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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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所有権

 漂流船の乗組員たちの遺体を検分した翌日は、船の内部を見せてもらえることになっている。

 宿で鰺っぽい魚の干物とご飯、ラーシのスープという和風な朝食を堪能した後、ケスリング教授、マシップ教授と共に港を目指した。


 一月の朝とあって、息が白くなるほどの冷え込みだが、今朝は風が穏やかなのでいくらか過ごしやすい。

 雲もなく日差しが降り注いでいるので、もう少しすれば気温も上がり始めるだろう。


「いやぁ、冷えますね」

「まぁ、船の中に入ってしまえば、そんなに寒くないでしょう」


 ケスリング教授もマシップ教授も、しっかりと外套を着込んでいるが、それでも顔の辺りは寒そうだ。

 俺は自前の毛皮があるし、口許と耳以外は空属性魔法の防寒着で覆っているから寒いどころかポカポカだ。


 これ以上に冷え込んだとしても、温風の魔法陣は何時でも作れるから寒さに苦しめられることはない。

 昨日、案内を務めてくれたカディスさんとは、港で待ち合わせている。


 宿からは行政官の建物に行くよりも、港の方が近いのだ。


「誰かいるようですね」

「漂流船の発見者じゃないですか?」


 教授たちが話しているように、漂流船を係留している港には、男性が二人待っていた。

 一人はでっぷりと太ったハイエナ人で、良い身なりをしている。


 もう一人は体格の良いアナグマ人で、こちらは労働者みたいな服装をしていた。


「おはようございます。お二人が漂流船の発見者ですか?」

「あんたらが調査に来た人なのか?」

「はい、ニャンゴ・エルメールといいます。よろしくお願いします」

「はっ? エルメールって……あの恋の巣立ちのエルメール卿か?」

「あー……その演劇は見ていないので、よくは分かりませんが、エルメリーヌ姫を襲撃から守って名誉騎士に叙任されたエルメール卿は俺です」


 王家の紋章が入ったギルドカードを提示すると、ハイエナ人の男性は驚いて頭を下げた。


「こ、これは失礼いたしました。私はカラーヤ商会を営んでおりますサバリーと申します。こいつは、うちの船の船長のドブネルです」

「ど、どうも……」


 俺が名乗る前は二人とも苦虫を嚙み潰したような顔をしていたが、名乗った後はヘコヘコと頭を下げてきた。


「今日はお忙しいところをお呼びたてして申し訳ありません。船を発見した時の話などを聞かせていただけると有難いです」

「とんでもないです。調査に協力するのは当たり前です。ただ……」

「ん? どうかされましたか?」

「発見した積み荷とかは、いつになったら引き渡してもらえるんでしょうか?」


 商会主のサバリーは、揉み手をしながら俺の顔色を窺ってきた。


「積み荷ですか……こちらは王家が判断するとしか聞いていないのですが、現状はどうなっているんですか?」

「それです、王家が判断すると言われたまま放置されてまして……」

「なるほど、所有権とかも決まっていないのですね?」

「はい、おっしゃる通りです」

「通常、漂流している船を発見した場合、船や積み荷はどういった扱いになるんですか?」

「持ち主が分かる船に関しては、持ち主に返却し、港までの曳航の手間として積み荷の半分を渡すことになってます」

「半分とは、随分割合が大きいんですね?」

「はい、船の場合は沈んでしまえば全てが海の藻屑ですから、半分でも戻ってくれば船主としては有難いのです。それに、港まで曳航するのは危険も伴いますからね」

「なるほど……持ち主が現れない場合には、どうなるのですか?」

「その場合には、全てが発見者のものとなります。この船は、船の形や積み荷などからしても、シュレンドル王国の船ではありませんし、私のものとなるはずです」


 サバリーとしては、手に入れた積み荷を早いところ換金したいのだろう。


「なるほど……我々は王家の代理人ではないので、船や積み荷の所有権に関しては決定する権限は無いのですが、積み荷の価値について少しお話ししましょう」

「積み荷の価値……ですか?」

「はい、サバリーさんは、この船が何処から来たと思われますか?」

「さぁ、かなり遠方からとしか分からないですが……」

「我々は、船に残されていた海図などから、この船は遥か南から来たと考えています」


 海図とスマホに残されていた地図を見比べて、船が出航した場所を特定した経緯について、スマホの地図も見せながら説明した。


「てことは、こいつは未知の大陸から来たってことですか?」

「おそらく、間違いないでしょう。調査が進んで、王家が認定すれば積み荷の価値は現在の数倍、あるいは数十倍になるかもしれませんね」

「そ、そんなに?」

「未知の大陸から流れついた船という話が広まれば、積み荷の価値は計り知れないものとなります。一部を王家に献上したとしても、残りの品物は莫大な利益を生むと思いますよ」

「おぉぉぉ……でかしたぞ、ドブネル」

「旦那、ボーナスは弾んでくだせぇよ」


 俺達を出迎えた時の仏頂面はどこへやら、二人とも満面の笑みを浮かべています。


「サバリーさん、しっかりと価値を認定してもらうまでは慌てない方が良いです」

「分かりました、そういう事情があるんじゃ仕方ありませんね」

「それと、ドブネルさんは、歴史に名を遺すことになるかもしれませんよ」

「うぇぇ、オラがっすか?」

「まだ、未知の大陸から来たと確定はしていませんし、その大陸は発見されていませんが、発見の切っ掛けとなるのは、間違いなくこの船です。船の発見者として、ドブネル船長の名前は語り継がれるようになるかもしれませんね」

「オ、オラの名前がっすか?」


 ドブネルは目を白黒させながら、夢見るような表情を浮かべてみせた。

 まぁ、このぐらい持ち上げておけば、調査にも協力してくれるだろう。


「申し訳ございません、遅くなりました」


 サバリーとドブネルの態度が軟化したタイミングを見計らったように、案内人のカディスが姿を現した。


「おはようございます、カディスさん。今、サバリーさん達から船や積み荷の権利について話を伺っていたところなんですが、取り扱いは王家が決定するとして、発見者としてサバリーさん達の名前は書面などに残されているんですかね?」

「はい、それは記録として残してございます」

「例えば、サバリーさんに対して公式な証明書のようなものは発行できますか?」

「証明書ですか?」

「えぇ、そうした書面が手元にあれば、サバリーさんとしても安心できると思うんですよ」

「なるほど……それは戻ってアンジエル様と検討させていただきます」

「よろしくお願いします。では、改めて船の発見当時の話から聞かせてもらえますか?」

「へい、分かりやした」


 ドブネルは漂流船の横へと移動して、船体を指し示しながら話し始めた。


「見ての通り、オラたちが使っている船に比べると舷側が低いし、キャビンも無いので遠くからは気付かなかった。近くに来て、ようやく船だと気付いたので、危うく衝突するかと思ったほどだった」


 ドブネルの言う通り、漂流船は大きなヨットのような形で、その上マストが折れてしまっていたので近付くまで存在に気付かなかったそうだ。


「近付いてみて、見た事もない形だし、人の気配が全くしなかったんで、乗り移って中を確かめて、誰も生き残っていなかったからタハリまで引いてきたんでさ」

「船内の品物とかは、持ち出したりしなかったんですか?」

「漂流船や積み荷を勝手に自分の物にすると罪に問われっから、中は確かめただけで持ち出していねぇっすよ」

「では、積み荷を降ろしたのは、行政府の立ち合いの下なんですね?」

「そうでさ」

「カディスさん、積み荷の目録のようなものはありますか?」

「はい、ございますが……御覧になりますか?」

「目録の写しをサバリーさんにお渡しするのは可能でしょうか?」

「それは……帰って上司に確認しないとなりませんが、おそらく大丈夫だと思います」

「だそうです、サバリーさん」

「ありがとうございます、エルメール卿」


 サバリーはがめつそうなイメージがあるが、船や積み荷の権利について神経質になる気持ちは、ダンジョンの発掘に関わっているので理解できる。

 物品の数、内容、俺達が発見したショッピングモールと思われる建物から発掘品を持ち出す際は、全て記録したチャリオットの人間が確認している。


 苦労して手にいれた品物を、何の苦労もしていない奴に横取りさせるなんて許せるはずがない。

 行政府とサバリー達、どちらに味方するんだと聞かれれば、俺はサバリー達に味方したいと思っている。


 ダンジョンも、海も、一攫千金の夢を追い求める方が面白い。

 ドブネルから発見時の話を聞き終えたら、いよいよ漂流船の内部へと入らせてもらおう。


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