれたおかげで、オルデレスを簡単に誘導出来た。
因みに、他の土地で釈放するなんて話は嘘だ。
どこの領地でも犯罪者など受け入れたりしない。
余程訳ありの貴族とかならば、まだ話は違ってくるのかもしれないが、裏組織の一構成員でしかないオルデレスが特別扱いを受けるなどあり得ない話だ。
「なるほどな……クーネベルト商会は、裏でソルタンドの上、フーバーと繋がってるんだな?」
「俺みたいな下っ端じゃ、直接見聞きした訳じゃないけど、孤児院から買い取ったガキはクーネベルト商会の別邸に運び込んだのは確かだ」
オルデレスの話によれば、旧王都の裏組織のボスであるフーバーと、クーネベルト商会の会長アルディレードは裏で繋がっているそうだ。
クーネベルト商会は、旧王都でも屈指の大商会で、世間からの信用も得ている。
その一方で商会の荷物と一緒に、フーバーから依頼された違法な薬物やその原料などを密かに運んでいるそうだ。
組織とすれば、クーネベルト商会の信用を使って疑われずに違法な品を輸送できる。
クーネベルト商会も、ダンジョンからの出土品が減って右肩下がりになった業績を割高な運賃によって穴埋めできる。
ウインウインな関係の中で、フーバーはアルディレードの幼児性愛趣味を満たすための子供を提供するようになったそうだ。
「孤児院から何人子供を運び込んだんだ」
「四人……いや、五人だ」
「その子供はどうなった?」
「知らねぇ! 俺の役目は子供を引き渡すところまでで、その先どうなったのかは知らねぇ……けど……」
「けど?」
「生きてはいないと思う……だって、まだ四つか五つのガキだぜ、大人と同じ行為を強制されたら……」
「クズが……」
「そうなんだ、あのクーネベルト商会の会長ってのは善人のふりして……がはっ!」
レーブは再び、オルデレスの顔面に拳を叩き込んだ。
「手前もだろが! 子供がどうなるのか分かって引き渡した手前も同罪だ!」
「そんな……俺は上から命令され……ぐぇ……やべて……うごぅ……」
倒れ込んだオルデレスを二人の騎士が無言で蹴り飛ばす。
死なない程度の強さで、長靴のつま先が太腿、腕、脇腹など、一番痛みを感じそうな場所を狙って食い込み、オルデレスは呻き声を上げて悶絶した。
ソルタンドが自殺した時には失敗したと後悔したが、ある程度は挽回出来たようだ。
オルデレスの尋問を終えたところで、別室へと移動してお茶を出してもらった。
「ありがとうございました。エルメール卿にご協力いただいたおかげで、スムーズに捕縛が出来ましたし、思っていた以上の大物が釣り上げられそうです」
「クーネベルト商会の会長も捕縛するんですよね?」
「はい。ただし、商会が一気に潰れれば大きな影響が出ますので、慎重に事を運ぶ必要があります」
「会長一人の責任にするのですか?」
「それは調べてみてですが……会長一人という訳にはいかないと思います」
「そうですよね。まさか会長本人が孤児を受け取っていたとは思えませんし、子供が死亡しているならば、その遺体を処理する必要もありますもんね」
「おっしゃる通りです。商会の内部にも、会長がやっている事を知っている人物がいます。それは孤児の件だけでなく、禁制品の密輸の件に関してもです」
動機がダンジョンにからむ不況だったとしても、法に背く行為は許されない。
しかも、違法な薬物はそれを使う中毒者を生み出し、社会全体に悪影響を及ぼす。
それを旧王都でも有数の商会が裏で手を貸していたとなれば、社会的な制裁は免れないだろう。
「あの、クーネベルト商会の会長って、どんな人物なんですか?」
「私も直接会ったことは無いので、世間一般の評判しか知りませんが、人格者だと聞いていますよ。それこそ、教会の孤児院に寄付をするような……」
「そのお金は娼館で遊ぶために使われ、孤児院から孤児を買い取るために使われ……結局は、クーネベルト商会の会長が孤児を買うために使われたようなもんじゃないですか」
「おっしゃる通りです。表向きがどんなに人格者であったとしても、幼い子供を毒牙に掛けるような奴は許すつもりはありませんよ」
「この先、クーネベルト商会の捜索に協力が必要な場合には、遠慮なく声を掛けて下さい」
「ありがとうございます。この度のご協力についても、当家から改めてお礼をさせていただきます」
ここから先の捜査については大公家に任せ、全てが解決した際には経緯を教えてもらえる事になった。





