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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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目立たないアーティファクト

 漂流船の底に封印されていたのは、巨大な人型ロボットと思われる物体だった。


「この下に大人の背丈の四倍以上もある人型の立像があるんでやすか?」


 俺の話を聞いたドブネルは、半信半疑という感じだ。

 しめ縄で封印を施してある扉は人間が使う大きさなので、そんな大きな物が入っているとは思わなかったのだろう。


「はい、そのような形をしていますが、もしかしたら動くのかもしれません」

「えぇぇぇ!」


 仮にロボットだとしても、何らかの操作をしなければ動かないが、ドブネルだけでなく他の人達も一斉に扉から離れた。


「あぁ、今すぐ動くという話じゃないですよ。関節部分が動くように作られているというだけで、恐らく今は動かない物でしょう」

「エルメール卿、アーティファクトなんですか?」


 恐れを抱いて扉から離れたドブネルに代わって、ケスリング教授が教授が興味津々と言った様子で近付いてきた。


「可能性はあります。船の加工技術は見事なものですが、この中の立像はもっと複雑な構造をしているように感じます。ただ……やはり破損しているような感じですね」


 探知ビットを使って内部の様子を確かめているのだが、目で見る感じではなく、手で触れて確かめる感じなので、材質とかまでは分からない。

 ただ、不規則なひび割れのようなものが感じられるし、そこから内部に侵入できてしまうので、壊れている可能性が高い。


「では、古代のアーティファクトを船の守り神として使っている感じでしょうか?」

「その可能性はありますね。これまでダンジョンから発見された物から考えて、先史時代の文明は魔道具によって栄えていたと考えられます。ですが、この船には一切の魔道具が使われていません。だとすれば、内部の立像が動くとしても魔力を必要とする魔導具であり、この船を動かしていた人達には修復したり動かすことの出来ない代物だったんじゃないですかね」

「遥か昔に栄えた、今よりも遥かに高度な文明の遺産を敬い、守り神として祀ると共に、船の重しにした……そんな感じですかね」

「そうですね。それは王都の調査隊が扉を開ければ、ある程度ハッキリするんじゃないですかね」


 俺としては、扉のしめ縄なんか取っ払って、今すぐにでも中身を確かめたいのだが、それは許可されないだろう。

 何よりも確かめたいのは、このロボが搭乗型なのか、それとも遠隔操作型なのかだ。


 先史時代の文明は、前世の日本よりも少し進んでいたように感じる。

 その時代の巨大ロボは、果たして本当に動いたのだろうか。


 何の支えも無しに自立して、役に立つ行動が出来たのだろうか。

 それとも、実物大の模型のようなもので、何かに支えられた状態で腕や足が動いていただけなのか……個人的には、アニメのように自立して動いてもらいたいのだが……。


 少なくとも、この機体は動かないのだろう。

 動くには船体を壊さなければ、出てこられないのだ。


 最終決戦兵器という可能性も無くはないが、確率的にはほぼゼロだろう。

 船を見た感じでは、文明レベルは魔導具が無い分だけシュレンドル王国よりも下で、火薬や蒸気機関が発明される以前という感じだ。


 俺としては、巨大ロボ以外は興味を惹かれなかったのだが、それはケスリング教授も同じのようだ。

 この後、港近くの店で昼食を共にしながら、サバリーやドブネルから追加の話を聞いたが、特段目新しい話は出て来なかった。


「エルメール卿、少しお伺いしてもよろしですか?」

「なんでしょう、サバリーさん」

「漂流船の持ち主というか、所属していた国とは貿易が成り立つようになるのでしょうか?」

「そうですね……将来的には、往来が行われるようになると思いますが、商売が成り立つかどうかは専門外なので、なんとも言えません」

「遥か南の未知の島まで行けるようになるのですか?」

「少なくとも、先史時代の人達は往来をしていたはずです。でなければ、アーティファクトに地図は残っていないはずです」


 ダンジョンで発見された写真集には、飛行機と思われる乗り物の写真が掲載されていた。

 海を越えて、観光旅行に出掛けていた人達もいたはずだ。


 現在のシュレンドル王国では、旅行をする人すら限られている。

 田舎の村に暮らす人の中には『巣立ちの儀』で街に行く以外、他の村にすら行かずに一生を終える人だっているのだ。


「空を飛んで、海を越えて行くんですか……想像も出来ませんね」

「あるいは、小さな街がそのまま載ってしまうような大きな船が作られる時代が来るかもしれませんよ」

「そんな大きな船が動くんですか?」

「空を飛ぶような力があれば、動いても不思議じゃないでしょう」


 豪華客船によるクルージングが行われる日も来るんでしょうね。

 というか、飛行機とか豪華客船とかの旅を味わいたいなら、俺が率先して情報を開示して文明の進歩を促進すれば良いのか。


 ただ、それをやると今以上に悪目立ちするのは間違いないだろうし、色んなところと軋轢を生みそうな気もする。

 昼食の後は、保管されている積み荷や乗組員の遺留品などを見せてもらうことにした。


 ドブネルは仕事に戻るそうだが、権利者であるサバリーは当然のように同行を申し出た。

 朝一番に顔を会わせた時には、不満たらたらといった表情をしていたが、今や笑いが止まらないといった感じになっている。


 単なる漂流船の積み荷が、莫大な富に変わる可能性が高まってきたのだから当然だろう。

 積み荷や遺留品は、港近くの倉庫に保管されていた。


 この倉庫は行政官が管理しているそうで、二十四時間体制の警備が行われているそうだ。

 普段は、取り締まりによって没収した禁制品や密輸品などが置かれているそうだ。


「こちらが漂流船の積み荷になります」


 サバリーが同行してくれているので、積み荷の箱を開けて織物や陶器などを見せてもらった。


「いかがですか、エルメール卿」

「うーん……こうした物の価値はサバリーさんの方が詳しいと思いますよ。シュレンドル王国で流通している物とは違うのですか?」

「はい、模様や形、色なども我々が普段扱っている品物と異なっています」


 サバリーは商売柄、シュレンドル王国の製品だけでなく、近隣諸国の品物も目にしているそうだが、積み荷の品はどこの国ものとも異なっているそうだ。


「刀剣の類もですか?」

「はい、乗組員が持っていた品物と同じ形をしていますので、実戦用の武器だと思われますが、刀身の幅が広いですし、反りも強いですね」


 シュレンドル王国で主に用いられている剣は、両刃の直刀が主流だ。

 武術が盛んなエスカランテ領では、日本刀に近い形の剣を愛用している人もいるそうだが、全体から見ると少数派だ。


 船に積まれていた剣は、アラビアンナイトに出てくるような片刃の曲刀だ。

 確かに、どの品物もイブーロや旧王都の店では見かけない物ばかりだが、魔導具やアーティファクトと思われる物は見当たらなかった。


「乗組員の遺留品はどちらでしょうか?」

「それは、あちらに置かれていますが、目ぼしい物はありませんでしたよ」


 積み荷や遺留品は、案内人のカディスだけでなく、行政官のアンジエルも立ち会って確認したと言っていたので、新たな発見は期待できないが念のため確認しておく。

 平船員の持ち物には期待できないが、船長なら何か持っているかもしれない。


「これは、望遠鏡ですね?」

「さすがエルメール卿、よくご存じですね」


 船長の遺留品の中には、真鍮製と思われる望遠鏡があった。


「精度はどうですか?」

「我々で試した限りですが、なかなか高いようです」


 綺麗に磨き上げられた鏡筒には、星や太陽をデフォルメした装飾が施され、目盛りや数字が刻まれている。

 手で持って、鏡筒をスライドさせて倍率を変えるタイプだ。


 船長の持ち物には、羅針盤や天球儀などもあって、天文学の知識は高いようだ。


「アーティファクトは無いようですね」


 どれも工芸品としての価値は高そうだが、ケスリング教授の興味を惹くものではなかったようだ。

 そんな中、一つの品物に目が留まった。


「カディスさん、これは……?」

「それは、船長が首から下げていたペンダントか、タグのようなものだと思いますが……まさか?」

「そのまさかみたいですね」

「エルメール卿、その模様は!」


 微妙な厚みのある金属製のタグの表面はツルツルの鏡面加工が施されていたが、裏側には魔力回復の魔法陣を当てる場所を示す模様が彫られていた。

 ダンジョンの発掘品で、何度も同じ模様を目にしているケスリング教授は、それまで退屈そうにしていた態度を一変させて、タグを覗き込んできた。


 詳しい機能までは分からないが、外見からすると充電可能なスマートタグのように見える。


「エルメール卿、これは何の役目を果たすアーティファクトなんですか?」

「さぁ? 機能までは分かりませんが、これがただの金属板でないことだけは確かでしょう」


 タグのサイズに合わせた魔力回復の魔法陣を作って魔力を充填してみようかと思ったが、単体では反応を確かめられないような気がする。

 そもそも、このスマートタグが正常に作動するかどうかも怪しい。


「他に魔導具は見当たりませんし、これに魔力を充填する道具もありません。もしかすると、船倉の立像と同様に、使い道は分からないが権威の象徴として使われていたのかもしれませんね」

「なるほど、それならば船長が持っているのも説明が付きますね」

「たぶん、ダンジョンの発掘を進めれば、これと同様の品物が見つかるんじゃないですかね。保存状態の良いものならば、正常に作動する可能性はありますよ」

「そうですね。こちらの調査は王都から派遣されてくる人達に任せましょう」


 色々と中途半端な形になってしまったものの収穫もあった調査は、これにて一旦終了となった。


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― 新着の感想 ―
船底にあった巨大ロボットはメインエンジンの役割があってそれを船長の所持しているタグで加減速の操作、舵で方向操作、港付近では自転車漕いで微調整してたのかな。
[一言] ナイツマとコラボ!?(違います
[一言] 巨大ロボット物に方針変更!?
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