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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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遺体調査

 タハリの行政官、アンジエル・カミウードは噂以上に有能な人物だった。

 王都の調査隊が到着するまでに、貴重な資料が散逸しないように助言をするのが俺達の目的の一つだったが、それに関しては心配は要らないだろう。


 アンジエルとの面談を終えて一度宿に戻った俺達は、昼食と着替えを済ませて午後から本格的な調査を始めることにした。

 当初は、資料の保存を促すために遺体と船体の二手に分かれて調査を進める予定だったが、保存の心配が要らなくなったので全員で遺体の調査から始める。


 乗組員の遺体は、教会の霊安室に棺に納めて安置されているそうだ。

 干からびた状態だという話だが、人間のミイラ化した遺体を見るのは正直気が進まない。


 冒険者として活動するようになってから、これまで何度も人が命を落とす場面に遭遇しているし、俺自身が命を奪ったことも一度や二度ではない。

 それでも遺体を積極的に見たいとは思えないのだ。


 教会には、アンジエルが手配してくれた案内役が同行してくれたおかげで、すんなりと霊安室へ通してもらえた。

 霊安室には、全部で七つの棺が置かれていた。


「こちらの棺が、船長と思われる人物です」


 七つの棺の蓋が開けられて、見比べてみると服装が異なっていた。

 船長と思われる人物だけ仕立ての良い上着を着ているが、他の六人は半袖、半ズボンだった。


 確かに、乾燥してミイラ状にはなっているが、完全に乾燥しきっている感じではなく、ハーフミイラといった感じだ。


「船員たちは、まだ若そうに見えますね」


 ミイラ化した遺体は皺くちゃで、元の年齢とかの判別が難しい。

 棺の外から眺めているだけでは違いが良く分からないのだが、マシップ教授には見分けがついているのだろうか。


 それよりも気になるのは耳の位置だ。


「本当に、頭頂部に耳が無いですね」

「ええ、その通りです、エルメール卿。この耳の位置は、サル人に近い感じですね」


 ミイラ化した遺体の耳の位置や形は、いわゆる人間のように見える。

 あとは尻尾なのだが、全員棺の中に仰向けに寝かせられているので、背中側の様子が見えない。


 この国の人間ならば、尾てい骨のところから尻尾が生えているのが当り前だ。

 ズボンやスカートにも尻尾を通す穴が作られているし、遺体となっても尻尾が無くなる訳ではない。


「背中側を見られませんか?」

「遺体が脆くなっていますので、今の時点で棺から出すのは難しいです」


 マシップ教授の当然の要求は、案内役によって却下されてしまった。

 王都の調査隊が到着するまでは、遺体や船体に手を加える調査は許可できないと、アンジエルから言われたが、これでは尻尾の有無を確認できない。


「遺体が崩れなければ良いのですよね?」

「そうですが、本当に遺体が脆くなっていますので、動かすだけで損壊する恐れがございます」

「崩れないように、周囲の空気ごと固めるという方法ならどうかな?」


 空属性魔法で固めた空気の中に、ミイラ化した遺体を閉じ込めてしまえば崩れる心配はないだろう。


「分かりました、その方法なら許可しますが、遺体が崩れそうになった場合には中断させていただきます」

「では、やってみますね」


 空属性魔法を使って棺内部の空気を固めると同時に、ミイラ化した遺体に念のために重量軽減の魔法陣を付けておいた。


「では、持ち上げますよ」

「お願いします」


 固めた空気を操作して、ゆっくりと棺の外へと持ち上げる。

 棺の底と遺体の間に隙間が出来た所で、補強のために遺体の背中側の空気を更に固めた。


「おぉぉ……」


 ゆっくりと棺の中からせり上がってきた遺体を見て、マシップ教授だけでなく案内人までもが感嘆の声を上げた。

 そのまま遺体を持ち上げて、マシップ教授のお腹ぐらいの高さで固定した。


 遺体の周りの空気を固めてしまっているので、手で触れることはできないが、透明だから観察するのには問題は無い。


「ちょっと撮影しちゃいますね」


 スマホを取り出してカメラ機能を起動させ、遺体を上下左右から撮影していく。

 前世の頃に使っていたスマホよりも機能的にもっと進歩しているように感じるので、もしかすると写真を撮るだけで3D映像を合成する機能とかありそうだが、今は使えない。


 霊安室は薄暗いので、背中側を撮影する時には明かりの魔法陣を発動させた。


「服の中を調べてみないと分かりませんが、外から見た感じでは、尻尾を切除していないのだとすれば、元々尻尾の無い種族である可能性が高いですね」


 マシップ教授は慎重に言葉を選んでいるが、要するに服を脱がしてみなければ分からないと言っているのだろう。

 遺体が穿いている半ズボンには、尻尾を出すための穴が開いていなかった。


 この後、残りの六人の遺体も持ち上げて確認してみたが、いずれの半ズボンも尻尾を出す穴は無く、尻尾を持たない種族であった可能性は高まった。


「ここから先は、衣服を脱がせてみないと判断できないので、新王都からの調査隊を待つしかありませんね」


 マシップ教授は言葉とは裏腹に、調査を打ち切るしか無い状況に不満を抱いているように見える。

 ただ、服を脱がせれば全て解決となるのだろうか。


「マシップ教授、仮にですが、元々は尻尾がある種族が、幼児のうちに尻尾を切り取る措置を受けていたら、元々尻尾が無い種族との違いが分かるものでしょうか?」

「確かに、それは難しい質問ですね。幼児の頃に尻尾を切除した場合、痕跡の判別は難しいと思いますが、それでも何らかの痕跡は残ると思います」

「それは、解剖しないと分かりませんよね?」

「そうです、解剖して骨格を確かめるしかありません」


 結局、遺体に関しては、先史時代の人類である可能性が限りなく高い……というところまでしか、現状では確かめられなかった。

 ここで、この日の調査は終了にして、明日は船体の調査を行うことにした。


 案内人とは、明朝港で合流する約束をして宿に戻る。

 風呂に入ってから、夕食を共にしたが、やはりマシップ教授は不満そうだった。


「いやぁ、学術的資料が目の前にあるのに、これ以上の調査が出来ないのはもどかしいです」

「遺体は七体もありますし、今のうちに要望を出しておけば、一体ぐらい回してもらえるんじゃないですか?」

「そうですね。調査で判明したことは全て共有すると約束すれば、可能性は十分あるでしょうね」


 夕食後、マシップ教授は行政官に宛てた要望書の作成に取り掛かるそうだ。

 要望の可否を決定するのは王家だが、行政官の面子を潰す訳にはいかない。


 アンジエル・カミウードに宛てて要望を出し、それが王家に伝わって可否を判断される……という形にならないと、後々調査の妨害などが起こらないとも限らないのだ。


「正直、面倒ですよね?」

「まぁ、今回は遺体の保存状態も良さそうですし、一刻を争う状況でもないので、気長に待ちますよ」


 マシップ教授は苦笑いを浮かべてみせた。

 たぶん、こんな感じで調査が滞るのは、初めてではないのだろう。


 俺達も、ダンジョンが崩落したことで発掘が止まってしまっている。

 アクシデントや人間関係、やはり世の中は思い通りに行くことばかりではない。


 明日からの船体の調査は、どの程度まで進められるのだろか。

 隠しアーティファクトでも見つかれば面白いと思うが、アンジエルが指揮して調査したのであれば、何か新しい物を見つけられる可能性は低いような気がする。


 それでも、未知なる土地からの使者ともいうべき人々が使っていた船の内部には興味がある。

 明日の調査に備えて、今夜は早めに眠るとしよう。


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