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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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クロに近づくグレー

「おかしいですね。ギルドからは既に二度、臨時の支援を行っています。ダンジョン崩落の直後は急に孤児の数が増えて混乱していると報告がありましたが、その後は収まったと聞いておりますが……」


 ギルドマスターのアデライヤに孤児院の状況を尋ねると、今は平時の状態に戻っているはずだと答えられた。


「大公家からも臨時の支援は出ているのでしょうか?」

「はい、孤児院は大公家、ギルド、ファティマ教会で支援を行っていますので、ギルドと大公家は歩調を揃えるようにしています」

「つまり、ギルドが臨時の支援を行う時には、大公家も同時に臨時支援を行うのですね?」

「その通りです。臨時支援については事前の打ち合わせをしております」

「だとすれば、資金的には問題は無かった事になりますね?」

「おそらく……不足があれば申し出るように伝えてありますので」


 ダンジョンの崩落事故は近年稀にみる大きな災害で、孤児院だけでなく多くの民衆、公共機関が混乱に陥った。

 今でこそ平穏を取り戻していますが、崩落直後には旧王都はもう終わりだ……などと言う人も少なくなかったそうだ。


「なるほど……だとすれば、ナバレロとチターリアが孤児院を逃げ出したのは混乱が収まる前だったのかな」

「だとは思いますが……ギルドからの支援は金銭だけで、実質的な運営はファティマ教会に任せてしまっています」

「ギルドが監査を行ったりはしないのですか?」

「現状では、運営状況に関する報告書をチェックするだけかと……」


 冒険者という稼業は自己責任……という考え方が強いせいか、支援はすれども運営には関わってこなかったらしい。

 金は出すけど口は出さないギルドは、孤児院からすれば良いカモだったのではなかろうか。


「という事は、十分だと思われる臨時の支援も行ったが、孤児院の現状がどうなっているかまではギルドでは把握していないのですね?」

「お恥ずかしい話ですが、そうなります」


 ナバレロの話を聞いた時には、急激な孤児の増加に対して支援が足りない状況が続いているのかと思いましたが、なんだか怪しくなってきました。


「確認ですが、ギルドは孤児院の運営に対して、注文を付けようと思えば付けられるんですよね?」

「はい、それは可能です」

「でしたら、これから孤児院に行ってみようと思うので、どなたか職員の方に同行してもらえませんか?」

「分かりました。すぐに準備をさせます」


 アデライヤが指示を出してから十分程で準備を整えて顔を出したのは、チャリオットが旧王都に転入する時に手続きを担当してくれた犬人の職員デニスだった。


「エルメール卿、よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「孤児院に行かれた事はございますか?」

「いえ、場所は聞いてますが、まだ行った事はありません」

「では、ご案内いたします……と言っても、私も中まで入った事は無いのですが……」


 ギルドの職員とあってデニスは旧王都の何処に何があるなどの情報は詳しいが、実際に内部まで把握している施設は多くないそうだ。

 それでも、一般人に比べれば遥かに多いし、決まった場所しか行かない俺とは雲泥の差だろう。


 孤児院に出掛ける前にロッカーに寄って、ブルゴスさんに引き続きナバレロとチターリアの世話をお願いする。

 俺が孤児院に行くと言うと、ナバレロが意外な事を口にした。


「エ、エルメール卿、もしあいつらが酷い生活を続けてたら助けてやってほしい」

「あいつらって、ナバレロに意地悪した連中?」

「そうだ。あいつらだって、親が居ないから孤児院に居るんだろう? 俺達よりも先に居たってことは、俺達よりも先に親が居なくなったってことだよな。可哀そうじゃん……」


 ナバレロの歳で、そんな事にまで頭が回るなんて、正直驚いた。

 俺がナバレロと同じ歳の頃には、カリサ婆ちゃんから薬草の知識を教えてもらい、早く一人前になる事しか考えていなかった。


 嫌がらせをしてくるミゲルや、取り巻きのキンブルやダレスなんて、どうなっても構わないと思っていた。

 ミゲルたちがコボルトの群れに襲われて炭焼き小屋に立て籠もっていた時は、深く考えることもなく動いてしまっただけで、ナバレロみたいに思いやりがあった訳ではない。


 こうした考え方が出来るのは、たぶんナバレロの両親の教えが良かったからだろう。


「行ってみないと分からないよ。もうちゃんとした生活をしてるかもしれないからね。それでも、もし酷い生活が続いているならば、早急に改善するように手を打つよ」

「頼む……ます」


 ペコリと下げられたナバレロの頭をポンポンと叩いてから、デニスを促して孤児院へと向かった。


「デニスさん、現在の孤児院の責任者って、どんな人物なんですか?」

「エンゲルスというファティマ教の関係者です。三年程前に一度だけ会ったことがありますが、四十代後半の温厚そうな馬人の男性ですよ」


 孤児院の収支報告で顔を合わせたそうだが、特に問題を感じるような人物ではなかったそうだ。


「ただ、やっぱり長く教会で過ごされているからか、ちょっと世間ずれしているというか、騙されやしないか心配になる感じでした」

「純朴そうな感じですか?」

「そうです、そうです。あっさり他人を信じてしまいそうな感じでした」


 ギルドなどからの支援は十分なのに孤児院の環境が劣悪と聞いて、責任者が横領とかしているのかと思ったが、デニスの話を聞くと騙されている可能性もありそうだ。

 いずれにしても、孤児院の現状を確かめないと何とも言えない。


 旧王都の孤児院は街道の東側、碁盤の目のようになっている区画にある。

 街道の西側にあるダンジョンを中心とした同心円状の区画が冒険者の街、街道の東側は金持ちが暮らすエリアだ。


 その一角にあるファティマ教の教会の裏手、木立で遮られたエリアに建つ小さな建物が孤児院だそうだ。

 孤児院へ行くには、教会の敷地を通らないといけないらしい。


「冒険者ギルドの職員デニスと申します。突然で申し訳ないのですが、孤児院の状況を確認するようにギルドマスターから命じられて来ました」

「しょ、少々お待ちください。ただいま、エンゲルスさんを呼んで参ります」

「それでしたら、我々が孤児院に……」

「いえ! すぐ、すぐに参りますので!」


 応対に出た教会の職員と思われる二十代ぐらいのヤギ人の男性は、デニスから来訪の意図を聞くと顔色を変えて飛び出していった。


「エルメール卿、これは嫌な予感がしますね」

「そうだね。まぁ、何も知らない振りで対応してください」

「かしこまりました」


 ヤギ人の教会職員が出ていってから、十五分以上経って一人の男性が教会の奥から出てきた。

 でっぷりと太って、頬が弛みきっている中年の男性だ。


「いやいや、大変お待たせいたしました。責任者のエンゲルスです」

「冒険者ギルドの職員デニスです。突然伺いまして、申し訳ございません」

「とんでもない! ギルドには日頃から多くの支援をいただき感謝いたしております」


 エンゲルスは姿勢を改めて頭を下げてみせたが、デニスから聞いていた純朴そうなイメージは欠片も無い。

 この三年の間に何があったのか知らないが、グレーな状況は着実にクロへと近づいている。


「今日は孤児院の状況の確認と伺いましたが、そちらにいらっしゃるのは、もしや……」

「はい、シュレンドル王国名誉子爵のニャンゴ・エルメール卿であらせられます」

「これは、お初にお目にかかります」


 エンゲルスは跪いて頭を下げてみせたが、芝居がかった動きで見るからに胡散臭い。


「あぁ、今日は一冒険者として同行させてもらってますので、気楽に接して下さい」

「それでは、仰せの通りにさせていただきます」


 立ち上がって法衣の膝に付いた埃を払うと、エンゲルスは旧王都の孤児院の成り立ちについて説明を始めた。

 説明の間、俺に向かって探るような視線を向けてきたが、時間稼ぎをされていると分かっているので苛立ちを見せるようなヘマはしない。


「では、孤児院にご案内いたしましょう」


 エンゲルスが俺とデニスに移動を促したのは、たっぷり二十分以上説明を続けた後で、その直前に最初に応対したヤギ人の職員が戻ってきてからだった。


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― 新着の感想 ―
まーたファティマ教か たまたま作者が便利使いしてるのか、それとも根っこから腐ってるのか
ファティマ教ねぇ・・・。支援金、反貴族派に流れてないといいのですが。
大公家、ギルド、ファティマ教会で支援している。 で、ファティマ教会がちゃんと管理していると大公家、ギルドは思っていたわけだ。 ファティマ教会は反貴族の盟主に利益吸い取られていた事もあるしそのうち組織そ…
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