表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

652/713

娼館の闇(前編)

 ギルドと冒険者側の最初の話し合いは、思っていたよりもスムーズに終わった。

 これまでとは発掘方法が大きく変わっていくので、かなりの紛糾も予想されていたのだが、見事な人選と話し合いの進め方で参加者全員が納得して終わった。


 今回の話し合いがスムーズに進んだのは、なんと言っても冒険者の人選だろう。

 未発掘の場所を発掘してお宝を探して来たヒュストなら、発掘に関する専門知識を持っているし、状況の変化も理解できる。


 そして、討伐をメインにしていた冒険者の代表であるベントレイは、性格的に単純で扱いやすい。

 アデライヤとヒュストの間に事前の打ち合わせが有ったかどうか分からないが、阿吽の呼吸で話し合いを進めていたように見えた。


「一応、今日の話し合いの結果を叩き台として、今後のどう発掘を進めるのか決めることになる。おそらく、ヒュストやベントレイは色々な者から質問されるだろうが、分かる範囲で答えてくれれば良い。当然、他の者からも意見を聞いて最終的な結論を出すことになるが、今日の結果から大きく変わることは無いと思っている」


 話し合いの中では、地下道の安全管理について大公家が協力する話も出たのだが、発掘に関して学者に協力してもらうのと同様に、冒険者の利益のために協力させるという論理でベントレイを丸め込んだ。

 実際、ギルドの職員が地下道の保安管理をするには人員が足りない。


 かと言って、冒険者に冒険者を管理させれば、当然のように揉め事になるだろう。

 物理的な強さも、魔法的な強さでも騎士団ならば不正を働く冒険者を取り締まれる。


 冒険者は発掘品の護衛や発掘する建物の危険排除などの専門職でなければ難しい所を担当し、金儲けに専念するんだと説明して、ベントレイも納得させた。

 残る問題は、今後ベントレイが誰かに入れ知恵されて、今回の決定に反対しないかだろう。


 武闘派のベントレイが、自分のパーティーや舎弟を巻き込んでくれれば良いが、逆に変に論破されて変節すると面倒そうだ。

 まぁ、今回の人選からすると、その辺りのトラブルについてもアデライヤは備えていそうな気はする。


 ギルド一階のロビーに降りると、大公家の騎士が入って来るのが見えた。

 騎士は俺の姿を見つけると、足早に歩み寄って来て見事な敬礼をしてみせた。


「エルメール卿、昨日は教会の捜索にご協力いただき、ありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ迅速な手配をしていただき感謝いたします。それで、俺に何か御用ですか?」

「はい、教会関係者からの聴取の結果を踏まえ、ご相談したい事柄がございます。お手すきの時に騎士団までご足労ねがいませんでしょうか」

「いいですよ、午後は予定はありませんので、これから伺いましょう」

「ありがとうございます。では、ご案内いたします」

「あっ、ちょっと待ってもらえますか。知り合いに子供を預けているので、ちょっと一言断って行きたいので……」


 大公家の騎士にロッカーの管理人室まで同行してもらい、ブルゴスさんに午後もナバレロとチターリアを預かってもらえるように頼んだ。


「では、行きましょうか。俺に声が掛かるという事は、まだ後ろ暗い事があったんですね?」

「はい、ここでは詳しく申し上げられませんが……」


 急ぐならば、飛んで行った方が早いけど、騎士は馬に乗って来ていたので便乗させてもらう。

 制服姿で騎乗する騎士の前に、ちょこんと座っているのは周りから見れば置物みたいだろう。


 鞍の上に直接座ると振動が強いので、空属性魔法のクッションを挟んでおいた。

 そう言えば、こうして馬に乗るのは、ゼオルさんとブロンズウルフの討伐依頼を出しにイブーロに向かった時以来だろうか。


 騎士団では、捜索の指揮を執ったレーブが待っていた。


「わざわざ御足労いただき、ありがとうございます。エルメール卿」

「いえ、ちょうどギルドで用事を済ませた所でしたので大丈夫ですよ。それで、俺に伝えたい事とは……」

「はい、どうやら孤児が売り払われていたようです」

「やっぱりか」


 前世の日本のような容疑者の人権への配慮は、シュレンドル王国では殆ど行われない。

 容疑者の地位が高い場合や、明確な証拠が無い場合には配慮されるが、今回のように孤児への虐待が明らかな場合には、厳しい取り調べが行われる。


 厳しいというか、殆ど拷問と言った方が良いだろう。

 ファティマ教の司祭や修道士が、どんな修行を行うのか分からないが、騎士団の取り調べに耐えられるとは思えないし、実際耐えられなかったのだろう。


「その売却先は例の娼館なんですか?」

「そのようです。ただし、娼館に連れて行かれたかどうかは不明です」

「どういう事です?」

「娼館の関係者が引き取りに来たようですが、そこから先はどこへ連れていかれたのか分かっていません」

「娼館への捜索は行ったのですか?」

「昨日、エルメール卿から孤児が居なくなっているという話を伺い、捕縛した修道士から供述が取れた時点で行いました」

「その結果は?」


 レーブは俺の問い掛けに、渋い表情で首を横に振ってみせた。


「まず、孤児を引き取りに来た男、こいつが孤児の売却については全ての窓口になっていたのですが、娼館にはそんな男はいないと言われてしまいました」

「それを信じろと?」

「不本意ですが、その男と教会関係者が面談した場所は教会だけで、娼館では顔を会わせていないんです」

「最初から捜索を受けると考えていた訳ですね?」

「そうです。それと、娼館で遊ぶ金をどうやって工面するか、これもその男が指南していたのですが……」

「存在しない男の話など知らないと?」

「おっしゃる通りです。娼館で行われていたのは、教会関係者から金を受け取って娼婦がサービスを行うだけで、何の違法性も問えない内容なのです」


 教会関係者に対して人身売買の手引きを行ったのは、中年の犬人の男だそうだが、特徴を聞き出そうとすると、全員が答えに詰まっていたらしい。

 髪は茶色、太ってもいないし、痩せてもいない。


 背丈も高くもなく、低くもなく、服装も毎回違っていて良く覚えていないようだ。

 要するに、どこにでも居そうな特徴の無い中年男だそうだ。


 ザックリと話を聞いただけでも、相当用心深い男が仕切っているのが分かる。

 長年に渡って旧王都で娼館を営んできたとあって、一筋縄ではいかない相手のようだ。


「それで、俺に何をさせたいんですか?」

「はい、正攻法では事態を打開できそうもないので、アーティファクトを使ってどうにか出来ないものかと……」

「うーん……アーティファクトですか」


 この世界の人々は、スマートフォンが何をする物なのか理解出来ていない。

 チャリオットのメンバーは俺が使っている様子を良く見ているが、それでも静止画、動画の撮影、再生が出来る道具程度の理解だろう。


 レーブもアーティファクトは何でも出来る魔法の道具とでも考えているのだろうが、この状況を簡単に引っくり返せるような代物ではない。


「難しいでしょうか?」

「ハッキリ言って、難しい……というか無理ですね。そんなに便利な機能は付いていませんよ」

「そうですか……やっぱりムシが良すぎますよね」

「とは言え、このまま悪党どもを野放しにするのも腹立たしいです」

「では、何か方法があるんですか?」

「いいえ、今の時点では思い浮かばないので、もう少し娼館の関係者について教えてもらえませんか? 名前とか、特徴とか」

「分かりました。少々お待ちいただけますか、間違うといけないので資料を持ってまいります」


 この後、レーブから娼館の場所や建物の作り、ボスの名前と容姿の特徴、腹心のプロフィールなど、分かっている限りの情報を聞き取り、対策を考えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
アーティファクトはやれば出来る子! 既存の機能を使ってどうすれば事件を解決できるのか考えるのは面白いですね。 執筆の邪魔になっちゃいかんので具体的に書いたりしませんけども。 それとも、今回はアーティフ…
監視カメラでも仕掛けて映像を面通しさせるとか…… でも量販店跡でもカメラ単品はまだ出土してないのですよね。
たかが娼館が使ってる人員にしては腕が良すぎるし、なんか裏でもあるのかなぁ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ