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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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〇〇猫ニャンゴ

「エルメール卿にも変装をしてもらう」


 旅の支度を整えて、レイラと共に新王都の王国騎士団の施設へと出向くと、白かった髪を黒く染めたバルドゥーイン殿下に変装を命じられた。


「黒猫人の冒険者、即ちエルメール卿というイメージが、あまりにも世間に広まってしまっている。エルメール卿が名誉騎士、即ち王家との繋がりが深いということも知られている。となると、私が身分を変装をしても、エルメール卿が目立ってしまうと意味が無くなってしまうだろう」

「なるほど……」


 確かに、エルメリーヌ姫を守り抜いた『巣立ちの儀』を題材とした演劇が上演されるようになってから、エアウォークを使って歩いていると指を差されることが増えた。

 殆どの場合は、物珍しいとか好意的な視線だが、中には露骨に苦々しい視線を向けてくる者もいる。


 ダンジョンでの荒稼ぎに嫉妬する同業者であったり、レイラとイチャついていることを妬む野郎であったり、ロクな連中ではない。

 いずれにしても、空属性魔法を使う黒猫人の冒険者が目立つ存在なのは確かだ。


「でも、変装するって、どうするんですか?」

「これの逆だな……」


 そう言うと、バルドゥーイン殿下は黒く染めた自分の頭を指差した。

 毛色を変化させるのと、空属性魔法を使っていないように見せて、俺だと分からなくさせる計画だそうだ。


 そもそも、空属性魔法で固めた空気は雨が降ったり、埃が積もったりしなければ見えない。

 使い方さえ間違えなければ、空属性魔法でないと偽装する方法はいくらでもある。


「それに、エルメール卿はレイラと一緒の時には抱えて運んでもらっているのだろう?」

「にゃ、にゃんでそれを……」

「ふふっ、王家の情報収集能力を甘く見ない方がいいぞ」


 確かにダンジョン探索中、地上に戻って休息する時などは、レイラに抱えられて移動している事が多かった。

 ちゃんと重量軽減の魔法陣を自分に貼り付けていたから、レイラの負担は小さいかったはずだが、見た目的には格好の良いものでは無かった。


 そういえば、俺が嫉妬の視線を向けられていたのは、エアウォークで移動している時じゃなくて、レイラに抱えられて移動している時だった。

 というか、王家の情報収集能力が優れているなら、バルドゥーイン殿下が変装までして諸国漫遊なんてする必要無いんじゃないの。


 まぁ、今回の視察旅行は、半分以上がバルドゥーイン殿下の趣味なんだろうけどね。


「では、エルメール卿。染色しますので、こちらへ……」


 騎士団の担当者に連れられていった先は風呂場で、服を全部脱がされてしまった。


「にゃ、にゃんで?」

「グラースト侯爵領には温泉地が多いそうで、殿下は共同浴場への立ち寄りも希望されています」

「はぁ……そうですか」


 剣や槍を持ち込めない温泉という状況こそが、魔法での護衛を行う俺の真骨頂だから、顔だけ毛色を変えるのでは意味が無いという訳だ。


「それでは失礼いたしますね」


 毛染めを担当する騎士団の職員は、嬉々とした表情で俺の毛並みに薬剤を塗り始めた。


「二種類も使うんですね?」

「はい、色味が少し変わります」


 ちょっと酸っぱい臭いのする薬剤を、全身のあちこちに塗りたくられると段々不安になってきた。

 思えば、前世で高校生をやっていたころもカラーリングやブリーチは経験していない。


「ちょっと目を閉じていてもらえますか」

「はぁ……」


 顔や頭にも薬剤を塗られると、ますます不安が大きくなっていく。

 二種類ある薬剤を万遍なくではなく、あちこち部分的に塗られているのだ。


「このまま、少し時間を置きます」

「はぁ……」


 薬剤によって、体のあちこちがジットリと濡れた状態で、しかもちょっと酸っぱい臭いに包まれていると、何だかとても情けない気分になってくる。

 目を閉じているので、自分の姿を確かめられないから余計に不安だ。


 二十分程経過した後、薬剤を洗い流す許可が下りた。

 まずはお湯で薬剤を良く洗い流すと言われたので、担当者には離れてもらって自前の温熱シャワーを浴びた。


 シャワーの勢いを強めにして、毛にまとわり付いている薬剤を洗い流す。

 全身が濡れて毛が張り付いてくるが、酸っぱい臭いは薄らいでいった。


「にゃにゃっ! 毛が!」


 シャワーを一旦止めて、顔の水気を拭ってから目を開けると腕の毛色が変わっていた。

 艶々漆黒の自慢の毛並みが、白、黒、茶色のまだら模様になっている。


「エルメール卿、石鹸をどうぞ」

「ど、どうも……」


 石鹸を使って、もう一度全身を入念に洗い、よく濯いでから空属性魔法で作ったドライヤーで毛を乾かした。


「どうですか? ゴワゴワする感じは無いですか?」

「はい、大丈夫です」


 全身を映せる鏡の前に立つと、見慣れない三毛猫人が立っていた。

 俺が手を挙げると手を挙げて、尻尾を振ると尻尾を振る……当り前だが、間違いなく俺だ。


「にゃんだか、別人になった気がする……」

「はい、会心の仕上がりです!」


 担当者曰く、換毛期で毛が生え変われば、ちゃんと元の黒猫人に戻るそうだ。

 元に戻ると保証されると、なんだか妙に楽しくなってきた。


 確かに、この姿ならば俺がニャンゴ・エルメールだとは思われないだろう。

 部屋に戻ると、バルドゥーイン殿下も、レイラも、俺を見て満面の笑みを浮かべた。


「ふははは、すばらしいな。これならば、エルメール卿だとは思わないだろう」

「ホント、まるで別人みたい」


 レイラは見た目だけでなく、毛並みの感触も確かめて頷いていた。


「それでは、同行するメンバーに引き合わせよう」


 バルドゥーイン殿下から紹介されたのは、男性二人、女性二人の四人だ。


 熊人のルーゴと牛人のベスの屈強な男性二人が、用心棒役に扮する騎士で、バルドゥーイン殿下よりも年上に見えるベテラン騎士だ。

 犬人のドーラが毒物鑑定、狐人のアメリが治癒士だそうで、二人とも二十代後半から三十代前半ぐらいに見える。


 なんとなくだが、仕事や研究に没頭するあまり婚期を逃した……おっと、なんだか凄い目で睨まれたよ。


「全員、本名ではなく今回のための偽名だ。私のことはドルーバ、もしくは若旦那と呼んでくれ」


 バルドゥーイン殿下は、新王都のある商会の道楽息子という設定らしい。

 さすがに、こちらの世界にちりめん問屋は存在していないだろうし、年齢的にご隠居も無理があるから諦めよう。


「それじゃあ俺たちも名前を考えた方が良いのでしょうか?」

「すまない、偽の身分証を作る都合で、こちらで決めさせてもらった。レイラはイライザ、ニャンゴはリゲルと名乗ってくれ」

「リゲルですか……」

「気に入らなかったか?」

「いえ、大丈夫です」


 どこかの村の村長の馬鹿孫を思い出してしまう響きだが、身分証を作る都合もあるだろうし我慢しておこう。

 この後、明日の出発に備えての打ち合わせを行ったのだが、どうやら同行する四人は、バルドゥーイン殿下が外遊する時のいつもの組み合わせらしい。


 ルーゴとべスは殿下の近衛騎士だそうだし、ドーラとアメリも普段から殿下の健康管理を担当しているそうだ。

 そういう意味では、バルドゥーイン殿下に振り回されるのに慣れている人選という訳だ。


「ところで、殿下……じゃなくて若旦那。俺はどんな役柄なんですか?」

「リゲルには、道化を演じてもらう」

「ふぁっ? ど、道化……ですか?」

「といっても、芸を披露しろとは言わぬよ。イライザに抱えられていても違和感の無いように、道化とするだけだから心配しなくてもいいぞ」

「はぁ……」


 そう言われても、不穏なフラグを立てられているようにしか聞こえない。

 何か芸の練習でもしておいた方が良いのだろうか。


「俺の身分証での属性は何になっていますか?」

「リゲルは火属性にしておいた。刻印魔法を使えば、火属性のように装えるだろう?」

「はい。あっ、そういえば、若旦那はタバコを嗜まれますよね?」

「あぁ、少しな」

「では、タバコの火つけ役を務めますよ」

「ははっ、タバコに火をつけるだけの役割で猫人を雇うとは道楽息子らしくて良いな」


 俺としては、レイラが若旦那の愛妾役というのが少し気に入らないが、明日からは三毛猫道化のリゲルとして旅に出ることとなった。


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― 新着の感想 ―
ミケネコのオスってXXYだっけ? 発現体はオスだけど、遺伝子的にはどっちでもないってパターンだったような。
[一言] うっかり八兵衛枠(同意見多数かと思ったがまだそこまでじゃないか
[気になる点] 三毛の雄だ・・と 捕獲の準備をしなきゃ。 明日の三毛猫が居る世界線ならいいけど、もし珍しいなら絡まれる要素が発生しましたね。
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