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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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四人の勢子

 地下牢に放り込まれた翌日、夜明け前に目を覚ました俺は、ストレッチから始めて入念に体を解した。

 ここまでの道中、馬車に揺られ続けていたのと、道化の振りをした程度で、体を動かしたのは山賊の襲撃を退けた時ぐらいだ。


 それも魔法で片付けてしまったので、殆ど動いていない。

 これでは、お腹がタプタプするはずだ。


 地下牢の広さは八畳程度で、そこに寝台が二つにトイレもあり、普通なら体を動かす場所など無いが、エアウォークを使えば話は別だ。

 昨晩盛り上がりすぎたのか、まだ起きる気配も無いピペトとエマを見下ろすように宙に浮いた状態で、空属性魔法で作った棒を使って基本的な動きを繰り返す。


 打つ、突く、薙ぐ、払う……足捌きも合わせて一通り動いたら、今度は身体強化魔法も使って最初から繰り返す。

 棒を振るのに夢中になっていたら、目を覚ましたピペトとエマが口をポカーンと開いて俺を見ていた。


 外から人が来ないか探知ビットはセットしておいたが、夢中になって棒が風を切る音を忘れていた。

 動きを止めて床に降りると、エマを庇うように抱えたピペトが訊ねてきた。


「あ、あんた一体何者なんだ」

「吾輩は道化のリゲルにゃ」

「なんで宙に浮いてたんだ」

「あれこそが道化魔法の神髄にゃ」


 なんて言ったところで、風を切り、宙を踏んで動き回っているのを見た後では、納得なんか出来ないだろうね。

 ピペトは、じーっと俺を見詰めた後で、新たな質問をぶつけてきた。


「俺たちを助けてくれるのか?」

「任せるにゃ。吾輩がここを出た後で騒ぎが起こると思うけど、慌てず、騒がず、待っているにゃ」

「分かった。言う通りにするから、俺とエマを助けてくれ」

「了解にゃ」


 俺とピペトが会話を終えるのを待っていたかのように、昨夜のウマ人の男が朝食を持ってきた。

 今朝は最初から、食事と呼べるレベル物が並んでいる。


「ちゃんと食って動けるようにしておけよ」

「心配要らないにゃ、期待は裏切らにゃいよ」

「裏切りやがったら……ぶっ殺すからな」

「吾輩に任せておくにゃ」


 ウマ人の男は疑わし気な視線を向けながら、何度も何度も念を押していった。

 朝食を済ませたら、寝台に横になって仮眠を取った。


 獲物が決まっている狩りを行うのに、金持ち連中が早起きなどするはずがない。

 仮眠を終えて、再度体を動かし始めた頃になって、ようやく執事の格好をしたイヌ人の男が姿を見せた。


「道化のニャンコロ、出ろ!」

「ようやくか、待ちくたびれたにゃ」


 イヌ人の男は、屈強なヒョウ人とクマ人の男を連れている。


「逃げようなんて思うなよ」

「にゃんで逃げる必要があるんだ? 吾輩に稼がせてくれるのだろう?」

「あぁ、そうだ。それでも貴族様がいると聞くと、ビビって逃げようとする奴がいるからな」

「吾輩に限っては、そんな心配は無用にゃ。貴族様も、金持ちの旦那衆も、みーんな楽しませてやるにゃ」

「はっ、せいぜい頑張るんだ。おい、連れて行け!」

「へい! こっちだ、ニャンコロ」


 ヒョウ人の男に小突かれながら、狩場の林の一番奥まで連れて行かれた。

 ウサギ狩りの狩場は、普通の林に比べて下草が刈り取られて見通しが良くなっている。


 おそらく、ここに獲物を追い込んで、弓矢や魔法で倒すようだ。

 本来の狩りは、自分も物陰に身を隠して、獲物に気付かれないように接近して倒すものだが、ここでは周囲の者が金持ちや貴族のためにお膳立てをするのだろう。


 その見通しの良くなった狩場のあちこちに、幹が赤く塗られた木と、青く塗られた木がある。

 赤い木と青い木の間、距離にして百メートルぐらいの範囲が俺の逃げるコースなのだろう。


 狩場の途中には何本か水路が掘られていて、馬一頭が通れる程度の幅の橋が架かっている。

 水路の幅は四メートル程度なので、大人ならば勢いを付ければ飛び越えられそうだし、ウサギなどの獲物ならば軽々と越えていくだろう。


 緩やかな斜面を登りながら、何本かの水路を渡って狩場の一番奥まで辿り着くと、そこにはイヌ人とウマ人の男が待っていた。

 四人のうちのリーダーらしいヒョウ人の男が、今来た方向を指差しながら説明を始めた。


「ルールを説明する。ここから幹を赤く塗った木と、青く塗った木の間を走ってゴールに向かえ。途中、旦那衆が弓や魔法を使って邪魔をしてくるから、それを潜り抜けてゴールにたどり着ければ、この大金貨十枚はお前のものだ」


 ヒョウ人の男は懐から革袋を取り出し、中から大金貨十枚を出してみせてから俺に手渡した。

 てっきり、大金貨十枚はゴールしたら渡してやる……とか言うのだと思っていたので、ちょっと意外だった。


「大事にしまっておけよ。途中で落としたら、ゴールした後でも拾えないし、戻って来ないからな」


 ヒョウ人の男が俺に忠告するのを他の三人はニタニタと笑いながら眺めている。

 あぁ、途中で金貨を落とした獲物が、必死に拾い集めている所を殺されたりしたのだろう。


 貧しい者にとって大金貨十枚がどれほどの価値があるのか、それこそ命を懸けるほど大切に思う必死さをこいつらは笑いものにしてきたのだろう。

 貴族に命令されて仕方なくやっているのであれば手加減してやろうと思っていたが、この四人については一切の手加減は必要ないようだ。


 ヒョウ人の男は、矢筒から矢を一本引き抜いて、その先を指差してみせた。

 矢の先に鏃は付いているが、先は丸くなっている。


「こんな感じで矢の先は潰してあるし、魔法も死なない程度に加減はされているはずだが、悪くすれば命を落とすことになるから気を張って逃げろ」

「にゃるほど……そっちの三人が背負っている矢も見せて欲しいにゃ」

「はぁ? いや、全部丸めてあるから心配要らねぇぞ」

「そうかにゃぁ……いつものウサギ狩りで使う矢筒と間違えてたりしにゃいのか?」

「し、心配ねぇよ! そんなドジは踏まねぇ!」


 なんて言いながら、さっきまでニタニタ笑っていた三人が、眉間に皺を寄せながら睨んできたら嘘だってバレバレだろう。


「それから、途中で止まったり休んだりしないように、スタートから一定の時間が経ったら俺たち四人が追い掛ける。俺たちに捕まった時点で負けだから、死ぬ気で逃げろよ」


 ヒョウ人の男が、先を潰した矢を俺の鼻先に突き付けてニヤリと笑うと、他の三人も再び意地の悪そうな笑みを浮かべてみせた。

 俺を扇型に囲んで見下ろしてくる四人に向かって、精一杯胸を張って牙を剥くように笑みを浮かべる。


「これはこれは、体格にも魔力にも恵まれた皆さんが、四人掛かりでこの非力な猫人めの相手をしてくださるとは……精々、足下を掬われないように気を付けるにゃ」

「なんだと、このクソ猫が!」

「やめろ、やめろ……スタート前に手を出すな」


 ウマ人の男が掴み掛かってこようとしたがヒョウ人の男が割って入り、上体を屈めて俺と額を突き合わすようにして睨みつけてきた。


「いつまで、その余裕が続くかな……そろそろ時間だ、用意しろ。鐘が鳴ったらスタート、二度目の鐘が鳴ったら俺達が追い掛ける。さっさと逃げないと、最初の水路も渡れずに終わっちまうぞ」

「ご忠告感謝するにゃ。でも、他人の心配よりも自分らの心配をした方が良いにゃ」

「クソ猫が……ぶっ殺してやる」

「おやおや、それじゃ旦那衆を楽しませられないにゃ。それでも、良いのかにゃ?」

「舐めやがって、吠え面かかせてやるよ」

「やれるものなら、やってみるにゃ」


 ヒョウ人の男がギシリと歯ぎしりをした直後に、遠くで鐘が打ち鳴らされた。

 さぁ、狩りの時間にゃ!


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― 新着の感想 ―
[良い点] わ~い、めっちゃ楽しみ~っ♪
[良い点] なかなか道化がサマになってきてるようなw しかし「虐げられた卑屈な猫人の道化を演じた方がいいかな」なんて言ってたはずだけどこれは卑屈か…?いや、自分を下にした発言をしつつ煽ってやがる…ww…
[一言] 首刈り兎の伝説が幕を開けてしまうのか…
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