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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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見習い騎士への指令 - 中編(オラシオ)

※今回もオラシオ目線の話になります。


 教官からの説明が終わり、担当区域を示した地図が配られて解散となった。

 教室を出ると、僕ら同室の四人は声を掛け合うことも無く、宿舎の部屋へ足早に戻った。


 口に出して言わなくても、みんな何をするのか分かっている。

 部屋のテーブルを四人で囲んだところで、ザカリアスが切り出した。


「ルベーロ、俺にも理解できるように噛み砕いて説明してくれ」

「分かった。まず、都外の住民に協力を求めるという作戦は、エルメール卿が提案したらしい」

「えっ、ニャンゴが……ごめん、続けて」


 僕の悪いクセが出て、ルベーロの話の腰を折ってしまうところだった。

 ルベーロは、苦笑いを浮かべた後で話を続ける。


「そもそも、騎士団は都外に目を向けていなかったらしい」

「どうしてだ?」


 ザカリアスの質問を目で制してルベーロが説明を続けた。

 それによれば、昨年と同様の砲撃が行われた場合でも、『巣立ちの儀』が行われるミリグレアム大聖堂の会場に届かせるには、第三街区よりも内側から砲撃しないと届かない。

 だから、射程の外になる都外は警戒の対象から外されていたらしい。


「じゃあ、どうして警戒の対象になったんだ?」


 トーレの問い掛けに、ルベーロは我が意を得たりとばかりに頷いた。


「『巣立ちの儀』の会場を襲う事だけを考えるなら都外は射程の外だけど、単純に王都を混乱させるためだけならば……どうだ?」

「なるほど、どこでも良いなら都外も射程の内側になるんだな」

「その通り、これもエルメール卿が指摘したらしい」


 思わず、また声を上げそうになったけど、その前にルベーロに指を差されて思い止まった。


「こうして、都外の警戒も行うことになったけど、さっき言われた通り都外は広い。騎士団は都内の警備に忙しいし、俺らが駆けまわったところで周り切れるかどうか……そこで、またエルメール卿が提案したそうだ」


 うん、これだけ続けば、さすがに僕だって驚いたりしないぞ。

 僕を指差したルベーロは、ちょっと残念そうな顔をした後で話の続きを始めた。


「騎士団の目も、騎士見習いの目も届かないなら、そこに暮らしている人たちの目を活用すべきだってね」


 僕ら騎士見習いの数と都外の住民の数では、どちらが多いかなんて言うまでもない。


「ただし、さっきも教官からくどいほど言われたけど、問題は都外の住民が俺たちに抱く感情だ。こんな言い方は良くないだろうが、都外の連中は平民の中でも最底辺に位置している」

「でも、僕らもまだ平民だよ」

「うん、オラシオの言う通り、まだ騎士見習いの俺たちの身分は平民だ。平民だけど、寝る場所にも、着る服にも、食う物にも困らない。毎日腹一杯飯が食えるなんて、都外の貧しい連中が聞いたら天国だぜ。まぁ、訓練は地獄みたいに厳しいけどな」


 思わず、ふふっと笑ってしまったが、確かに訓練は厳しいけれども、美味しい食事を毎回お腹一杯食べられるのは相当幸せな事なのだろう。


「自分らよりも裕福な生活をしている連中が、横柄な態度で不審者が居たら知らせろ……なんてやったら反発されるのは当然だな」

「気を付けてくれよ。俺たちの中ではザカリアスが一番ヤバいんだからな」

「ふん、自覚はあるが、別に脅すつもりなんか全く無いんだぞ。俺の顔が怖いのは生まれつきだ」


 いや、さすがに生まれつきではないと思うけど、ザカリアスに睨まれたら小さい子じゃ泣き出してしまうだろう。


「ザカリアスは、明日一日、優しい笑顔を作る特訓な」

「無茶言うな! 以前、笑うともっと怖いって言ったのはルベーロ、お前だぞ」

「あー……確かに言ったかもしれないけど、無茶でも何でも、やってもらわないと困るんだよ。それに、俺たちは失敗する訳にはいかないからな」


 ルベーロの一言で、緩みかけていた空気が引き締まる。

 僕らは一度、反貴族派の罠に引っ掛かって、危うく命まで落しそうになった。


 偶々、ニャンゴが助けに来てくれたけど、もしニャンゴが居なかったら、僕もザカリアスも殺されていたと思う。

 あの時も教官にコッテリと絞られたけど、それも生きていたから受けられた説教だ。


「あんな失態は二度と演じられない。入念に作戦を練って、全員無事に任務を遂行するからな」

「仕方ねぇ、笑顔の練習でもなんでもやってやる」

「オラシオもだぞ」

「えっ、僕も?」

「お前らみたいに体格が大きければ、それだけでも恐れられるんだからな」


 確かに、騎士訓練場に入ってから、縦にも横にも大きくなっている。

 本人には言ってないけど、会う度にニャンゴが小さくなってる気がするぐらいだ。


「ルベーロ、下見には行かないの?」

「下見かぁ……」


 ルベーロは、トーレの提案を聞いて考え込んだ。


「いや、行かない方が良いんじゃないか?」

「どうして? 事前の情報があった方が良くないか?」

「確かにそうだけど、休み明けの一日だけで終わる訳じゃない。何日か通って、ようやく住民との繋がりが出来るはずだから、慌てる必要は無いと思う。それに……」

「それに?」

「俺達、私服がバラバラじゃん。絶対に浮いて見えるし、むしろ俺たちが不審者扱いされかねないぞ」


 ルベーロの言う通り、僕らが街に出掛ける時の服装はバラバラだ。

 僕とザカリアスは、買ってもすぐ小さくなってしまうので、訓練用の運動着ぐらいしか持っていない。


 ルベーロは情報を集めるのに便利だからか商人みたいな格好を好み、トーレはカッチリした格好を好む。

 騎士見習いの制服で行ったら下見の意味が無いし、運動着でも素性はバレてしまうだろう。


「事前の情報無しに行くのは不安だな」

「トーレ、情報が何も無い訳じゃないぞ。俺達だって、日々の生活に困っている人を見たことはあるだろう。都外の人達は、それよりも酷い生活をしているぐらいの覚悟で行けば、そんなに大きな間違いはしないで済むはずだ」


 故郷のアツーカ村で、一番貧しい生活をしていたのは……と考えたら、ニャンゴの家が頭に浮かんでしまった。

 ニャンゴは、カリサさんの薬屋に出入りするようになってから、自分で洗濯したり、頻繁に水浴びするようになっていたけど、家族は何だか薄汚れていた印象がある。


 食事の内容も、そんなので足りるのかと心配になるほど少なかった。

 村の大人たちの中には、ニャンゴの一家を蔑んでいた人もいた。


 そういえば、ニャンゴは自分を馬鹿にしてくる人は敵視していたし、逆に親切にしてくれる人には人懐っこかった。


「ちゃんと、一人の人間として、対等に話をして、ちゃんと話を聞けば良いのかな?」

「うん、オラシオの言う通りじゃないかな。俺たちが困っている話ばかりしても、向こうは耳を貸してくれないだろう。だったら、都外の人達が困っている事を聞き取って、国に伝えるようにすれば良いんじゃないか?」

「そうだな、頼むだけ頼んで、そっちの言い分は聞きませんじゃ駄目だな」

「相手の話にも耳を傾けよう」


 僕が何気なく口にした言葉に、ルベーロも、ザカリアスも、トーレも賛成してくれた。

 週明けからの僕らの方針は、『相手の話に耳を傾ける』になった。


「ところで、ルベーロ。あの貴族のボンボンは大丈夫なのか?」

「あぁ、コリントか……大丈夫じゃないか。これまでに教官や同期の連中に、こってりと仕込まれてきたから」


 ザカリアスとルベーロが話しているコリントは、確か子爵家の三男のはずだ。

 訓練所に入所した当時は、貴族であることを鼻にかけて同期の平民を見下していたが、教官から身分の違いなど関係なくしごかれ、同期の平民にも遠慮する必要は無いとお墨付きがでたことで立場が一変した。


 貴族の息子で、魔力が人並よりも少々強くとも、訓練生の中に混じれば平凡な一騎士見習いでしかない。

 同室の平民とは何度も衝突を繰り返していたが、その甲斐あってか今では良いチームワークを築いている。


「でも、コリントが認めているのは同期の連中だけで、他の平民に対しては以前みたいな態度になりかねないんじゃないか?」

「そうか、その心配は無きにしも非ずだな」


 トーレが言うように、コリントは同期の平民に対しては、実力を認めているから普通に接するようになったが、外部の平民をどこまで尊重できるか分からない。


「不安は不安だが、コリントだって今までの経験から学んでるだろう。それに、同室の連中が付いてるから大丈夫だろう」


 ルベーロが言うように、僕ら以上にコリントと同室の者達が対応を考えているはずだ。

 コリントにしても、騎士への道が絶たれるような馬鹿な真似はしないだろう。


 僕らは翌日も自主練習を行いながら、週明けからの活動の対策を考え続けた。


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― 新着の感想 ―
[一言] いや久々に会った時に『ニャンゴ縮んでる』 って本人に言ってたしwww ボンボンでも未だ残ってる奴居るんだな… …不安要素!!
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